影の領域
ラシェルがいきなり勝手に人相鑑定をし出したが、彼女の言っていることは図星だった。
「はいはい当たりですよ…っていうか、俺の元いた世界のことなのに良くわかったな?」
「ライザの歳なら、まだあまり歳の離れた大人と接触がなくて、周りが同年代ばかりだろうから、ライザみたいに落ち着いた性格の男は同年代からは敬遠されがちだと思うのよね。」
一々ラシェルの言うことは当たっているから怖い。
「それ、よく言われるわ…直さないと周りから浮いちまうのは分かってんだけどさ……」
実際に、"歳の割に落ち着いている"或いは"落ち着き過ぎ"というのは同年代に限らず周りの大人、外国人にまでそう言われることもあったくらいだ。
「大人の女というのも悪くないわよ…?」
ラシェルはワザと艶っぽい声を出して彼女のクセのある毛先がライザの顔をくすぐってしまいそうなほど体を寄せる。柑橘系の甘酸っぱい香りと、彼女の潤った紅い唇にライザの頭の中はショートしてしまいそうになる。ライザはこういうのに慣れていない為、後ずさるといきなり背中にふわっとした感覚を味わった。
「うわぁっ!?」
ライザは大樹の枝から落ちたのだ。
「っ…!?」
ライザは今まで自由落下という体験をしたことがなかったが、頭から落ちる体を無理やり捻って回転させる。
「ってぇ…!?」
奇跡的にあの高さから無傷で着地することに成功した。しかし、それと引き換えに足の裏に激しい衝撃が走る。
「うまく着地したなライザー!」
ラシェルは呑気なことを言いながら大樹の枝から飛び降りてくる。
「おまっ…!危うく死ぬとこだったぞ?!」
ここは冗談抜きで少し真剣に怒る。
「悪かったよライザ。でも、フエルテが自己防衛にも役に立つってよく分かっただろ?」
口先では謝ってはいるものの、どうやら反省はしていないようだ。
「問題をすり替えんなよ…」
そして、大体の体内時計の予測で陽が落ちた頃、ライザ達は騎士の傷の手当に魔術を使い体力を消耗したメリナの体力回復を待つために一晩を大樹の中で過ごすことにした。ライザにとってはこれが始めての野宿だったが、何処でも眠ることが出来るライザにとっては寝床というのは大した問題ではなかった。
「…ぃ…イザ……起きろ…!」
浅い眠りの微睡みの中でラシェルの声が聞こえた。
「ん……なに…?」
ライザははっきりとしない視界の中で起き上がり、どこか真剣な表情を浮かべているラシェルをその眼に映した。
「準備しろ、敵に囲まれた。」
「…?!!」
ラシェルのその言葉は寝ぼけているライザには冷たい水を掛けられるような強すぎる刺激だった。ライザが辺りを確認すると、メリナとラミエルが既に大樹の内部から出るための穴の側で待機している。
ライザは急いで起き上がり、自分の寝ている側に外してある防具を装着する。
「ラミエル、様子はどうだ?」
「数はそんなに多くはないよ。けど、奴ら自分から動いてこようとしないんだ。ボク達を誘ってるのかな?」
ラミエルはラシェルに手短に状況とその見解を説明する。
「敵ってやっぱりトラウム?」
ライザが聞くとラシェルはライザを振り返らずに頷いた。確かに、攻略法は分かっているとはいえど、ライザにとっては複数の敵に対するのは初めてだし拠点を囲まれているというのは何より精神的に不利だ。
「あの、もしかしてトラウム達の目標って私達なんじゃないでしょうか?」
「どういうこと?」




