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小説のハウツー  作者: Lauro
32/50

新たな暗雲

「そうだなぁ…今メリナが自分のこと話してくれただろ?その話しを聞いてると、昔の自分がどう在って、これからどうなりたいかがはっきりしてる。こうして家を飛び出したのも自分を変えたいって思ったからだろ?」

ここでライザはメリナに質問を投げかけた。

「は、はい…」

「それってすごいことだよ。俺の元いた世界は大体の人が現状に妥協しちまってる。俺だってやっぱり妥協しちゃってるんだ。だから、そんな俺と比べたらメリナは大人だなって…ね?」

「う、嬉しいです…」

メリナは膝と両手をモジモジ動かしながら頬を紅く染める。何ともその姿は愛らしかった。

「こんなこと、ラミエル以外に余り言ってくれないので…」

「そっか、喜んでくれたんならよかった!」

ライザは立ち上がりながら眼を細めて口角を上げてみせた。本当はライザの浮かべた表情以上に収穫はあったと思えた。なぜなら、先日メリナが父であるギルバート公爵に強くあたる姿を見て彼女が何らかの葛藤を持っているのではないかと見ていたからだ。

「よぉし、そんじゃ俺は寝るかな~…」

「はい、おやすみなさいライザ。」

メリナは大きく伸びをして寝床へ向かうライザを見送った。


次の日の朝、ライザ達は王都への進路上にあるロンキドスという街を物資の補給も兼ねて立ち寄ることに決めて歩き始めた。

「今日でレヴェリエに来て何日目かな…」

ライザが右手の指を折りながら今までこのレヴェリエという世界で過ごしてきた時間を数える。

「え?どういうことだいライザ?」

ライザの独り言をたまたま聞いていたラミエルがライザに聞き返してきた。

「あれ?言ってなかったっけ?俺、この世界の人間じゃないんだよ。」

「へ?そうなんですか?」

メリナもまだ話を掴みきっていない内にライザに聞き返してきた。

「簡単に説明すると…よくわかんない内にこの世界に飛ばされて、ラシェルにたまたま会って、そんでラシェルのあの雲の調査手伝ってたらラミエルとメリナに会ったってわけ。」

「だからライザはフエンデルスについてよく知らなかったんですね?」

そういえば、フエンデルスについてラシェルに聞き返した時、メリナに怪訝そうな顔をされた記憶がライザにはあった。

「その内ライザが元の世界に帰る方法も探さないとな。」

「その内って…」

しかし、ライザもライザでこの世界に少しずつ順応してきた感じはあった。それはそれで歓迎すべきなのかはわからないが。

「ま、ライザには気の毒だがそうも言ってられないみたいよ?」

ラシェルはそう言って皆の視線を彼女の指先に集めた。ラシェルの指先が差す方を辿っていくと、ライザ達はその状況をすぐさま理解した。

「またあの雲…!?」

燦然とライザ達が歩く平原に降り注ぐ陽の光を一部だけ遮る黒雲があった。

「あの街の…奥?でしょうか…?」

メリナは掌でひさしを作った。メリナを含むライザ達の視線の先には、ライザ達がイノセンシアで払い去った黒い雲が彼方の街の少し奥をまた悪夢へと誘っている。だが、眼の錯覚ということも考えられるから実際にはあの悪夢へとまた落ちてみる必要がありそうだ。

「確かあの街は、ロンキドスっていう街だったかしら?」

「行ってみよう!」

ライザ達はさらに歩く足を速めた。


30分もしない内に先程まで眼と鼻の先にあった街に着いたライザは空を見上げた。

「まだここまでは来てないか…」

見上げた空はライザのよく知る空、雲がちらほらゆったりと泳ぐ蒼い空だった。

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