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デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
第九章 ハングリー ライク ザ ウルフ
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第九話 貴婦人は血を浴びるⅠ

 真っ白い空間を移動中の俺に、ウルフからの通信が入った。パックス2か。

『景虎、聞こえるか?』

「感度は良好だ、なにかあったか?」


『ルシフェルのプレイヤーを乗っ取った組織幹部の正体が割れた。連中が実行を躊躇するはずだ、ヤツは本家組織のNo2、クリストファー・ハルトフォード伯爵だったんだ。ゲストの、オークションへの食い付きが悪かったらしい、組織の中の重要人物である彼が自ら実験台に立ったようだ。』


「そいつの出自は? あいにく日本を出たことないんでな、伯爵とか言っても聞いたことねぇ。」

『田舎者め、』

 くすり、と笑ったような鼻を鳴らす音が聞こえた。


『伯爵の称号を持ち、イギリスの上院議員を務めた経験もある名士だ。由緒ある家柄と、莫大な富を築いた成功者、ただ、人生の終焉が近付いていた。表向きは隠していたようだが、彼は筋金入りの白人至上主義者で、帝国主義の復活を望んでいたらしい。植民地支配を正当化するための法案を提出して政界を追われている。』

「キチガイだな。」


『近年にも、奴隷制度廃止が間違いだった、とかの狂った論文が出回っていたそうだが、濡れ衣だと訴えていた。本当のところはどうだかな。そんなところだ。追加報告終了。』

 ブツリと唐突に通信が遮断される。このノイズはなんとかなんねーのか、耳障りで仕方ねぇな。


 ふたたび通信。俺の動きを察知して慌てて追加情報を入れてるようだな。

『パックス3だ。挨拶は省く。何かいきなり大胆な行動に出たな? 脈絡ないね、あんた。』

「善は急げっていうんだよ、日本じゃ。」

 日本語の会話だが、実際に連中が日本人である可能性は薄いって気付いて"取って付け"しといた。

 やっぱり日本人じゃなかったらしく、鼻で笑うその音には疑問形が混じっていた。


 これだけのハイテク機能が満載なんだ、自動翻訳も完璧なんだろうよ。


『まぁいい、こっちも報告だ。電脳空間、ゲーム世界内部での意識の上書きは現在では不能となるよう措置が取られた。だが、あくまでゲームサーバでの書き換えのみに対応だ、個人のVR箇体でやられたら処置なしだ。』

「おそらくはそっちで工作してんだろ、シロウトには自分のVR箇体が外部リモート食らってるとしても、解かったもんじゃないからな。」


『ああ。その通り。他にも、接続変換の隙を突く方法に、サーバーダウンに乗じる方法など、幾つかの狙い目と見られている部分については、触りようがない。さらに悪いことには、乗っ取る相手の記憶はそのまま受け継がれるらしい、成り代わりが容易くなっている。』

「……厄介だな、」


 入れ替わった後も知らぬ顔で元の人物として過ごし、ほとぼりが冷めた頃に姿を眩ますという方法を取られれば、何の証拠も残らない。意識の上書きは、記憶はそのままに残るせいで本人特定が難しい。


 他人の人生と未来をそっくり奪っていこうというわけか。老いさらばえた自身の人生を延長する為に。

 とんでもない外道が居たもんだな。


 目標の座標軸が近付いた。

 XYの簡易座標なんかじゃない、ナビゲートシステムに導かれて数多のプログラム群の合間を抜けて、リアル世界のサーバからサーバへとネットワークを泳ぎ移動していく。

 一種のウイルスパターンと化して標的の位置へと送り込まれるんだろうが、細かい仕組みがどうなってんのかなんて事は俺に聞くな、て感じだ。


 どこぞのお屋敷の電脳セキュリティシステム回路内部に、俺の目となるハッキングツールが仕込まれる。

 イメージとしては、薄く引き延ばされた"俺"という個人の意識は電脳世界全体を俯瞰して、覆っているような、そんな感じだ。自由自在に何処へでも触手を伸ばす、スライム形状で。


 セキュリティのカメラが一人の老女を映し出した。

 バスローブを着て、セレブな室内を歩いている姿が見える。ソファに老人が腰掛けている。

 応接室にあの姿でって、それだけで、なかなか傲慢そうな貴婦人だと解かるな。

 かつては美人だったろう、胸のしわがれ具合で老齢と解かるが肌は艶やかだ。アンバランス。


「お待たせ致しましたわね、伯爵さま。」

「お気遣いは無用ですよ、マダム。貴女の至福のひと時をお邪魔してしまっては申し訳ない。」


「ホホ。……最近は、健康な若い娘がなかなか見つかりませんの。身元の不確かな者と限定するのは、そろそろ難しくなって参りましたわ。」

「美容と健康のため、若い娘の血を浴びる……セレブな美容法はなかなか世間の理解を得られませんかな。」


「中世の無智な婦人と一緒にしないでくださらない? 血のシャワーなど、科学的根拠がありませんわ。ワタクシが推奨しているのは、健康で若い娘を一人使うだけでいい、古い血液の総入れ替えですわよ。」


 人数が問題だと言いたいのか、方法が問題だと言いたいのか、まるでその美容法が倫理に反する事ではないかのような言い方だったな。金持ちってのは……狂ってやがる。


「本当に、かつての奴隷制度の世界であれば何の非難もありはしなかったでしょうに。」

「それは私へのあてつけですかな? あの論文は、私が書いたものではありませんよ。」


 大袈裟なジェスチュアで伯爵は首を竦めて否定する。

 ロマンスグレーの頭髪、身長は高く、痩せぎすでわし鼻が立派だな。神経質そうな顔だ。

 どこか、ゲーム世界のルシフェルに似た雰囲気を持っている。


「例のお話しのお返事を聞きに来てくださったそうですわね。……なかなか魅力的なお話だとは思いますのよ、けれど、今回はちょっと……。」

「黄色いサルはご不満ですか? しかし、これはあくまでキープ、予備の肉体とお考えいただきたい。純粋血統の素体が入手出来ればすぐにでも入れ替えが可能です。そして……失礼ながらマダム、あなたにはあまり時間が残されてはおりますまい。」


「継続が不可欠という事は存じ上げておりますわよ。思考の似通った者を探すことは難しく、貧困者などドロップアウトの者に限定していては、素体が見つからないとかいうお話も。」

「そうです、マダム。それでなくとも思考パターンの類似する素体候補は数少なく、そこへ別の条件付けなどを加えては素体そのものが居なくなります。警察の捜査などを御心配になるのでしょうが、問題はありませんよ。犯罪の決め手となる"被害者"という存在はないのですから。死体がないのに、どうやって犯罪を立証するのですか。」


 死体なき犯罪は、立件自体が難しいってことを承知していやがる。


 だが、どうにも解からない事が一つある。

 このセレブたちは、自分たちのやろうとしてる事が、いずれ支持される事を前提に話をしてるんだよな。

 どういう感覚なんだ?



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