沈黙の館へ
パッと見た感じではその建物は某大国で見たような大統領官邸や北のおとぎの国と呼ばれる国の首都にある市庁舎のように趣向が凝らされていた。
ここはヨーロッパなのかというぐらいに見ている者の眼を引く造りだ。
「ここも同じか、門番達眠っているみたいだ。」
ラシェルはそういいながら門を倒れても衛る門番の装備を探り始める。
「手伝う…」
ライザも別の門番の装備に手を着ける。すると、何か硬いものに指先が触れる感覚がした。
「おっ!あった!ラシェル、鍵見つかったぞ!」
ライザは宝物を見つけたかのように鍵をラシェルに見せた。
「やったなライザ!早速中に入ろう。」
ライザは鍵穴に鍵を挿して回すと鉄格子の門が悲鳴を上げてライザ達を招き入れる。
その悲鳴は安易にこの惨状に足を踏み入れたライザ達を嗤っているかのようだった。
「うわぁ、でけぇな…!」
門をくぐり抜け庭園を通り過ぎ屋敷の扉を開いて中に入ると、大理石の床や壁に色鮮やかなステンドグラス、しかし今は光が差さない。加えて見上げると首が痛くなってきそうな高い天井。
ここはこの街を治めるギルバート家の屋敷だと言うが人が生活している感じはあまりしない。
「ここは貴族の屋敷だからまぁ普通だろう?それより、ギルバート公爵の執務室に向かおう。まぁ、街があの様子だと望みは薄いかもしれないけどな…」
半ばギルバート公爵の身の安全が保障されていないことを覚悟しながら2人は屋敷の廊下を進んでいく。
そして、ラシェルのあとをついていくと他の小さな部屋、といってもライザの元住んでいた部屋よりかは大きい部屋だが、それより大きな部屋の両開きの扉の前に辿り着いた。
「公爵、いらっしゃるか?」
ラシェルはノックして扉の向こうに呼びかけるが、返ってきたのは沈黙という応えだった。
「どうするラシェル?」
「よし、返事がないなら中に入るぞ」
ラシェルはライザの問いかけにかぶせながら扉を開けた。
「ここもダメか…」
「いや、誰かがいた痕跡がないわけじゃないみたいだ。」
そう言いながらラシェルは散らかった机の上に置かれた何やら重要な書類を手にとる。
「これ、なんかの手がかりになりそうか?」
ライザも散らかった机の上を漁るが何せレヴェリエの文字が読めないから話にならない。
だが、その時背中側の扉の方で物音がした。
「?誰かいるのか?」
ラシェルが扉の向こうに呼びかけるが返ってくるのは遠のく足音だけ
「ラシェル、追いかけよう!」
ラシェルが動く前にライザは走り出す
「そうだな!」
「ライザ、相手はもしかしたら武器を持っているかもしれないってことを常に忘れるな?」
ラシェルは廊下のど真ん中を走るライザに並ぶ
「え?」
「いいか?これが実際の戦いだったら次の曲がり角に敵が待ち伏せているかもしれない。それにこの一直線の廊下にも敵がいる場合だってある」
ただ目標を追いかけているだけだがラシェルの一言で随分と話の雰囲気が変わってくる
「んじゃ、御指南願えますか?教官。」