少年の悪夢
「まぁ、私からしたらリュクもライザ達も私とあまり変わらないように思えるけどな……私はラシェルだ。よろしく、リュク。」
最後にラシェルが微笑みとともにリュクに名乗った。
「それで、何か話したいことがあって自分達をここに連れて来たんですよね?」
改めてライザはソフィアに質問した。
「昼間、リュクが自警団に捕まって、貴方達がこの子を助けて下さった時にドルミール遺跡に現れたあの雲のことを知っておられる様子だったので。そのことについてお聞きしたくて…」
ソフィアは細く滑らかな指をした手を胸の前で組む。
「そのことなら、リュクには何の罪もないわ。あれは人が呼び寄せるものなんかじゃないから。」
ラシェルは昼間の出来事を呆れたような表情で思い出しながらリュクの頭に手を置く。
「だから僕はやってないってば!」
リュクがラシェルの前で自分の無実を体中で飛び跳ねて表現するとソフィアに頭をポンと抑えられる。
「やはり貴方達は…」
ソフィアは上目遣いでライザ達を見回した。ラシェルは頷いて再び口を開いた。
「ドルミール遺跡にフエンデルスがあるわよね?」
「はい、遺跡の最深部に…」
「実は、私達見たんです…フエンデルスからあの黒い雲が生み出されて……」
メリナが言い淀むように打ち明けた。いくら迷いの森の黒い雲を打ち払ったといっても、あの悪夢のような光景はそう何度も見たいものではない。
「やはり……リュク、あなたが遺跡で何を見たか話してあげてくれる?」
ソフィアは癖毛に隠れたリュクの耳元で囁いた。
「うん…僕、今日の朝からドルミール遺跡で魔術の練習してたんだ。そしたら見たんだ…」
「…黒い影みたいな奴らだろ?」
「何で知ってるの?!」
リュクが驚きの声をあげているのを眼を逸らしながらライザは聞いていた。
「あれはトラウムって言うんだ。トラウムから致命傷を受けると醒めることのない悪夢に落ちてしまうんだ…」
「えぇっ…?!」
リュクはラミエルの言葉に開いた唇を恐怖で歪めた。
「でも、無事に逃げてこれて本当に良かったです。」
メリナは屈んでリュクと目線を合わせて安堵の表情を浮かべたが、リュクはそれでも頬を緩めなかった。
「逃げるのは結構簡単だったんだ、魔術打ち込んだらあいつらビビって追ってこなくなったし…でも、遺跡を出てきたところで自警団の奴らに捕まっちゃったんだ。」
それで、ライザ達とたまたま遭遇したというわけだ。彼らのことを思い出すと胃の辺りに静かに焔が燃え上がる。
「ん…とりあえず、早いとこそのドルミール遺跡に行ってきます。自警団の奴らが帰ってきてドルミール遺跡に向かってしまっても困るんで…」
ライザは大体の事情を聞き終えると部屋の窓からあの夜の闇より黒い雲を見上げた。
「ここから東南か…帰ってくる頃には朝になってるわね。まぁた肌荒れしちゃうわ~」
ラシェルは弾力のある頬を両手でさする。触ってみたいと言ったら彼女に何を言われるかわからないから言わないでおこう。
「それじゃあ、ありがとうございましたソフィアさん。リュク、元気でね!」
メリナはライザも見習いたい位美しいお辞儀をソフィアに向けるとリュクの頭を優しく撫でた。
「ねぇ、僕も一緒に行っちゃだめ?」
「え?でも、ボク達と来たらきっと危ないよ?」
ラミエルは予想していなかったリュクの提案に眉を微妙に潜めているソフィアと本人リュクの間を視線を行ったり来たりさせる。
「先生いいでしょ?僕なら道案内できるし…」
リュクは本当に純な瞳で自分の母代わりのソフィアを見つめる。
「だめよ。」




