夢じゃないけど夢じゃなかった
ライザは今自分が夢を見ているのだと疑った。きっといつも見る悪い夢だと。
しかし、思い返して見るとたしかにここへ眼を覚ましラシェルと戦って彼女に蹴られ痛みを感じている。
安易な判断だが…
「ってことは…夢、じゃない……?!」
ライザは頭を抱えた。こんなことはマンガかライトノベルの世界の出来事だと思っていた。確かに一度ぐらいは体験してみたいなぁ…ぐらいには思ってはいたが。
「大丈夫?もし迷ったならこれから私は近くの街に行くけどついて来るか?」
ラシェルはライザの顔を覗き込みながら言った。
「はい…」
ライザはそうするしか方法がないと思い彼女に従った。
「えっと…じゃあライザは私達とは別の世界から来たっていうことかしら?」
「そういうことです…」
ライザは頷くが聞いているラシェルはさほど驚いた顔を見せていない。
「なるほどな…ますます面白くなってきたな!」
「あのぉ~…ラシェルさん?自分は全然面白くないんですけど…」
彼女はライザの必死を他所に単純に楽しんでいるようだ。
「わるいわるい!分かってるさ。」
「で、自分が別の世界に来てしまったってことはわかったんですけど。ここはどこなんですか?」
改めてライザはラシェルに聞いてみた。
「あぁ、ここはトパールの森だってことはもう言っただろ?ここはイルシオン帝国って国で、ここはレベリエって呼ばれる世界だ。」
たしかに彼女はふざけた感じだがこればかりはウソを言ってるようには見えない。
「どうすりゃいいんだよ……?」
ライザは突き付けられた現実に膝に手をついてうな垂れた。
「そんなに落ち込むなって!私が帰れるように手伝ってやるから!」
どうやら深刻さはラシェルには伝わっていないようだ。
だが、見ず知らずの自分を助けてくれるというのだから彼女についていくしかなさそうだ。
2時間後ライザとラシェルは予定通りに近くの街に到着した。
街に並ぶ建物はライザが過去にヨーロッパを訪れた時に眼にしたような煉瓦造りで古くて背が低い建物ばかりだ。
それを見ると改めて自分が異世界に飛ばされてしまったのだと思い知らされる。
「あ~…すみません、ラシェルさん?ここはどこなんですか?」
ライザはラシェルの後を早足で追いながら尋ねる。
「ここはトパールの森の近くのシエスタという街だ。しっかしどうしたライザ?そんなかしこまって!もっと楽にしていいのよ?」
ラシェルはライザの肩を少し乱暴に叩く。
「もしラシェルって呼ぶのが嫌だったら"ご主人様"か"お姐さま"とお呼びなさい!」
ラシェルは少し曲げた指の背を口の端にあててポーズを取る。
「自分を執事か弟にでもするつもりですか…?じゃあラシェルでよろしく…」
「え~?つまんないの~!私弟欲しいのよねぇ、ライザ弟っぽいから!」
ライザはラシェルが以外な事を言っていると思った。
「いつも俺老けて見えるって言われんのにな…」
ライザは乾いた笑いを浮かべた。
「ところでライザ、お前の服装はここら辺では見かけないな。」
ラシェルはライザを上から下まで見回しながら言う。
それもそのはずだ、彼の服装は白のポロシャツにジーンズなのだから。
彼女がそう思うのもおかしくはないだろう。自分は異世界の住人なのだから。
「よしっ!それじゃ、ライザの装備を整えに行くぞっ!!」
ラシェルはライザの腕を掴んで走り出す。どうやら自分には拒否権は無いみたいだ。