魂魄石と精霊
お待たせしました。
本当にお待たせした人が居るのかは分かりませんが。
――――パキッ――――パチパチ――――
赤い炎に薪が爆ぜる音で目が覚めた。
少し体が重い感じがして身動ぎすると、お父さんが隣に寝ているのに気付いた。お父さんの左手を自身の枕代わりにして、右手はあたしのお腹の上にあった。体が重いのはこのせいか。
外はまだ暗いので夜明けまではまだ時間があるのだろう。起こさないようにとそっとお父さんの右手を退かしながら白い部屋での事を思い返す。
黒猫が言った事が確かなら魂の精霊との繋がりが出来てるはず。まずはこれを確かめてみる。
あまり大きく動くとお父さんを起こしてしまう可能性があるから、頭は少しだけに止めて眼だけで辺りを確認する。特に変わった様子はないし、白い部屋で見たあたしそっくりな魂の精霊の姿も見当たらない。
そしてふと気付いた。
「魂魄石……って言ってたっけ」
握ったままの左手にある小さな石の感触。ほんのりと温かいそれを目の前に翳してみる。平ぺったい卵形の石で、細くなってる方の先端には紐を通せるような穴が開いている。とは言うものの、石自体がさして大きくはないので穴の大きさも推して知るべしというもの。糸のように細い紐か針金のような物でないと難しいんじゃないかな?
しばらく暖炉の火に翳してみたりしたけど、あたしそっくりな魂の精霊とやらとの繋がりは全く分からなかった。しっかり握って念を込めて呼んでみたりもしたのに……がっかり。
無くすと大変な事になるかもしれないと思い、腰のポーチに手を伸ばす。中からお財布として使っている小さな革袋を取り出して、それの中に魂魄石を入れてポーチに戻す。裸のままポーチに入れてしまうと隙間から零れ落ちたりするから、コインや宝石みたいな小さな物は革袋に纏めてから入れるのが無くさないコツだったりするんだよね。取り出すのはちょっと手間だけど。
魂魄石を仕舞ってると、お父さんが目を覚ました。ゴソゴソやってたのに気付いたみたい。
「リューオ、目が覚めたんだね。急に倒れるからびっくりしたよ」
「ご、ごめんなさい」
思わず謝ってしまう。そんなあたしの頭を、お父さんが優しく撫でてくれた。
「どこも痛くはないかい? 気持ち悪いとことかは?」
「大丈夫、ちょっとお父さんの秘密の話でフラッシュバックを起こしただけだから」
「ふらっしゅばっく?」
聞き慣れない単語だったんだろうお父さんが鸚鵡返しに訊ねる。
「んとね、あたしも、お父さんと同じような転生者なんだって。記憶自体は思い出せてないんだけど、それに関係する言葉で不意に前世の記憶が頭の中で暴れて、体が一時的に処理出来なくなって倒れたって感じかな」
あたしの言葉にお父さんは目を見開いて硬直する。
自分の子供までもが転生者だと聞かされれば当たり前なんじゃないかな。
あたしはお父さんの目を見詰め続けると、お父さんは覚悟を決めたかのような顔で話始めた。
「もしかして、リューオも銀色角鹿にあったのかい?」
「んーん、銀色角鹿には会わなかったよ。代わりに黒猫には会ったけど」
「そうか……。で、リューオにも何か使命があるのかい?」
「んー、あたしの場合は特に何もしなくて良いって。あたしの存在自体が周りに良い影響を及ぼすから、強いて言えば生き続ける事が使命? あと、魂の精霊とかいうのとの繋がりを結ばれたから、お父さんから精霊魔法を習えって言われたかな」
「……なるほど。まぁ、精霊魔法は元々教えるつもりだったから良いとして、魂の精霊ってのは初耳だなぁ」
お父さんの言葉にあたしは、仕舞ったばかりの魂魄石を取り出して見せる。
「この魂魄石に宿る精霊なんだって。性分化の儀式を行う洞窟にも大きいのがあって、儀式で選ばれなかった性別の精霊が生まれてくるって言ってたよ」
「……驚いた……リューオそっくりな精霊なんだね」
お父さんの視線は魂魄石の少し上に向いてた。多分そこに魂の精霊が居るんだろうなぁ。あたしにはまだ見えないけど。
それからしばらく、お父さんは魂の精霊と話をしてた。そしてあたしに精霊が見えるかどうか聞いてきたので、素直に見えないと告げた。
精霊は魔力の塊ではないらしく、その存在を魔力の動きとして見る事は出来なかった。これはお父さんの魔法のカラクリを知った今だからこそ分かる。精霊が魔力の塊だったら、魔力の塊をお父さんの周りに見れてなきゃおかしいしね。
じゃあ、どうやって精霊を見れるようになるのか?
お父さんが言うには「精霊達が気に入れば祝福されて見えるようになる」らしいんだけど、どうやったら気に入られるかは精霊によってまちまちなんだって。そこら辺は人間と変わらないね。
お父さんが仲介する形であたし似の魂の精霊にお願いしたところ、大喜びで祝福してくれた。まぁ、元々魂レベルで絆が結ばれてる精霊だけあって、断るという選択肢は初めから存在しなかったんだと思う。
こうして精霊を視認出来るようになったおかげで、お父さんが連れ歩いている精霊達も見れるようになった。
火の精霊はホタルみたいな小さな虫で、お尻だけじゃなく体全体が陽炎のように揺らめきながら発光している。人差し指を近付けると指先に停まってくれたんだけど、火の精霊っていうから熱いのかと思ったらそんな事はなくて普通に虫みたいだった。つい口が滑ってその事をお父さんに話すと、火の精霊は指先から転げ落ちて地面でぴくぴくしてた。ごめんね、火の精霊さん。悪口を言った訳じゃないの。
すぐに素直に謝ったら許してくれた。
お父さんが言うには、他にも火の帽子を被った小人みたいな火の精霊も居るんだとか。ただ、人型の精霊はあまり祝福してくれたり、力を貸してくれたりはしないんだって。何て言うの? 気位が高い?
