痛い視線
ラミエルが言うとラシェルは頷いた。イノセンシアの件でも学習済みのように結果は見えている。
「この街の自警団は自警団名乗る割には能力が高くないわね。敵が提供した情報に飛びつくなんて以ての外だな。」
ラシェルからしたら完璧にこの作戦に勝算があったようだ。そして、ラシェルは一度パンと手を打った。
「さ!早いところこんな辛気臭い場所から脱出するわよ!」
「なぁラシェル…俺さ、脱出する方法をここに来た時から考えてたんだけどさ、看守の隙をどうにかしてついて牢の鍵奪っちゃった方が早いと思うんだよね…」
ライザは思っていた本音を恐る恐る指揮をとるラシェルに提示してみた。
「私も看守の方にはお気の毒ですが、その方がいいかと…」
メリナからも賛成を得られた。どうやらこういう思考はメリナとライザの共通点のようだ。
「2人共小説の読み過ぎだな。私達は牢の中にいるのにそんなことは不可能よ。鍵を内側から開けちゃった方が早いわ!」
そう言ってラシェルはライザの体を細い指で触り出した。背筋から這うように登ってくるむず痒さに身震いした。
「でも、ボク達フエルテを取り上げられてるよ?」
ラミエルの言うようにライザ達はこの場所に収容される際にあらかた武装解除されていた。無論、皆フエルテを装備していればこの古びた安っぽい鉄格子など破壊するのは容易いはずだ。
「え?ちょっ…」
「確かここに……お、あった!」
上着の襟の辺りを探られるとラシェルは声を上げ細い金具数本を手に取っていた。
「それは?」
メリナが首をかしげながらラシェルの手元を見る。そういえば、メリナはまだ彼女の器用さを目の当たりにはしていなかった。
「鍵開けの道具だ!」
「はい、ラシェル先生しつも~ん!」
ライザは彼女に問い詰めたいという衝動を抑えながら手を挙げた。
「ん~?何かなぁ~?」
「なんでーラシェルの鍵開け道具がぁー俺の服から出てくるのぉ?」
「それはねぇ、君がお風呂に入っている間に君の服に忍び込ませておいたからだよぉ!」
ライザに調子を合わせてラシェルは和かに答える。
「おまっ…?!いつの間に…!!っていうか、自分の服に仕込んどけよそういうのは!」
「だって面白そうだったんだもん!」
ラシェルは子供みたいに体を左右に揺する。
「それとも、ここから出す方がライザにとっては嬉しかった?」
ラシェルはグイッと体をライザに寄せて漂う香りとともに胸元をライザに覗かせるように指差す。
「……いや、だったら俺の服から出てきた方がいいわ。いやぁ、残念残念…」
ラシェルに気づかれぬ間にそんな悪戯のようなことをされたのに対しての抵抗のつもりだった。
「あら?ライザ、あのこと言っちゃってもいいのかしら?」
「何を?」
何のつもりなのか、ラシェルはいきなりそう切り出してライザの顔を悪戯な笑みを熟れた林檎のような唇に浮かべながら覗き込んだ。他人から見れば少女のように無邪気な可愛らしい笑みだが、ライザには紛れもなく悪魔の高笑いに見えた。
「この前ライザがいやらしい眼でじーっとメリナの胸見てたの。」
「えっ?」
ライザが虚を疲れた声をあげると女性陣の視線が一手にライザに突き刺さった。
「ほ、本当ですか…?」
メリナは彼女の腕では抱えきれないほどの胸を抱えるようにしてライザから距離をとる。
「ちょっ…!違っ…!?」
ライザは釈明しようとメリナに近づこうとするが、間に鬼のような形相をしたラミエルが入る。
「メリナ様に近づく変態はボクが許さない!」
この時ライザは改めて思った。女性を敵に回すべきではないと。




