誰かを助ける理由
そして、ラシェルに無理やり連れられて来た武器屋?らしき店はライザの元いた某電気街のそういう店よりそれらしい雰囲気を醸し出していて棚には本当に重量感のあるような鎧や一劇で敵を絶命に至らしめることが出来そうな武器がビッシリと並べられている。
聞けば中二病が喜びそうな夢の国だが、今のライザにはそうは思えない。模造品にはない殺気のようなものがこの本物の武器からは感じられるからだ。
「おいラシェル、俺このレベリエで使える通貨持ってないんだけど?」
そうライザが止めるのも構わずラシェルはテキパキと装備品を手に取っていく。
「そんなこと気にするなライザ。金なら私が払うから。」
ラシェルはライザに背中を向けながら選び続ける。
「なぁ、なんでラシェルは見ず知らずの俺にそんなことしてくれるんだ?」
その質問を投げかけると、今度はラシェルはライザの方に手を止めて体を向けた。
「ん?じゃあライザの世界では知らないところに丸腰で放り出された人は助けないのか?」
嫌味や批判というのでもなくラシェルはただ純粋にそうライザに聞いてきた。
「え…?それは…」
考えてしまった。ラシェルの言った状況はまず体験はしていないが、似たような状況はいくつもあった。それを抜きにしても彼女の親切にも似た助けはライザにとって久しぶりに味わったものだ。
「ふーん…ま、そうじゃなくてもライザには私の調査に付き合ってもらうからな。」
「は…?調査って何の?」
聞き慣れないというか予想だにしない言葉にライザは聞き返す。
「あー!何でもない!さ、これ着てみろっ!!」
ラシェルは彼女の腕一杯に抱えた装備品をライザに押し付け無理やり試着室に押し込んだ。
3分後、ライザは着慣れない服装に四苦八苦しながらも全ての装備を着終えた。
「ラシェル、カーテン開けていいぞ。」
カーテンの向こうから返事が帰ってきてカーテンが開く。
「おっ!似合ってるじゃん!ちょっと待ってて!支払い済ませてくるから!」
そう言ってラシェルは店員の男の元へ走って行った。残されたライザは試着室に取り付けられた鏡に向き直り自分の姿を確認する。
「重いなこれ…」
装備の重さに体が地面に引っ張られるような感じがする。
ライザの両手は指の部分が出ているレザーグローブに肘より下の外側が殆ど装甲で覆われている。胸の部分もチェストプレートに覆われ、下半身は黒のブーツに脛から足の甲まで鋼で守られている。他の部分は灰色のカーゴパンツのような物と黒のインナーという姿だ。
「絶対動きにくいだろ…」
そう思いながらラシェルの元に向かうが彼女は何やら店員の男と話しているようだ。
「なるほど、だんだん近づいて来ているか……」
ラシェルは顎に指を当てながら頷く。
「あぁ、あとは奇妙な奴らがそこで彷徨いてるらしいから気をつけな…」
ラシェルはもう一度頷き店を出て行った。
「ラシェル、さっき店の人と何話してたんだ?」
ライザは店を出たラシェルを追って聞いてみた。さっきの様子からするとあまり良い話ではなさそうだった。
「聞いてたでしょ?ほら、上を見てみて。」
そう言ってラシェルは彼女の細長い指を空へと向けた。
「見てみろって…曇ってんな、明日雨降んのかな?」
確かに空は曇っている。だが今にも空が泣き出しそうな風の生暖かさはなく、鉛色というより本当に暗雲と呼ぶに相応しい真夜中の空のような黒雲だった。
「ライザ、あっちを見て。」
ラシェルは今度は指を遥かこの街から離れた丘の上にある薄暗い闇に覆われた街を指差す。
「ん?なんであの街夜でもないのに街に灯り付いてんだ?」
この世界は時差というものが土地によってバラバラなのだろうか?
向こうの丘の上に見える街はこの街より暗い。まるで深夜のようだ。
「これから私達は今言ったことの原因の調査に行くんだ。分かってくれたかしら?」
彼女の眼差しはこの暗雲を前にして真剣なものへと変わっていた。
「え?!さっき言ってた調査ってこれのことかよ?!俺ついてくの?!」
「そうよ、今のライザには帰るとこがないだろ?だから一緒についてこい。」
彼女の言ってることの方がこの状況においては正しい、というより反論はさせてくれそうになさそうだ。