語られる悪夢
メリナはラシェルに助けを乞うような視線を上目遣いで送る。
「確かに、メリナだけが生き残ったというのもこの状況からすると変だな。どうやって戦いから逃れたか教えてくれるか?」
「うぅ…実はここが攻められた時、お父様達が私を隠し部屋へ逃してくれたんです。でも、お父様とお母様は襲われて眠りに落ちてしまいました…今は2人の寝室で眠っています。…これでも信じてもらえませんか…?」
メリナは恐る恐る2人を上目遣いに見上げる。
「すまないメリナ、別に疑ってるわけじゃないんだ。ただ、こういう状況下では疑わざるを得ないんだ。」
「そうですか…じゃあ、眠りに落ちてしまった私の両親の部屋へ向かいましょう。」
メリナに言われてついて行くと彼女はある部屋の前で止まり扉を静かに開けた。部屋には天蓋付きの俗に言うお姫様型のベッドに2人の男女が横たわっていた。カーテンは閉められ、光はライザ達が入ってきた扉からの光のみだ。
「メリナのお父さんお母さんか?」
ライザは高校生の時に散々勉強したルネサンス時代のいかにも貴族といった感じの2人の顔を見下ろしながら聞く。
「えぇ…私の両親、ギルバート公爵と公爵夫人です…」
そうメリナが説明した2人のふくよかな顔は街で倒れている人々同様にどこか苦痛を浮かべた寝顔だ。
「騒ぎが治まって隠し部屋から出て来たら…」
2人がこうなっていたというわけだ。
「その、影のような連中のせいでこうなったってメリナは言っていたけどその連中の行った先はわかるか?」
ラシェルは両親の顔をじっと見つめるメリナの肩に手を触れながら聞く。
「いえ…私が部屋から出て来た時にはその影達は跡形もなく消えていました。」
メリナはなんとか平静を保ちながら答える。自分の親が寝たきりのような状態であれば当然だろう。ライザも自分自身に重ね合わせてしまった。
「んっと…じゃあ、その…なんだっけ?フエンテデルスに行ってみないか?」
「フエンデルスな」
「っと、フエンテデルスはスペイン語だった…」
「ん?スペイン…語?」
「あぁいや、何でもない!」
実はライザは元の世界の大学でスペイン語を専攻している。といってもラシェル達にはもちろん通じない。
「で、メリナのお父さんもフエンデルスに調査隊を送ってから影の連中が出てきたんだろ?だったら俺達もそこに行ってみないか?」
メリナの話しからするとその影達はもの凄く危険だと予想出来る。場合によっては命の保障もされない。しかし、フエンデルスに行かなければ話しが進まない。
「よし、ライザのいい訓練にもなりそうだな。じゃあ、そういうことで私達はフエンデルスに行ってくる。迷いの森の場所は分かるかしら?」
ラシェルが話しをまとめにかかる。
「あの、私も連れて行って下さい!」
突然メリナが言い出した。
「え?でも、戦えないなら危なくないか?」
「ライザもあまり人のこと言えないだろ?」
ラシェルに言われてしまった。
「とすると、メリナは回復系の魔術でも使えるのか?」
ラシェルは大体のメリナの外見からくる印象で推測する。
「はい、回復系魔術と斧が使えます!」
「えっ!?」
一瞬ライザは耳を疑った。この内気で胸以外が可憐な少女から斧を振り回す姿は想像出来なかった。
「一応私もフエルテを持ってるんですよ、ほら!」
メリナは細い右腕をライザに差し出すと、ライザがラシェルに貰ったものとはまた違うフエルテが彼女の腕につけられていた。