フエルテという力
「さて、ライザを弄ったところでさっさと鍵開けて出るわよ。」
ラシェルは悪びれもせず牢の鍵穴に金具を差し込み、キリキリと嫌な金属音を立て始めた。
「ん、開いた開いたっ!」
5分もしない内にカチャンと小気味のいい合図が上がった。キリキリと鼓膜を引っ掻くような錆び付いた音がライザを無機質な牢から解放した。
「あの人、本当にラシェルの話し信じてドルミール遺跡の反対方向に行っちゃったのかな?」
恐る恐るライザは部屋の入り口に張り付いて廊下を除くがライザの言葉通り先程の男が消えた代わりに沈黙だけが残っていた。
「予想以上に好都合だな。なら、装備を取り返しに行こうか。」
ラシェルは人がいるのかも確認せずに廊下に出た。
「捨てられたりしてませんよね…?」
メリナが最悪の状況を想定しながら苦笑いを浮かべる。
「そこまで彼らは悪党じゃないんじゃないかな?確かに横暴だけどね…」
ラミエルが言いたいのは、彼らがただやみくもにこのロンキドスの人々に力を振りかざしているということだろう。
「あいつら、俺らのフエルテ持ってって使ってんじゃねぇの?」
「いや、それはないな。」
ラシェルは近くの部屋の扉の取手に手をかけながらライザの説を否定する。ラシェルに続いて部屋の中に入るとすぐに冷んやりとした空気が肌を這い回り、鉄臭さとカビ臭さが鼻を刺激したことから、この部屋は倉庫のようなものであると理解出来た。
「フエルテって使いこむ程形状が変わってきますよね?」
メリナが初歩中の初歩を規則的に並べられた棚を覗きこみながら説明する。一応こういった状況でもこの倉庫にある物は他人の所有物であるから、なるべく触らないようにしているようだ。もしかしたら、彼女の育ちの良さを表しているのかもしれない。
「確かに、ある程度変化の傾向があるんだけどね。例えば…メリナ様のフエルテは力に特化しているから少し幅とか厚みが出てくるんだ。」
「ってことはどういうこと?」
ライザはラミエルに結論の要約を求めた。
「フエルテは持ち主しか使えないってことだよ。つまり…」
ラミエルは部屋の隅に置かれていた重みのある木箱の蓋を開け、中に放り込まれていた4つのフエルテの内で最も平易な形をした腕輪をライザに手渡した。
「このフエルテはライザにしか使えないってことだよ。」
それをラミエルに告げられた時、この肌寒い部屋にいながら胸の奥が温かくなるような感じがした。
フエルテを無事に取り戻したライザ達は人のいなくなってしまった彼ら自警団の詰所からすんなりと出てきた。
「しつこいようですけど…あの人達、本当にあの雲の逆方向に向かってしまったのでしょうか?」
メリナは自分達のついた嘘に後ろめたさを感じながら出てきた詰所を振り返った。
「フエルテも付けてないんじゃ、動物位しか狩れないわよ。」
「あれ?レヴェリエの人達ってみんなフエルテ付けてるんじゃないの?」
ライザはラシェルの皮肉るような言い方を拾った。
「ん~と…あれだ、フエルテを装備するのにはイルシオン帝国が定める国家資格みたいのが必要なのよ。」
ラシェルの言ったことを右耳から入れてメリナとラミエルを見る。ラシェルの言うことが本当なら2人も適性と認められたのだろうか。
「ボクは騎士になる時に国家試験を受けたよ。」
「えと、ギルバート家はフエルテについてはある程度自由が許されているので、私は特に国家試験を受けずにフエルテを使うことが出来ました。」
2人の説明が納得出来るものであったばかりにライザの心の中にはある不安が湧いてきた。
「ってことはさ、俺って……もぐりなの…?」




