影の者 トラウム
「ふぅ…緊張した…」
ライザは肩をだらっと落とした。しかし、かなり緊張したとはいえ体力はさほど奪われていないようだ。これがフエルテを装備した効果なのだろうか。
「緊張した…じゃないだろう!ひとりで先行するのは危険なんだぞ!」
後ろからラシェルに頭を叩かれた。
「ご、ごめん…」
危険というのは自分でも分かっていた。結果オーライとは言っても、こう怒られてしまっては何も言えない。
「でも…よくやった。メリナ、その男の様子はどう?」
ラシェルはライザの肩をポンと叩いた後に先程倒れた男の容態を確認するメリナを振り返る。
「はい、この方は確かにギルバート家の騎士です。さっき、剣で突かれたようですがまだ息があります…一応回復魔術を。」
メリナはフエルテに手をかざして斧を封印するかわりに頭の部分に宝石のような物が埋め込まれた杖を出して詠唱を始める。
「ラエ ウオィ」
メリナが杖を騎士の男にかざすと男の体に刻まれた裂傷や打撲の痕が消えていく。
「なるほど…これではっきりしたみたいね、私達が今まで見てきた眠りに落ちてしまった者達は奴らに致命傷に近い攻撃を受けると眠りに落ちるみたいだな。」
「で、あの影みたいな奴らを倒すには胸の紅い核みたいなのを壊す必要があるってことか…」
「呼び方はどうします?」
メリナは男の手当を続けながらライザとラシェルを振り返る。
「呼び方ってあの影みたいな奴の?」
メリナはコクリと頷いた。彼女からしたら両親に危害を加えた原因であり複雑ではあるが、逆に呼称を決めてしまえば対抗心を向けやすいのかもしれない。
「んー…夢人、とか…?」
「なんだそれ?」
ラシェルは首を傾げた。
「ん、えと…直感…?」
ライザはちょっと自信無さげに説明した。
「ま、呼び方は何でもいっか!じゃあ、とりあえず先に進もう。ライザ、その男を担いで歩いてくれ。」
「えっ?イヤイヤイヤ無理だろ!?」
ちょうど治療が終わった騎士の男は明らかに小柄なライザより体が大きく、鎧を含めて装備を外しても重そうだ。
「か弱い女の子に力仕事を押し付ける気なの…?」
ラシェルはいきなり両手で自分の肩を抱き、潤んだ瞳でライザを見つめる。
「こういう時だけ女を見せんなよ…」
ライザは装備を外して男を左肩に担ぎ上げる。こんな何が出てくるかもわからないような森に置き去りにするわけにはいかない、何より力はラシェルよりあるが彼女よりか弱そうなメリナにも頼るわけにはいかなかった。
「あんま男が上がった感じしねぇな~」
いざ、男を担ぎ上げてみると普通なら人1人担いで歩くなんて一苦労なはずだがフエルテを装備しているせいか早歩きぐらいまではできそうだ。
ライザが男を担いで30分程歩いたところで先頭を歩いていたラシェルがピタリと歩みを止めた。
「ラシェル、休憩?」
いくら身体能力が向上するフエルテを装備していると言えど大人の男1人を担いでいるのだからそろそろ休憩が欲しいというのが本音だ。
「メリナ、ライザを背にして武器を構えてくれ。」
ラシェルは進行方向の右側に視線を向けたままメリナに指示を出す。