水の精霊は意外にもトカゲで、体中にトゲトゲが付いててそこに水滴がぶら下がってた。体の表面には細かい模様の筋がびっしり張り巡らされてて、そこに水が表面張力で蓄えられてる感じ? 魚じゃないんだ……っていうのがつい口に出ちゃって、これまた水の精霊さんが落胆して謝罪する羽目に。学習しないのか、あたし!
土の精霊は物凄く小さい牛で、全長は20センチ程で体中が岩に覆われてた。2本の立派な角が生えてるから雄だと思う。あの角で突かれたらとっても痛そう……と思ったけど、さすがに今回は自重した。指先で頭を撫でてあげたら嬉しそうにしてた。
風の精霊はトンボみたいな翅を持った小人だった。結構レア? お父さんの肩の上で笑顔を浮かべながら手を振ってる。
お父さんが祝福された精霊で、転生する前からの付き合いなんだって。銀色角鹿が気を利かせてくれたんだとか。
あたしの魂の精霊と似たような感じなのかな?男の子っぽい見た目だし。
ちなみに、黒猫が言っていた精霊の内、雷と光と闇はまだ精霊石を見付けてないから居なかった。精霊石は、赤・青・黄の透明度の低い平ぺったい石と、緑の透明度の高い平ぺったい石の4つが、人目に付きにくいようにズボンのベルトの内側に縫い付けてあった。
お父さんが言うには、この4つの属性精霊だけでも大抵の魔法を擬装出来るんだって。傷口を塞ぐヒールなんかは割りとどの属性の精霊でも出来ちゃうみたい。火属性と水属性は自己治癒力の増加で、土属性と風属性は傷口の上から蓋をする感じらしい。
「しかし、魂魄石か……。儀式の洞窟のカオマニーの所まで行かないとダメかな。この石はリューオと繋がってて僕にはどうしようもないから」
あたしの魂魄石と魂の精霊を見詰めながらお父さんが呟く。他に入手手段はないのかもしれない。
「しかし、魂魄石を採取するとなると、いずれ性分化の儀式に影響が出そうなのは確定的かぁ。長は許してはくれないだろうなぁ」
お父さんが項垂れる。
そんなお父さんの頭を、あたし似の魂の精霊がぽんぽんと優しく叩いて慰める。他の4種の精霊達も労るように寄り添う。
う、羨ましい……。
「取り敢えず、リューオが精霊魔法を使えるようにならないといけないね」
「はいっ! ……どうすれば良いの?」
あたしの声に、お父さんは体を起こして胡座をかいた。あたしも体を起こしてきちんと座ると、背筋を伸ばした。
「まず大事なのは、精霊はそれぞれに出来る事と出来ない事があるっけ事なんだ。例えば、火の精霊には水は出せないし、土の精霊には風を起こす事は出来ない。だから、どの精霊にどんな事が出来るか? ってのは充分理解してなくちゃならないんだ。そして、精霊は自分とは違う存在だから、何をしてほしいのかをキチンと伝えないといけないんだ」
「村の人にお願い事をするのと同じ?」
「うん、同じだね。ちゃんと伝えきれてないと精霊も迷っちゃって何も出来なくなるんだよ。だから、予め『こういうお願いの時はこうして』ってのを精霊と話し合って決めておくんだ。そうすれば間違いも誤爆も少なくなる。だけど、お父さんと風の精霊みたいに深い絆が結ばれてると、その場で柔軟なやり取りをして突発的な効果を及ぼしてもらう事も出来ちゃったりするから、なるべく精霊達とは仲良くなっておくと良いよ」
お父さんの言葉に、精霊達が一斉に頷く。その様子が可愛くて、つい思わず皆を撫で回した。
「まぁ、リューオと魂の精霊には強い繋がりがあるみたいだから、その辺は心配してないかな。それに、精霊との信頼度が高くなっていくと、精霊が進化する事もあるんだよ。火の精霊達は今はまだ動物や昆虫みたいな見た目だけど、いつかは風の精霊みたいな妖精みたいな見た目に進化させたいんだ」
そう言って、お父さんも精霊達を撫でる。精霊達はとても気持ち良さそう。明らかにあたしの時とは表情が違う。
「基本的な事はこんな感じだね。あとは精霊達にお願いする時に使う『精霊語』を習得出来さえすれば、精霊達を通じて色んな事が出来るようになるよ。ただ、その『精霊語』の習得が一番の難関なんだけどね。なにしろ、『精霊語』は普通の人には聞こえないし話せないんだ」
「じゃあ、どうすれば良いの?」
「とにかく精霊達と一緒に居て、声を聞き取れるようになるしかないね。その魂魄石を肌身離さず身に付けておいて魂の精霊の声が聞き取れるようになれば、自然と『精霊語』を話せるようになってるはずだよ」
そう言いつつ、お父さんは鞄から革紐を取り出して、あたしの手にある魂魄石をペンダントにしてくれた。それをあたしの首に掛けてくれる。
それを見た魂の精霊は、あたしの頭の上に移動してきて踊り出す。
何はともあれ、時間を掛けて『精霊語』を習得するしかないね!
リューオは精霊達を見れるようになった!
精霊使い見習いになった!
しかしレベルは上がらなかった……。




