守る者の逆鱗
先頭に立っていた男が挑発するように一歩前に出た。
「だから何で子供達が人質みたいになってるんすか?」
ライザも負けじと聞き返す。
「俺達のことを騙しておいてよく言うな?」
「フエルテも持っていないのにドルミール遺跡に向かうなんて危険だとは思わなかったのかい?」
「それに遺跡の仕掛け、とっても難しかったですよ?」
ラミエルとメリナは自分達で出した見解を話したが到底彼らがそれを理解するとは思えない。これがもし、逆の立場だったら同じ反応をしているかもしれないわけだが。
「うるせぇっ!!俺達をバカにするとどうなるか教えてやる…!?」
先頭に立つ男は顔を燃え盛る太陽より真赤に爆ぜらせ剣を振り上げると子供達から悲鳴が上がる。
「マズイ…!」
ラシェルが男の剣が振り下ろされるのを阻止するために腰のホルスターのナイフに手を伸ばす。
「待ちなさい。」
ソフィアが一歩前に進み出て声をあげると、一瞬孤児院の建物の周りの木々を揺らしていた風が沈黙を浮かべた。
「何だ?かわいい子供達の前で俺達に手をついて謝る気にでもなったか?」
少し心に余裕が生まれた男は顎を少し上げてソフィアを見下すように見る。
「それで貴方達の気が済み、この子達が守られるのならそうしましょう。」
ソフィアは凛として男達と向き合った。
「なるほどな…考えてやらないこともないぞ?」
先頭の男が嗜虐の高笑いを浮かべるとその感情は他の仲間達にも広がっていく。
「ッ…!!」
それに我慢が出来なくなったライザはフエルテに手をかざして男達に向かって行こうとすると、またラシェルに制された。彼女は首を横に振って、ソフィアに視線を移すようにライザに促す。
「そうですか。愚かな人達…」
ソフィアはゆっくりと一歩を踏み出しながら淡い桃色の唇を微かに動かして左手を右腕へと導いていく。
「ほらどうした?早くしねぇとガキ共の命はねぇぞ?ギャハハハハッ…!」
男が下品な高笑いをあげると、周りの木々が何かを感じとったようにざわめき始め、一気に空気が張り詰め始める。ライザは心臓が何か冷たい物に締め付けられるような感覚を味わった。
「罪も無く、ただ社会に偏見を持たれるこの子達を、無知からこの子達を傷付けようとするなら、私は貴方達を許しません…!」
一歩ずつゆっくりと近づくにつれ彼女を包む青い光が強さを増し、今まで穏やかだった彼女の瞳は狂気を感じる程鋭く突き刺さるようなものになっていく。
「ま、待て!冗談だって…そんなに本気で怒ることないだろ…?!」
男達は押し寄せてくる彼女の冷たい殺気に腰を抜かして這うようにして後ずさる。
「ここで私が貴方達の望むようにしても貴方達はまた同じことを繰り返すでしょう。そして、貴方達が私の大切な子供達を傷つけようというのなら、貴方達が二度と彼らに手出し出来ないように貴方達を…」
ソフィアの殺気が爆発するのと同時に彼女を纏う青い輝きが男達へと迫っていく。
「う、うあああぁぁ…!!?」
男達は脱力してしまった体に僅かに残る力を振り絞って、裏返った声を上げながら振り返りもせずに逃げていった。




