遺跡の謎解き
「んー?これ何文字?」
リュクのまだ細く短い指が差す先には鉛色の曇り空のような灰色の壁に彫られた文字、とは言ってもライザにはそれが文字である確証は持てなかった。細かく湾曲し、絵のように見えたかと思えば、纏まりを持ち、規則正しく並んでいる。ライザの世界にある、アルファベットや似たような起源を持つキリル文字、アラビア文字ともつかない文字だった。
「え?ライザ文字読めないの?」
リュクは素直に驚いてライザを見上げた。
「そういや、リュクには言ってなかったっけか…俺、みんなとは別の世界から来たんだよ。」
「ええぇーー!!?」
リュクのつぶらな瞳はさらに輝きを増してライザを映す。
「っと、詳しい話はまた後でな。それで、これは何て書いてあんの?」
「えっと、"汝、心に闇を持つ者であれば光を求めよ。汝の心に眠る闇を示し、光の源にて汝の心を浄化せよ。"…って彫られてるよ?」
ラミエルがライザのために読み上げ、何かライザ達を試しているような問いに首を傾げる。
「これがよくわかんないんだよね~」
何度かこの謎にも挑んだことがあるリュクも未だにこの問いかけの意味は分からないようだ。ライザ自身も何か手掛かりを探そうと緑色の苔がこびり付いた文字に眼をやるとまだその文には続きがあるようだ。
「んっと、汝に問う…」
ラシェルは次に続く文章を要約し始めた。
「えっと、要するに一組の恋人達がいたそうだ。それで、男が2人の記念日に靴を彼女に贈った。でも、彼女はそれに悲しんだそうだ…さて、ここで問題!靴を贈られた彼女はなぜ悲しんだんでしょーか!」
と、ラシェルは後ろでキョトンとするライザ達にビシッと指差したところでお互いの温度差に気づいて顔をちょっとだけ赤らめてライザ達から視線を外した。
「これ間違えると何か起こったりしちゃうの?」
「僕が来た時は何も起こらなかったよ?」
リュクから返事が返ってきたが、こういった侵入者を試す場所であるだけに心配だ。
「ん~単純に考えれば贈られた靴が気に入らなかった…とかでしょうか?」
「そういえば、ボク新しい靴が欲しいな…」
ラミエルが少しこの状況では言いにくそうにボソっと唇を動かした。
「だったら、帝都に着いたら買いに行きましょう!」
メリナがウキウキした様子でメリナの肩に手を置く。およそ自分達が戦いに来たとは思えない雰囲気だ。
「だったら私も一緒に行ってもいいかしら?」
ラシェルもラミエルの腰に腕を回して顔を頬に唇が触れてしまいそうなくらい近づける。
「うん、もちろんだよ!」
「だったら、いつもより女の子らしい靴を買いましょう!ヒールとか!」
「メ、メリナ恥ずかしいよ…」
ラミエルは頬を少しだけ桃色に染めて肩を竦めて身をよじる。初めて会った時から余り仕草自体には女の子らしさを感じなかっただけに、今ラミエルが女の子らしく恥じらっているのを見るのは新鮮だった。
「それで、答えは贈られた靴が気に入らなかった…でいいのか?」
ライザは改めて黄色い雰囲気の会話で盛り上がる女性陣に確認した。
「そうね、それじゃあ……答えは、彼氏が贈った靴が気に入らなかった、よ!」
ラシェルが文字が刻まれた壁の前に進み出て秘密の部屋への合言葉を言うかのように答えを言い放った。
「………何も起んないね?」




