初めての夜 新しい朝
その夜、2人はシエスタの宿に一晩泊まることになった。
なにはともあれわけも分からない内に異世界のレベリエまで飛ばされたがラシェルに会えて無事にこの日を終えることができる。
「ところでライザ、武器は何が使えるんだ?」
となりのベッドに仰向けになって寝転がるラシェルが質問してくる。
「いや、だから…武器なんて使えねぇし、使ったこともねぇから…」
しかし、武器屋がこんな小さな街にもあるという事はレベリエでは武器が普通に日常で使われているということだろう。
「じゃあ、なんで私と最初に会った時抵抗出来たんだ?」
「ん?俺、キックボクシングやってるからだよ…って言ってもわかんねぇか。」
「なんだそれは?」
ラシェルが体をベッドから起こしてライザを見ながら首を傾げる。
「武術のひとつみたいなもんだよ。一応一通り技術は身につけてはいる。まだ未熟だけどな…」
ライザは苦笑いを浮かべる。
「なるほど、なら次から戦闘に加われ。」
「ちょっと待て!?その調査って戦うことあんの?!」
ライザは勢いよく体をベッドから起こす。ラシェルの調査という時点で怪しいとは思っていたが、予想通り戦う羽目になりそうだ。
「騒ぐなライザ、心配しなくても戦い方だったら私がちゃんと教えてやる。……ところでライザ、ずいぶん距離が近いな?もしかしてムラムラしてるの?」
気が付けばライザはラシェルのベッドに上がり彼女に詰め寄っていた。
そして、それを見て悪戯な笑みを浮かべるラシェル。
「じょ…冗談やめろよ!っていうか、俺達同じ部屋っておかしいだろ?!」
ラシェルは気にしている様子ではないが、当のライザは女性があまり得意ではない。
「フフッ…冗談よ!ライザはからかい甲斐があるな!」
「か…からかうなよ!俺もう寝るからな!おやすみ…!」
恥ずかしさに耐えきれなくなったライザは急いで自分のベッドに戻り、ラシェルに背を向けて横になる。
「ああ、おやすみ。寝坊するなよ…」
夜が明け、新しい朝。ライザはいつも通り眼を覚ました。カーテンを開けると柔らかな朝陽が窓から注ぐ。体調も悪くはない。今日は何かいいことがありそうな予感がする。
そう、別の世界に飛ばされてさえいなければ……
「はぁ…おいラシェル、朝だぞ起きろ~。今日は調査に行くんだろ?」
ライザは毛布から出た彼女の細い肩を揺する。
「ん~…あと5分……」
ラシェルはベッドの反対側にモゾモゾと移動する。
「昨日調査に行くぞって言ったのは誰だよ?ほら、起きろー!」
ライザは無理やりラシェルの体を覆う毛布を剥ぎ取る。
「キャアッ!ライザのエッチ~!」
ラシェルは衣服を脱がされたように恥ずかしそうに体を丸めた。
「いいから起きろよ…」
そのやり取りの後、2人はダラダラと準備を終え。昨日ラシェルの言った街へと出発した。
「ライザ、そろそろ休憩にしよう。」
3時間程歩いただろうか、ラシェルがそう提案した。
ライザは彼女の提案に返事をし近くの木の下に2人並んで腰を下ろした。
「なぁラシェル、俺達こんなとこで呑気に休憩してていいのか?調査があんだろ?」
ライザは自分達の向かうべき目的地の上に漂う雲を指差す。今ライザ達のいる場所はあの不気味な黒雲と空の蒼が混じる境界線になっているようだ。
「まぁそんな急ぐなってライザ、あまり急ぎ過ぎて疲れてしまったら肝心な時に動けなくなるだろ?むしろそっちのが危険じゃないか?」
ライザからしたらあまり納得は出来ないが、きっとラシェルはこういうことには慣れているはずだから一応彼女に従おう。
「そうだライザ、ちょっと腕出して。」
ラシェルがライザに体を寄せると彼女から漂う甘い香りがライザの鼻を包む。そして、彼女はライザの腕をとって彼の腕に何かを通した。
「何コレ?腕輪…?」