迷いの森へ
「メリナのフエルテは力と補助系魔術に長けているみたいだな。」
ラシェルがメリナのフエルテを見ながら解説する。
「え?そんなの見てわかんのか?」
「あぁ、フエルテは使い込めば付加される能力が変わってくるって言っただろ?それに合わせてフエルテも形状が変わってくるんだ。ちなみに私のは敏捷性と器用さだな。」
そう言いながらラシェルはフエルテを見せると、確かにそれぞれのフエルテは形状が違う。最もライザのフエルテはまだ只の腕輪だが…
「えと、迷いの森はこの街の北にあるんですが…私達イノセンシアの人もあまり近寄る場所ではないんです。」
メリナの言う通り迷いの森という名前から容易に想像出来た。
「幽霊でも出んの?俺怖い話しは大丈夫だけど実際に出てくんのはダメなんだ…」
ちょっとふざけて言ってみた。
「それが…」
メリナは言葉を濁らせた。
「え…?う、うそでしょ…?」
「あ、そういえば聞いたことがあるな…たしか、イノセンシアの近くにあるフエンデルスには迷いの森と呼ばれる場所があって、足を踏み入れた者を永遠にその森に捕らえるらしいな。それが今言った迷いの森だったのね。」
ラシェルはポンと手を打って納得する。
「出来れば行きたくはないですね…」
「俺も…」
「大丈夫よ2人とも。特にライザ!男のくせにビビってるんじゃない!」
この時ライザにはラシェルが自分より男前に見えてしまった。
それから、ラルク達は準備を整えてイノセンシアを後にし1時間程北上して行き、例の"迷いの森"に辿り着いた。
「うわぁ…なんか気味悪りぃなぁ…本当に入んのこれ?」
ライザは森の入口を見上げる。樹々の間を覗き込むと空にある黒雲のせいか薄暗い気味の悪さがこの森の名前の通り伝わってくる。
「よし、ここからは見通しが悪い上にさっきメリナの言っていた敵が潜んでいるかもしれないから隊列を組んで武器を構えて行こう。」
ラシェルに促されたがライザにはひとつ気になっていたことがあった。
「メリナ、武器は?」
「へ?ちゃんと持って来ましたよ?」
そう、メリナは斧を使うと言っていたが、斧どころか回復系の魔術を使うための杖やら何やらをその手に持っていないことだった。
「あっ!トマホークみたいな小型の斧を隠し持ってるとか?」
何度も言うがメリナの胸以外華奢な体つきからすればトマホークぐらいが丁度良いのかもしれない。
「違いますよ?私、結構大振りな斧を使うんです。だがら、隙が出来やすいので援護をお願いしますねライザ。」
そう言ってメリナは彼女が右腕に着けているフエルテに左手をかざすと、フエルテから光が発せられてそれが双刃の大振りな斧の形を成し始めて完璧に実体化した斧がメリナの両手に受け止められる。
「フエルテってそういう使い方も出来んの?!」
ライザは勢いよくラシェルを振り返った。ライザの元いた世界ではまず見ることの出来ない光景だ。
「そういえば言い忘れてたわね。フエルテは成長度合いに合わせて自分の使う武器を封印することが出来るんだ。ライザ、手をフエルテにかざしてみろ。」