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デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
第八章 ドリーム ノット アウェイキング
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第八話 籠城Ⅱ

「秋津って、ルシーの親友だと思ってた……。」

 姫香がまた、奴の胸にしなだれかかったらしい。視界が肌色に染まる。


「俺の友達? ……そうだな、このキャラの友達ではあるだろうね。」

 なんて冷たい響きをした言葉なんだ。秋津の野郎はあんなに悩んで、お前を見捨てられずにもがいていたのに。て、いうよりも別人のようにも聞こえる。お前、本当にルシフェルなのか?


 疑問は膨らむばかりだが、今はそれどころじゃない。ルナの安否が優先だ。


 秋津は今、ルナを連れて隣のフィールドの洞窟ダンジョン内に居るわけか。

 そこには、テロ組織の次なる刺客も同行している。秋津にくっ付けたカケラに意識を飛ばしたいとこだが、向こうのフィールドはさすがにエネミーが涌きだしてくる。どうしたもんか。


 あ、そういえばスキルで地面に潜っておくのは確か有効だったはず。

 以前にルシフェル陣営の偵察で、カケラを土の中に埋めたっけな。あれの応用でいけるか?

 そうとなればさっそく本体にチェンジだ。意識が飛ぶ、風景がガラリと変わる。元のスライムに戻った。


 急いでフィールドを抜けて、隣のダンジョンフィールドへ移動する。

 明るい森林地帯にはあちこちにジャムが居て、うろうろと動き回っている。見つかったら群れてくるからな、素早く街道脇の地面へ移った。


 スライムの特種スキル【待ち伏せ】を発動。土の中に潜り込んで息を殺して敵を欺くっていう単純な効果しかないものだが、現状ではもっとも有効なスキルだな、考えてみると。

 こと、ここに至っては、よくぞスライムでINしてたって感じだよな、俺も。色々便利過ぎる。


 エネミーに勘付かれて群がられる恐れもない、これで後は意識をあのランスへと飛ばせば、状況が解かるはずだ。無事でいろよ、ルナ。


 意識を飛ばす、秋津の持つカケラへ。


「日本人は偏見で僕らを見てる!」

 とつぜん、聞き覚えのない声が聞こえた。刺客か? やたら軽そうな声だな。


「毎日、毎日、スパゲティなんて食べてない! あのアニメはインチキだ! いいや、それは百歩譲ってもいい、けど許せないことがある、フランス料理とごっちゃにしないでくれ!!」

 ああ、あん時の中国人が言ってたイタリーか。すんげぇ解かりやすい……。


「あんたもたいがい日本人を偏見で見てただろ、」

 今度は秋津の声だ。うんざりしてんのが声の疲れ具合で解かるな。


 俺からは刺客のイタリアンの姿がくっきりと見えるようになった。

 ひょろりと背が高い、明るい茶髪の男キャラだ。もうこのゲームに合わせる気もないらしく、その服装は現代チックな茶系のスーツで、中世風世界観はぶち壊しになってる。"調和"の心は持ち合わせてないらしい。


「日本人は働きすぎだヨ。ゲームの中でまであくせくしてさ、……あ。そろそろ昼寝シェスタの時間だ。このダンジョンの中って、どこに休憩宿があるの?」

「そんなもん無いに決まってるだろ!」


 すげぇ。イタリーのゲームじゃダンジョン内に休憩の宿屋があるのか……。


「もー。だから日本のゲームは嫌なんだ。ダンジョン内に宿がないと、アタック途中でシェスタの時間になっちゃった時に困るじゃないか! ベッドと毛布、暖かい暖炉は必需品だろ!?」


 いや、きっと全てのイタリア人がこうなわけじゃないと信じたい。

 確かに国によってそれぞれVRゲームには特色があったりはするけども。イタリーじゃシェスタ対策は必須ってことなのか? そりゃ、ダンジョンによっては4~5時間篭もりっぱなしになるスケールってのも珍しくはないけど……。


 え? すると、ダンジョン攻略4~5時間+シェスタ2時間? お国柄ってすげぇ。


「VR箇体で身体は眠りっぱなしなのに、なんでさらにゲームの中でまで寝たいんだよ、」

「意識が眠ってこそのシェスタじゃないか、戦争中でも僕はシェスタを犠牲にはしないっ!」


 なんなの、そのコダワリ。


「いつ景虎が来るか解からないってのに、昼寝とか正気で言ってんのか!?」

 イライラが爆発したらしい、秋津が怒鳴りつけた。コイツ、真面目だからな、キレかけだ。


「オゥ、日本人はカルシウム足りてないよ。大丈夫、景虎も今頃はシェスタさ!」

 指を振りつつバチンとウィンク。一緒にすんな。


「あっ、そうだ。僕は外で待ち伏せておくよ! それがいい!」

「ちょ、計画と違うだろうが!? 自ら分断してどうするんだよ!? 景虎を挟み撃ちにする手筈だろ!?」


「大丈夫、大丈夫、来たら戻るから。コール機能は復旧してあるから、景虎が来たら教えるよっ。なんなら、一緒に外に出る? こんな暗いダンジョンに篭もってたらカビが生えちゃうよー。」


 明るいイタリアンは一人で勝手に決めて、一人で勝手に出口に向かう。

 それを秋津が慌てて追いかけようとして、けれど思い止まって見送った。

 お前らの漫才はもういいよ。それより、ルナは? 何処だ?


「あっ、お嬢さんのこと、よろしく頼んだよー!!」

 洞窟の中でエコーするイタリアンの声。秋津はもはや返事をする気も失せてるようだった。


 外国からのハッカーだが、さすがにVR世界じゃ自動翻訳が完璧ってレベルに充実していて、言語に不都合はまるで感じない。

 それだけに、首脳会談や国家元首の密談すらVRを駆使していたりして、ある意味では非常に危険なリアル情勢だ。殺られる時は殺られる、厳重な警護を破っての暗殺もあるなら、VR事故を装う暗殺だけを殊更に警戒したって意味はない。開き直りにも似た事由によって、世界はVR技術に依存した。


 多少の危険なんぞ、便利の前にはクズ同然。そうして様々な恩恵としっぺ返しを人類は享受してきた。

 開拓、エンジン、原発、VR。……ぜんぶ、同じだ。



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