闇に覆われた街
ライザの腕に通されたのはあの本に綴られているような文字が刻まれた腕輪だった。
「この腕輪はフエルテっていう装備者の身体能力を上げる物よ。けど、今のままだと能力が低いままだから使いこんで能力を上げていく必要があるんだ。今の説明でわかった?」
「わかった…けどどんな感じで身体能力が上がるんだ?」
「よし、じゃあ今からそれを見せるからよく見てるんだぞ。」
ラシェルは立ち上がると2、3歩前に進むといきなり空中へと跳び上がった。
彼女は空中で体を捻ると着地し更に高く跳び上がり体を重力というものを感じさせない動きで自由自在に操る。それはまるで体操選手さながらの動きだった。
「すご……!」
ライザは彼女の見せる華麗な動きに魅入ってしまっていた。
「どう?今ので大体想像ついたか?」
ラシェルはストンと地面に着地し短く息をつく。
「すげえなそれ!俺も使い込めばラシェルみたいに動けるようになんのか?!」
ライザがフエルテに興味を強く惹かれたのも、元々先程のラシェルのようなアクロバットな動きに密かに憧れていたからだ。
「あぁ、ライザ次第でな。」
ラシェルはウインクをして見せる。
「マジで?!じゃあやってみるよ!!」
「案外単純だな…」
ラシェルは小声でつぶやきながらクスッと笑った。
しばらくの休憩の後、再び2人は目的地に向けて歩き始めた。
そして、陽が丁度黒と蒼の境目にかかりその身を半分黒雲に隠す頃、ようやくラシェルの言う目的地に辿り着くことが出来た。
辺りは夜のように静まり返り上を見上げれば星のない暗雲が空を覆う。
ラシェルから先程聞いた話しによるとこの街はイノセンシアという街で、イルシオン帝国の高位の貴族、ギルバート家が治める街なんだそうだ。
だからなのか街が高い塀に囲まれている。
だからライザ達はその門の前に立たされているわけで、この高い堅牢な塀と不吉な黒い空…
今からまるで魔王の城に乗り込むような気分だ。
「ホントに暗いんだな…」
「あぁ、最近至るところでこういう現象が起きてるんだ。」
ライザからしたら何が何だかという感じだが、確実に物事が何か悪い方向へ向かっているのだけは分かる。
「おい!誰かいないか?!」
ラシェルは街の門の内側に向かって叫んでみる。
しかし、通常なら返ってくる筈の応えが返ってこない。
「やっぱなんかあったのかな?」
ライザの言うその可能性は容易に予想出来た。
「さぁな…ったく、門番ぐらい配置しとかないのか?この街は…!」
ラシェルは舌打ちしながら腰の道具袋から何かを探り出している。
「何やってんだラシェル?」