眠った街へ
何やら怪しい動きだ。
「ん?何って、鍵開けに決まってるだろ?」
疑いの眼で見たライザが逆に何を言っているんだ?みたいな眼でラシェルに見られている。
「おいちょ、ちょっ、待て!俺達泥棒じゃないんだぞ!?街ん中に入る方法は他にもあんだろ?!」
ライザはラシェルの金具を持つ手を抑える。色々とツッコミたい部分はたくさんあるが、とりあえずライザは彼女の手を止めるべきだと判断した。
確かに今思いつく限りではラシェルの方法が最適かもしれないが、昔からライザはこの手のことには非常に厳しい。
「じゃあこうしよう、私だけ中に入って誰か呼んで来てこの門を開けさせる。これならライザが泥棒にならなくて済むだろう?」
実際は問題はそこにあるのではない、とライザはラシェルに言いたかった。
しかし、今がこういうことを論じるに相応しくないことぐらいライザも分かっている。
「……分かった、俺も行くよ。」
「無理しなくていいんだぞライザ?確かにこんなとこを誰かに見つかったら衛兵に通報され兼ねないしな。」
そう言いながらラシェルは再び鍵開けに戻る。
「いや!行かせてくれっ!!」
後で思えばなぜそう思ったのかはわからないが、今は強く行かなければならないとライザは思った。
「よし、じゃあ行くぞっ!」
ライザとラシェルが門に手をかけて押すと巨大な鉄の扉は低く唸るような音をあげて開いていく。
門が開くとともに視界が開けていくと同時にライザはあるものを見つけた。
「おいラシェル、あれ!!」
「人が倒れてるな。」
ライザの指差す先には1人の男が横たわっていた。
慌てるライザを他所にラシェルは冷静に彼に駆け寄って行く。
「死んでるのか?」
「いや、まだ死んでないな。気を失っているだけみたいだ。息もあるし脈も弱いけどまだある。特に外傷もないな…」
ラシェルは救急隊の如く男の体を調べながら容態を説明する。何かこのような危機管理に対しての訓練を受けているのだろうか。
「大丈夫ですか?!」
ライザが横から男の肩を体を揺すらない程度に叩いてみる。確かこの方法は学校の保健体育の授業で習った記憶がある。
「変じゃないか?ラシェル…ただ眠っているだけに見えるけど…?」
「確かにそうだが、何か他にも理由がありそうだな…」
だが、眠っているように見える彼の顔はどこか苦痛を味わっているように見える。
「とにかく、先に進もう。」
2人が街の中を進んでいると先程の男のように不可解な眠りに落ちている人々が通りに、家の中に横たわっている。
それはいつかホラーゲームで見たような光景だ。
いざそれが自分の目の前に現れると恐ろしいぐらい背中に寒気が走る。
「やっぱり伝染病かなんかなのかな?」
「ん…私もその可能性は考えていたけど、それなら死者が出てもおかしくないはずだ。だけど、私達が見る限り誰も死んでいない。」
「あぁ、そうだな…」
今まで冷静に見えていたラシェルもこの事態には困惑しているようだ。
もっとも、終始一連の出来事を理解するのに時間がかかるライザの頭の中はもう無法地帯だ。
そして数分後、2人はこのイノセンシアという街の中で1番大きな屋敷の前に辿り着いた。