哀しき答え
石人形は呻き声を上げた。そして石の部分と斧の刃がぶつかり合う音と一緒に何か筋を絶つような音が聞こえた。
「あっ!腕が…!?」
ラミエルが短く声をあげると、皆の視線が人形の左肩に集まった。
「やっぱり…!みんな、このお人形さんの関節部分の筋を狙って下さい!そこが弱点ですっ!!」
メリナは人形の残った右腕の反撃を受け止めながら叫ぶ。
「よくやったなメリナ!…ライザ、私のことはいいからあの人形を止めてくれ…!」
ラシェルは力のあまり入らない腕で自分の体を支えるライザの腕を優しく押す。
「…分かった。それじゃあこれ、借りてくよ。」
ライザはラシェルをそっと床に座らせると彼女の腰のホルスターからナイフを一本引き抜いた。
「メリナ!そのまま持ちこたえててくれ!!」
「は、はいっ!!」
メリナは返事を返すと斧を持つ両手にさらに力を込めた。それに呼応して人形の腕にも力が入り刃と石の腕がゴリゴリ音を立てて鎬を削り合う。
ライザは人形の背中側に回るとトンファーを人形の顎にあたる部分から右肩に引っ掛け、無理やり顎を上げさせると人形の体を形作る石と石の間を繋ぐ紅い筋のような物が見えた。
「ッ…!!」
ライザは右手に持ったナイフでその筋を断ち切ると人形の紅い筋は糸が切れるような音を立てて切断された。
「グヴゥゥ…」
石人形はさっきと同じような呻き声を上げて、体を構成していた石が体からガラガラと崩れ落ちてバラバラになってしまった。
「ふぅ…びっくりしたわ…」
ライザは息をついて石人形の残骸を見下ろす。例え人形とはいえど首にナイフを当てて、筋を断ち切るのはあまりいい気分はしないものだ。
「ラシェル、大丈夫ですか?」
メリナは人形が動かなくなったのを確認すると、持っていた斧を杖に持ち替えてラシェルに駆け寄る。
「あぁ、ちょっと油断していたみたいだな…」
ラシェルは苦笑いを浮かべながらメリナの治療を受けると、強打を受けた腕からはみるみる赤みが引いていった。
「ラシェルはメリナに治療してもらうとして……ライザ、リュク、ボク達は謎解きの続きをやろうよ。」
ラミエルはライザとリュクを再び文字が刻まれた壁の前に集めた。
「でも、やっぱりわかんないよ~!」
リュクは両手でガシガシとぼさっとした頭を掻く。
「あのさ、俺思うんだけど…この彼氏本当は彼女のこと恨んでんのかな?」
「え?どういうこと?」
リュクは頭を掻く手を止めて、文字を見下ろすライザの少し曇った顔を覗き込んだ。
一方のライザは中々口が開けずにいた。何かで口に枷をされているかのようだった。その枷にあえて名をつけるとしたら罪悪感、とでも言うべきだろうか。とにかく、ライザが自分の中でその答えに至ってしまったことが何より自身を疑い、嫌悪に陥らせてしまった。
「この彼女、本当は脚がなかったんだ…」
「え…?」
メリナは短く悲鳴をあげるように聞き返した。
「答えは、靴が気に入らなかったからじゃない。彼氏が脚を失っている彼女にわざと靴を贈ったからだ!」
ライザが壁に向かって言い放つと一瞬の沈黙が生まれた。
「間違えたか?」




