夜の語らい
「助かったよラシェル。」
「でも、どうしてわかったんですか?」
路地裏の物陰から小走りに渦中の2人が出てきた。
「ん~女の勘、かしらね?」
「またそれかよ?」
「流石だねラシェル!」
「流石ですっ!」
ラミエルとメリナは輝いた瞳でラシェルに賞賛を寄せる。独り取り残されたライザ。
「え?俺が分かってないだけ?」
「そうだぞライザ、女心をもっと勉強しなさい?」
言われてしまった。使い古された言葉だが、これが思ったより心に刺さるのだ。
「はいはい…それより、こんなとこで立ち話してないで見つかる前に出ようぜ?」
ライザはグダグダの会話を終わらせてイノセンシアの街を出ていった。
そしてその日の夜、ライザ達は王都への道程に入り一夜を野で過ごすことにした。
ライザはこの日の最初の見張り番をかってでた。というのも、2番目以降の交代になると、途中で夜中に起きなければならない為に見張り中に二度寝してしまう心配があったからだ。
そして、他の不安要素と言えば夜盗や野獣が出る恐れがあったが、それより恐ろしいのがトラウムだった。
単なる予想だが、あの黒い雲とこの夜の闇は似ている。ということは、夜のこの時間帯は彼らトラウムの領域である可能性が高いということだ。
そんなことを取り留めもなく考えているともう交代の時間になったようだ。静かに忍び寄るような足音と共にメリナがライザの背後に立っていた。
「あ、メリナ。もう交代の時間か…」
「はい。お疲れ様です。」
メリナはそう言いながら、焚き火の燃え盛る焔を見つめるライザの隣にスカートのお尻の部分を手で抑えながら膝を折る。
「あれ?ライザ寝ないんですか?明日も早いらしいですし…」
「ん~そだな…」
ライザはメリナが交代するのを確認したのにも関わらず腰を上げようとする仕草を見せなかった。
「メリナさ、将来何かやりたいこととかある?」
「えっ…?どうしてそんなこと聞くんですか?」
虚を疲れたようでメリナは少し驚いているみたいだ。
「まぁまぁ…これから一緒に旅するからお互いのこと知っといた方がいいでしょ?」
と、最もそうなことを言ってみたが狙いは別の場所にある。
「そうですね~私もみんなのこともっと知りたいです!…えと、将来やりたいことですよね?ん~…私は昔からあまり人と協力して何かをしたことがないので、もっと人の中で生きていけるようになりたいです!」
「そっかぁ、いいじゃん!楽しそうだな、そういうの!」
「はい!でも、本当は幼い頃からギルバート家の名前を背負わされて育てられてきたので、ほとんどの事を両親に決められて私自身の力ですることを許されなかったんです…だから……」
メリナは劣等感と行き場を失った後悔をその唇に浮かべる。彼女にとって今まで育てられてきた環境は絶対的な拘束力を彼女に対して行使していた。メリナの変えられない過去だったのだろう。
「もっと普通の女の子みたいに過ごして見たかった?」
「はい…それに、18歳にもなって自分のことも満足に出来ないなんて、まるで大きな赤ちゃんみたいじゃないですか?」
メリナは肩を縮めて俯いた。
「ははっ!大きな赤ちゃんねえ~…それはきっとメリナじゃなくて俺のことだな!」
ライザは喉の奥から笑い声を出したが、メリナはそれに首を傾げた。
「どういうことです…?」




