第三話 表と裏とⅢ
外部からの侵入は、オクトパシィに押さえられているわけか。
そんで、運営側はプロテクトを破る努力はしているが、間に合いそうにない。運営のバックには日本のトップクラスの技術者が、会社の枠を超えて協力してると見ていいな。海外企業とのビジネス戦争の側面を帯びてきた。
テロ側技術者と運営側技術者の間で熾烈なプロテクト合戦が起きてるってとこか。互いにプログラムの弄りあいしてんのかよ、クラッシュの危険も考慮した方が良さそうだな、こりゃ。(絶望的状況だ。)
科学技術の躍進と共に、コンピュータ界隈も大きく様変わりした。インターネットはそれまでのネットワークというだけの意味では捉えきれなくなり、電脳空間と呼称されるものに変化した。個々のプログラムも巨大化し、RAN状態のままで一部書き換えや機能追加が為されるようにもなった。バーチャル世界の出現で、いちいちプログラムを止めての点検などしていられなくなった事が大きい。
日本のVR関連事業すべてに大ダメージを与えかねないわけだ、それが利益に繋がる外国産業ももちろんある。
次から次と投入されてくる有り得ない設定は、そういうカラクリか。日本企業のシェアは膨大だ、それを横取り出来るチャンスと取られちまったのかも知れない。
テロリストのバックにも企業体の影が見える、秘密結社にしても無関係なんてことはないだろう、そんで、運営は日本最大のヤクザに泣きついた。日本企業VS海外企業にシフトしちまってる。
ずいぶん、最初のシナリオから外れてきたもんだ。
『景虎。こちらパックス1、最新情報だ。例の伯爵がVR箇体に入った。何か仕掛けてくる気だ、気をつけてくれ。こちらは引き続き、各組織の動きを見張る。』
「待て。質問に答えろ。」
『なんだ?』
時間が差し迫って、通信の声は幾分尖っている。たぶん、こっちも同じだからお互い様だが。
「こっちの正体に気付いたら逃げ出すと見られていたんじゃなかったか? すぐに手を引くと思われてたから、慎重に動けって命令だったはずだろ?」
『向こうにも退けない事情が出来たんだ、GSインダストリー社が噛んできたらしい。軍事専門だが、今回の計画に見る所でもあったんだろう。確実に言えるのは、ロクな事は考えてないって事だ。あの時のご婦人だよ、新たな絵を描いたのは。』
伯爵が敬語を使いまくってたからな、偉いとこのババァだろうとは思ったが。軍産系列の権力者か。
しかもGSインダストリーっつったらアメリカさんじゃねーか。日米協定はどこ行った。
『こっちは現在、そういうわけでな、スパイ戦の只中だ。どうやらウルフパックスの存在に勘付かれたらしい、機密情報を盗もうとする連中を追い払うのが優先だ。お前も気をつけてくれ。』
「ああもう、本当に次から次だな、まったく!」
大混乱だ。何がどうなってんだか、整理しないとワケが解からん! 三つ巴なのかよ!?
現状、このゲーム世界は日本企業連合体によって防衛されている。
攻撃を仕掛けてんのは、国際テロリスト"オクトパシィ"で、その裏で手を引いてんのは秘密結社"N"だ。その"N"ってのは、出先機関に過ぎなくて? ああ、けど、本家のNo2がゲーム内に潜入しているんだよな。
そこへ、米大手軍産企業のGSが絡んできたってことか? なんのために?
"N"の狙いは、プレイヤーの意識を抹殺することだ。VR箇体を外部リモートか何かの手段で操作し、中で眠っている肉体に別の意識を移植する方法を開発したんだったな。秘密裡に動きたいが為に、連中はテロリストを利用した。デスゲームを演出させる事が目的で、プレイヤーの全滅は本意じゃないはず……だが?
じゃあ、"オクトパシィ"の狙いはなんだ? ……建前は、有害なVRゲームに抗議する、だよな。いや、金儲けの為にやってるプロ市民だからな、金以外なんてないだろう。
テロリスト達も最初は確か、自作自演での脱出劇を演じることが目的だったはずだ。その為に、少ない犠牲は出す予定を組んでいやがったはず。
まさか、GSが噛んだことが原因で自爆装置を仕掛けられたのか?
ゲーム世界の崩壊とか、プレイヤー全滅とか、大事故を仕掛けて誰がどんな得をする?
次々と当初のシナリオが塗り替えられていく。ルシフェルがやられたような、ゲーム内部での人格変換が出来るバグホールを塞がれたら、今度はまた別のホールを利用されて、計画は二転三転しながら最悪のものへと変貌しているような気がする。
いや、脱出の魔法陣は生きているわけだ、出口はある。だったら、この自爆装置もプレイヤーを追い立てる為の演出か? それもあるだろうし、もう一つ、ゲーム内データの抹消辺りを狙ってんのかも知れない。
"N"の存在は割れてしまったんだ、証拠隠滅で事件を闇から闇へ葬ろうって腹か。入れ替わった人格と元の人格、比較検証のデータはおそらくこのゲームログしか残らないからな。
証拠さえ残さなきゃいい、か。乱暴な手に出やがった。
それぞれの組織は共闘してるわけじゃない、情報は錯綜してると見るべきだ、おそらく"N"はウルフパックスの存在を知らされていない。知ってたら顧客の方で手を引いてしまう、知ってるとするなら上層部……伯爵あたりは知っていてもおかしくない、か。
GSが"オクトパシィ"を動かしたと見たほうが良さそうだ、連中の狙いは"景虎"だな。
日米共同開発のウルフパックスだが、アメリカさんには向こうなりの事情があるって事だ。開発陣からハミゴにされたGSが巻き返しの策に打って出たってトコだろう。(あのババァと手を切りゃ済む話なのによー。)
そんで、もう一つ。日本企業、海藤財閥のお家騒動か。
よぅし、だいたいのトコの整理はついた。
こっちはお前んトコと違って、大協定繋げるんだよ、残念だったな、ルシフェル。プレイヤー一丸となって対処してやるよ、欲を掻きすぎたと後悔しやがれ。
奥で人の声がした。
「ルナ! 秋津!」
飛び込んだ一室に探してた二人が揃っていた。お馬さんも一緒に。




