見知らぬ森で
【尽きない闇、そこには天地はもちろん音も光もない闇の中でそこに桂はただ虚無の波に揺られて漂っていた。
ここはどこなのか?桂は今その問題をさほど気にはしなかった。
何も考えずにただそこにある闇に身を任せていると、闇にこだます声が彼の耳に届いた。
「お前なんかいらねぇんだよ!消えちまえ!」
罵倒するような声。どこか聞き覚えのあるような声。
「お前はただ黙って生きてりゃいいんだよ!!」
他にも彼が今まで耳にした嘲笑が彼の心を抉るたびに不安になっていく。
「やめろ…やめろ………やめろおおぉぉーーー!!!】
「ん…んん………」
桂は小さくうめき声をあげながら眼を開けるとそこには本棚と図書館の天井が見えるのではなく、彼を見下ろす木々と柔らかな木漏れ日が眼に入ってきた。
「え…?なんで俺こんなとこいんの?あっ!ここうちの大学の森だ!たしか前に教授が言ってたっけ……でもなんで?」
桂はそう自分を納得させてとりあえず立ち上がってみる。
木々の間から何か見覚えのある建物を探してみるが見つからないどころか背の高い建物すらない。
「おい、冗談だろ…?どうすりゃいいの?!」
そんなこんなしていると桂は何者かが近づいて来る気配を感じた。
「おっ!誰か来た!ちょっとすみませーん!ここどこか分かりますかぁ?」
ここがどこなのかを聞こうと桂は近寄っていくとその何者かがまず女性だという事がわかった。
彼女は桂より小さく年下に見え肩ぐらいまでの長さの若干クセのあるセミロングの木漏れ日を受ける眩しいぐらいの金髪にサファイアのような澄んだ碧の眼を持っていた。
鼻筋が通っていてシュッとした美しい顎のラインからすると明らかに日本人、というわけではなさそうだ。
なんだこの子…?髪真っキンパに染めてる上にカラコンか?
服装もロングブーツにショートパンツか…。
上半身は短いマントにチェストガード…っていうわりには随分露出度高い防具だな。
……ははーん、この子あれだな?コスプレ好きの中二病でしかも外人さんだな!
いやぁ、日本のサブカルチャーもここまで来たかぁ~。
ま、たしかにショートパンツから伸びる細い脚にブーツは似合ってるけどさ…
そんな事を考えながら桂が彼女の脚を見ていると彼女の脛が桂の顔へと飛んで来た。
桂はそれを上半身の動きで顔を後ろにずらしてかわす。
「っぶねぇっ!!なんのつもりだよ?!」
桂は一歩下がって距離を取り半身に体を開き両拳をこめかみあたりに持ってきて構えをとる。
「怪しい奴だな、名を名乗れ…!」
そして少女は再び拳を繰り出そうと前に出てくるが桂もやられっ放しではない。肘を顔の前に構え一歩全身し膝を彼女の露出した腹へ突き出す。
「ッ…!?」
彼女はそれを間一髪で左へよけ左脚を引きそこから左脛を桂の頭部へ振りかざす。
「んんッ!!」
脚で蹴られるという衝撃に耐えながらなんとか腕を顔の横でたたんで蹴りを受ける。
「お前ブーツん中になんか仕込んでんだろ!?っていうか攻撃やめろ!!」
「なかなかいい感してるな。」
彼女は桃色の唇に笑みを浮かべは再び蹴りを桂に向かって繰り出す
「させるかぁ!!」
桂は彼女の蹴る右足を脇で抱え込みそのまま彼女の軸足を払う。
これで倒れたと桂は安心したが彼女は右手を地面に突きたて体を無理やり回転させる。
今までされた事のない動きに桂が戸惑っていると視界の右足から彼女のブーツの踵が飛んできて桂のあごに直撃する。
ゴンッ!!
頭の中で鈍い音と後頭部から広がる強い衝撃に脚から力が抜け桂はその場に崩れ落ちる。
体勢を立て直した彼女は桂に跨りナイフを取り出して桂の喉元に突きつける。
その非日常的な光景に桂の頭からは血の気が引いていきボーッとするような感覚が襲った。