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デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
第八章 ドリーム ノット アウェイキング
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第七話 籠城Ⅰ

「おい! こっちで何か……!」

 フィールドチェンジの途端だ。人だかりが出来てる、中央に数人が集まって、エカテリーナとネロの姿が見えた。皆、緊張した表情で……ちくしょう、やられた!


「おい! どうした!?」

「あ、景虎さん! いいところに!」

 一番外側にいたプレイヤーが気付いてくれた。

 皆が道を譲って、俺を通してくれる。


 いったい、何があった?

 人だかりの中心にはマリーが座ってて、そして彼女の膝に頭を乗せられてんのは、海人だった。


「海人! どうした、何があった!?」

「襲撃を受けたんだ。海人とルナが二人、テントと離れた場所で模擬戦やってて……。」

 ネロの説明はそこまでだった。彼が顔を向けた相手、エカテリーナが続ける。

「そこへ例のランスが飛び込んで来たのよ、秋津とか言った? 馬に乗ってたわ。」


「馬だと?」

 馬なんて、両陣営でも見たこと……あ、最初の頃に出会ったあの馬か? 馬車の争奪戦してた。


「心当たりありそうね、景虎。」

「ああ。ずいぶんと前に出会ったことがある。ペットの馬にINしてたプレイヤーだ。協力させたんだろう、見捨てていくと脅されたかなんかだ、どうせ。」


 ネロがまた割り込んだ。

「海人と秋津じゃレベル差が有りすぎる、酷いダメージを受けたようなんだ。リアルでのショックが心配な状況だが、とにかく回復魔法で落ち着かせる努力はしている。」

「ああ、頼む。」


 Wiki情報が確かなら、回復魔法の一つ【祝福の光】で、リアルで食らった精神ダメージも軽減できるはずなんだ。海人のやつ、ルナを守ろうとして抵抗したんだろう、それでやられたんだ。

 真っ青な顔色で、意識もない様子だ。生死の境ってヤツだ。

 ……死ぬなよ、海人。


「ルナは奴に攫われた。行くならコレ持ってけ。」

 ネロが投げ寄越したのは、『強壮薬』だった。スタミナゲージが一定時間満タンで減らなくなるアイテムだ。

 入手にはけっこう厳しい条件が付く。ログイン回数1万回で1個貰える特典アイテムだっけか。

「サンキュ、」

 とっておき、なんだろうに。有難く使わせてもらう。


 秋津の野郎を寄越しやがった。

 ルシフェルのヤロウ、腹心をこっちへ寄越すってのはいったい、何を考えてのことだ?


「秋津は馬に乗って、一人だけだったのか?」

「ああ、単騎で乗り込んできやがったぜ。アイツは、戦闘技量だけなら実はルシフェルよりも強いんだ。追いかけるんだろ、景虎。ヤツは峠に向かっていた、恐らくダンジョン経由で居住区へ戻る気だ。気をつけろよ。」


「解かった、」

 短い返答をネロに返す。


 サザンクロスとルシフェル一味は知り合いだ。いや、トップクラスのプレイヤーなんてのは顔が広いのは当然で、皆が横で繋がってるようなものだ。だから、お互いの情報は知り尽くしている。

 チート以前の俺はせいぜい中堅ってところだから、連中の方は俺を知らないだろうけど。


 単純にバグだけで成り上がったんだ、一瞬にして俺は最強になった。だから、連中は俺がどれほどの戦闘力で防御力で、どんな戦法を好むのか、なんて基礎情報はまるで知らない。


 秋津は一人で来たのか。しかし馬とは厄介だな。

 ルシフェルのヤロウは何を企んでる? どんな取引をしやがったんだ。

 もしかしたら、秋津も囮ってことかも知れん。俺を、自軍から引き離したいんだろう。


「行ってくる。皆、あのヤロウはこの機に何か仕掛けてくるはずだ、気をつけてくれ。」

「任せろ、」

「アンタこそ、気をつけなさいよ。」


 頷いて正面を向く。

 峠フィールドの向こうで道が二股に別れる。そんで、片方はダンジョンのある一画と通じ、その道をさらに進めば居住区へ辿り着く。一本道の横に洞窟があって、それがダンジョンの入り口になってる。ヤロウは寄り道なんぞしないでまっすぐに居住区へ戻っただろうが、馬だと追いつけないかもしれねぇ。


