甘い誘惑
「宿ならまだ分かるけどさ…なんでまた部屋が一緒なんだよ…」
そこにはベッドがふたつ並べられ、左側のベッドに金髪の女性が膝を抱えこむようにして眠っていた。というのも、ここのギルバート夫人が何やらライザとラシェルのことを色眼鏡で見てきた結果なのだが…
「ったく、毛布ぐらい掛けて寝てくれよ…」
ライザは溜息をつきながら彼女の脇にあるクシャクシャに打ち捨てられた毛布を掛け直す。
そして、もう一度寝ているラシェルを見下ろすとある疑問が浮かんできた。
「この世界の人達って、もしかしてエルフなのかな…?」
という疑問だった。つまりライザと同じような人間ではなく、ファンタジー作品に出てくるような魔法を使う妖精と人間の中間のような人種ではないかということだ。
「魔術使うし…身体能力も高いし……耳とか尖ってたりして…?」
この世界に来て何日か経っているが、彼らの容姿に関してはそこまでよく観察してはいなかった。
数秒間の間起きている時とは違って安らかな寝息を立て仔犬のような寝顔の彼女を見ていると、先程から浮かんでいる疑問に加えて小さな劣情が湧いてきた。
「ちょっとだけなら、いい…よな?」
ライザはラシェルの陽光の様な金髪にそぉっと手を伸ばす。緊張で手が少し震えていた。そして、彼女の耳を柔らかな肌触りのいい髪から覗かせる。
「やっぱりか…」
ライザの下らない想像は外れていた。彼女の耳は何処ぞのファンタジーの如く尖っているわけではなく、白銀のリング型のピアスが耳たぶに着いているだけだった。それ以外はライザと何ら変わりない。
「まだ、起きないよな…?」
ライザは彼女の体が一定のリズムをもって振幅しているのを確認すると、彼の内にある劣情は少しずつ膨らみ始めた。
「ラシェルの髪、綺麗だしいい匂いするな…」
ライザは指の間に彼女の髪を流れ落ちる水のように滑らせていく。その度に甘い芳香が漂う。
「ん…?これ白髪、じゃないか…ラシェルの髪って銀髪も混じってんのか。」
彼女の光の線のような金髪の中に錦糸のような銀髪が混ざっていた。あまり注意して見ていなかったが、ラシェルの髪が光に照らされると一瞬輝くのも金に銀髪がうまく混ざりあっているということに初めて気づいた。
「もうちょっとだけ…」
いつの間にかライザは彼女の髪の肌触りと香りの虜になり、彼女の頭を愛撫していた。
「撫でるのが上手だな、ライザは。」
「…?!!」
突然恍惚の中にいるライザを呼ぶ声がし、ライザの心臓はキツく締め上げられて跳ね上がった。
「ラ、ラシェル?!こ、これは…その…!?」
ライザは驚きのあまりラシェルの隣の自分のベッドに尻餅をついた。
「寝ている私を起こした罪は重いわよ?」
ラシェルは眼が半開きの状態で体を起こしに額に乱れて垂れた髪の間からライザを見る。
「ウソ。ライザが部屋に入ってきた時から起きてたわよ…」
「へ…?マジで……?」
彼女の言葉が本当だとしたら尚更まずいかもしれない。
「女の寝込みを襲うなんて、私の体、そんなに知りたいの…?」
ラシェルは微妙に唇の端を上げた。その姿が妙に色っぽく、ライザの心臓は緊張と劣情で張り裂けてしまいそうだった。
「い、いえ!滅相もございませんっ!自分、ラシェル先輩の美しい御髪に魅了されあのような行為に及んでしまいました!!」
ライザはベッドの上にピシッと正座する。すると、ラシェルは咎めるでもなく再びベッドに横になった。
「嬉しいこと言ってくれるなライザ。なら罪の償いとして、たまに私が寝るまで私の頭を撫でろ。嫌いじゃないからな、そういうの…」
ラシェルはそう言ってまた体を丸めて寝息を立て始めた。どうやら許してもらえたようだ。
「ありがとうございます!全力で務めさせていただきますっ!」
ライザはビシッと敬礼した。




