思い立ったが吉日
そして、桂は数分後額から汗をたらしながら図書館の自動ドアを潜った。
中へと入ると冷房の効いた図書館の空気が桂の体を包む。
生徒証を通してゲートを通り抜けると桂は早速本棚の間へと入っていった。
「ファンタジー描くんだったらやっぱ世界史とか民俗学の書架か…」
こうして本棚の間を歩いて見るだけでも色々な本が眼につく。
戦争、民族、音楽、神話……どれも好奇心旺盛な桂の眼をひくものばかりだ。
しかし、どの本も古臭く、分厚くて読むのさえ一苦労なものばかりだ。
確かに小説を描くのに知識というものは必要不可欠かもしれないがこんな分厚くて難しそうな本、知識欲は満たされそうだが読んでる内に書く気を無くしてしまいそうだ。
「なぁんか良さげな本ないかねぇ…」
桂は頭の位置を上げたり下げたりしながら本棚と本棚の間をうろうろする。
そして、凸凹に並べられた本に指を滑らせているとある本の前で指が止まった。
「ん?なんだこの黒い本…?」
それは何のタイトルも記されてないただの黒い本、だった。
大体の人はそんな本なら見逃してしまいそうだが、桂の眼にはなぜかその本が気になって仕方なかった。
無意識の内に桂はそれを手に取ると、手にかかる重量感と体育倉庫のようなカビ臭さが彼の鼻を突いた。
中を開いて見ると文字が何も書かれてない。ただの空白のみが記されている。
「?なんだ、ただのノートか、誰かが間違えてこの本棚にしまっちゃったとか…」
そんな想像をしながらページをめくっていくと最後のページに辿りついてしまった。
「ん?なんだこの文字?アラビア語?タイ語?……読めねぇ…」
そこには今まで桂が見たこともない文字で何かが綴られていた。
その奇妙な文字に背中がぞくっとしたが、なぜだかその文字から桂は眼を離すことが出来なかった。好奇心、だろうか?
そして、唇を微かに開く。
「ダエル エム オット ウェン ドローウ……?………ん?俺何言ってんだ…?」
桂は気づかぬうちに最後のページに綴られていた文字を口に出して読んでいた。
「え…?!」
読み上げると桂の手の内から本が宙に浮き上がりさっきまで彼の手にのしかかっていた重さが抜けて行く。
「え?え?え?なんで本浮いてんの?!ちょい係員さん?!」
桂は怪奇とでも呼べる現象に慌てふためきながら図書館の係員を呼ぼうとするが体が思うように動かない。
足を取られた、振り向くと浮き上がった本から妖気?のようなものを発して桂を自らへ吸い込もうとしている。
「マズイ…!このままじゃ飲まれる…!!」
桂はあの黒い本に飲まれないようにレスリング選手さながら床に這いつくばる。
「くっ…!!うわああぁ……!!!」
桂の体は床から離れ本に吸い込まれて行き桂の体を飲み込んだ本は何事もなかったかのようにパタリと閉じ床に落ちた。