新たな世界 新たな出会い 新たな名前
「ここら辺では見ない顔だな」
「お前もな…」
桂はまさに絶対絶命な状況にも関わらずそんな台詞を彼女に向かって吐いた。
死が差し迫ると人間は開き直ってしまうのだろうか…?
とはいっても一応彼女の拘束から逃れようともがいてみるが、彼女の完璧な体の位置からは逃れられない。
「お前一体なんなんだよ?!」
桂は叫んでみた。いきなりこんな目にあったのもあるが彼女がこの上なく奇妙だったからだ。
彼女の髪や眼の色だけでなく。彼女のショートパンツのベルト腰に短い緋色のマントが付いている上に腰の両端にナイフが鞘に収められている。
銃刀法違反って言葉知ってんのかコイツ!?といった感じだ。
彼女の両手には指先が出た肘ぐらいまであるガントレット。
さらにはウエスト部分がない黒いタイトな服装だ。
「フッフフ…お前はおもしろいな。大抵の奴は泣き叫ぶのにな。」
彼女はほんのり紅い桃色の頬に笑みを浮かべ桂の体の上から自分の体を退ける。
「わりぃ、ビビって何も言えねぇや…」
段々と桂の頭に引いていった血が戻って来る。
「なんでトドメ刺さないんだよ?」
「なんか面白そうだと思ったのよ。名前は?なんて言うんだ?」
彼女はこんな細い腕であれだけの力を出すのかという腕で桂を助け起こす。
「変な奴……えっと、俺は桂。お前は?」
「え?け…い?変な名前だな、呼びにくいし…ちょっと待って……」
そういって彼女は腕組みをして考え始めた。
「いや、呼びにくくはねぇだろ…」
言ったところで聞いてないか…
「んー……そうだっ!ライザだっっ!!」
彼女は指をスナップして桂を指差した。
「は?なんて??」
「だからお前の名前だよ!呼びにくいからこれから君をライザと呼ぶ!!」
彼女は胸の高い位置で腕組みをし背中を少し反らす。
「はぁ?変な名前付けんなよ!!」
「え?いい名前じゃないかしら?よろしくなライザ!」
彼女はポンと桂改めライザの肩に手を置く。
「ったく…なんか知らねぇ内によろしくみたいな流れになってんだけど…?で、お嬢さんお名前は?」
少しふざけながら聞いてみるとラシェルはクスッと笑った。
「名乗るのが遅れてすまないな。私はラシェルだ。それと私は20歳だからお嬢さんという歳じゃないな。ライザは何歳なの?」
それを聞いてライザはハッとした。
俺より歳上…?
「え?えぇっと……すみません…僕、18歳です……」
ライザはぺこりと頭を下げた。
歳上の相手にも関わらず敬語を使わなかったのは縦社会思想が染み付いたライザには違和感しか感じられなかったからだ。
しかし、当のラシェルは首を傾げている。
「ん?なんで謝ってるんだ?固くなるなって!」
今のライザにとっては彼女の笑顔が色んな意味で恐ろしかった。
「いや、ダメですよ…ここ日本じゃないですか…」
「ニホン…?何を言ってるんだ?ここは"トパールの森"じゃないのか?」
ラシェルはライザに聞き返すがライザには彼女が冗談を言っているようにしか聞こえなかった。
「じょ、冗談よして下さいよぉ~…じゃ、一体ここはどこなんですか?」
「だからここはトパールの森だって言ってるだろ?」
「え……?」
彼女の言葉に段々と頭の中の思考回路が停止していく感じがした。
「どうゆうことだ……?」