第五話 金とヤクザと秘密結社Ⅲ
『景虎。どうせお前さんが本格的に動き出したらバレちまうことだから、正直に白状しとくぜ。今回の事件には二つの陰謀が絡まっている。一つは、さっき話したディストピア計画。もう一つは恥ずかしながら内輪のお家騒動でな、海藤グループにまつわるもんだ。』
「お父さんとお母さんは結婚を反対されてたんだよ! おじいちゃんがヤクザだからって! なんにも関係ないって言ってんのに、叔父さんたちはルナのお母さんを悪者扱いにして……! 大嫌いっ、」
ルナがしゃしゃり出て訴える。ヤクザってのを、どうもコイツはよく知らずにジジイを庇っているらしいな。
「……けど、死んじゃえとか思ってたけど、本当に死んじゃったらすごく嫌だった。」
『瑠奈、』
西陣のじいさんは、申し訳なさそうな顔をしてルナを見つめる。最初っからの陰謀で帯刀氏とじいさんの娘ってのが出会ったわけじゃなさそうだな。色々ドラマもあったんだ、きっと。
『まぁ、娘が選んだ相手だ。文句は山ほどあったんだが、言ったところで始まらねぇや。実家との縁もすっぱり切って、身綺麗にしてから送り出してやろうとな。そうこうしてた矢先に、鳴海さんがよ、死んじまったんだ。そうなると困ったことに、この子がな、微妙な立場に置かれてしまってなぁ。』
『双方でなんとか穏便にと話を進めていたんだが、どうにも欲を出した野郎が居たようでな。混乱に乗じて、次の総帥の座に収まるためにとな、今回のデスゲームを利用しようとしているんだ。』
「わたしと結婚するつもりなの。わたしを、別人と入れ替えて、家ごと乗っ取ろうとしてるの。五人の後ろ盾の誰かは解かんないけど……、酷いでしょう?」
ルナが俺の袖口を引いて訴える。なんか含みのある言い方だな。
「……て、なんで怒んないのよっ!? わたしの事、心配じゃないの!?」
あ? 俺にどうしろっての。
キーキー怒ってるけど、ワケ解からん。
「お前は釣った魚に餌はやらないタイプだな、本当にお前とルシフェルはよく似てるよ。」
秋津がヤレヤレ顔で言う。あのヤロウと一緒にされるのは非常に腹が立つんだが。
『連中が行動に移ってこなかった理由は、そういうわけでな、瑠奈を特定出来なかったという点にある。ところが、偽の情報を鵜呑みにして連中は動き出してしまったのだ。ルナと間違われた一人のプレイヤーが、どういうわけか、海藤家に連なる人間だと認めたらしいのだ。個々のプレイヤーの身元は特定できないように細工をしてあるのだが、嘘の証言が、連中を阻む理由を消滅させてしまう格好になった。』
「ルナだと思って入れ替わって、ぜんぜん違う人になってビックリするよ、きっと!」
いや、問題はそこじゃないから。
『連中は一気に計画を進めにかかるだろう。内部に潜入してストーリーを推し進めていた工作員を回収した後に、全プレイヤーを抹殺にかかるはずだ。残念ながら、その方法がどういったものかは解からない。デスゲームをプログラムした者が解析ロックを掛けている、バグに触ることが出来ない状態だ。景虎は、米軍特殊機構の所属コマンダーという扱いだ、事後承諾ですまんが、お前さんは今この時から軍人としての扱いになる。』
本当にさらっと言ってくれるぜ、このジジイ。
俺が言葉も出ないでいるうちに、どんどん話を詰めていきやがる。
『今回の任務は、電脳の海を泳ぎ渡り情報を集めて、ディストピア計画を潰すという事になる。お前さんだけでなく、"景虎"と同じシステムを持つクルーがすでに活動を開始している。米軍内部で彼らはサイバーウルフパックスとか呼ばれているそうだ。まぁ、しっかりやってくれ。わしの孫娘の為にも。』
どうせお孫さんはいつでもログアウト可能な状態なんだろ、どうせ!?
そんで、米軍! もう少しマトモにネーミングしろっ!!(使い回してんじゃねぇっ)
『向こうは"ウルフ"の存在を知らん。自分たちの計画が筒抜けで、すでに包囲網が完成間際にあるとは思ってもおらん。でなければ、計画を延期するだろうよ。VR箇体から解放された途端に、悪事がバレるわけだからな。だからこそ、計画を断念させることなく実行させ、なおかつ、霧散される前に、なにがなんでも潰すんだ。』
『まず、敵の所在の特定、それは他のウルフたちが当たっている。彼らから情報を得られる。秘密結社内部に潜入しているウルフが計画の全貌を掴んだら、反撃に移れ。それまでは、たった一人で御足労だが、奴らの計画の阻止を頼む。サーバーに取り残された1000人近いプレイヤーの命が掛かっている、頼んだぞ。』
実質、中に潜入しているっていう工作員の足止めってところか。ソイツさえ逃がさなきゃ、計画は実行できない……? その工作員って、そんなに重要なヤツなのか?
「たった一人か二人の工作員なら、無視して強行するんじゃないんですか?」
ナイス質問だ、秋津。
『それは解からん。どういうわけか、連中は計画実行の機会があったにも関わらず、サーバーダウンで片を付けることはしてこないのだ。その辺りの事情も、じきにウルフからもたらされることだろう。恐らくは、なんらかの事情があって、組織の幹部あたりが潜入せざるを得ない状況が起きていたと思われる。幹部を見殺しには出来んだろう、逆に言うなら、その他の理由は思い当たらん。』
組織幹部が入り込んでいる可能性……おそらく、あのヤロウだな。
『そして、秋津くん、君には残念な知らせだ。君の知人であるルシフェルのキャラに入っていた人物だが……組織によって、意識を上書きされてしまったと見られている。残念だが。』
やっぱり。あのルシフェルはもう以前のヤロウとは違う、別人か。
ショックを隠せないでいる秋津が、後ずさって、両手で顔を覆った。
慟哭がダンジョン内に低くこだまする。