 あのヤロウとは本気で腐れ縁のようだな、秋津。とっちめてやるから、覚悟しとけ。


 峠フィールドのエネミーはスケルトンだ。山越え出来ずに死んだ旅人が化けて出たって設定で、大して強い連中じゃない。面倒だ、トレインして引き連れてくぜ。

 そういや、あのオッサンが残したレーザー銃の設定はどうなってんだろう?

 威嚇に使えそうか?


 峠を抜けた。行きはまっすぐ来たが、この峠に通じる道の隣にダンジョン付きフィールドへ向かう道がある。

 簡素な杭に看板が打ち付けられ、斜めに朽ちかけて立っている。これを、曲がる。

 フィールドチェンジの微かな違和感があり、風景が微妙に変化した。道は続いている。


 この辺りは雑木林風味だ。これが峠フィールドになれば一気に風景が変わって突然両サイドが崖になり、もう一方の道を選べば明るい森林地帯になる。木漏れ日が差し込む、なかなか人気のデートスポットだが、デスゲームの今は誰の姿も見えない。


 簡単なモンスターが涌きだす。スライムの上位変換種でジャムと呼ばれるエネミーだ。俺の個体はどういうわけか、コイツの外見になってる。つまり、ツルツルした表面をしている。コイツ等も構ってられない、トレインだ。


 くそ、時間はさほどかかっちゃいないはずだが、ヤツの姿は見えない。

 やっぱ馬はズルだろ、めちゃくちゃ速ぇじゃねぇかよ。フィールドチェンジで居住区に入ったってのに、馬の姿なんか影も形も見えやしない。


 一旦、皮を脱いでスライムに戻った。

 そういや、こっち側から出た居住区のフィールドはまだ雑木林が続くんだったな、ちょっと意識を飛ばして確認してみるか。居住区はエネミー涌きしないからな。あのヤロウ、何処に行きやがったか。


 ランスに繋がらないって事は、何処だ? 隣り合うフィールドだ、城の中でも問題なく意識を飛ばせるはずだが、あの野郎は何処に行きやがった?


 くそ、姫香に移ってカケラを剥がして、情報収集するしかねぇか。チェンジ。

 ほどなくひそひそと囁くような声が聴こえ始めた。


「ルシー、なんだか今日は上機嫌なのね? なにかイイ事でもあったの?」

 ん? なんだ? 銀色の頭がいきなり視界を塞いだ。これはまたアレの最中か。苛つく奴らだぜ。


「ふふ。目の上のこぶが一度に消え去ってくれるんだよ、もうじき。」

 確かに、ルシフェルの声はどこか浮かれたようで楽しげだ。

 こぶには自分も含まれるとも知らず、言葉で返す代わりに姫香は含みをもたせた低い声で嗤った。


「そう言えば、いつも邪魔っけな秋津はどうしたの? 風邪でも引いちゃった?」

「イイところで必ず邪魔しに来るからな、アイツは。タイミングが悪いというか……わざとやってるのかと思う間の悪さだ。けどもう、アイツの邪魔は入らなくなるよ。アイツは今日からしばらく居なくなるんだ、景虎を引き付けておいて貰おうと思ってる。」


 やっぱりか。俺を足止めしておいて、それで何を狙ってる?


「秋津は強いのに、いいの?」

「いいんだよ。君は可愛いね、姫香。……君だけは助けてあげようか?」


「なに? ルシー、最近……なんだか、雰囲気が変わったみたい……どうかしたの? わたしだけはって、なに?」


 さすがに不安になったんだろう、姫香は密着していた姿勢から、身を起こしたらしかった。

 視界が変わる。ヤロウの姿がようやくで確認出来た。乱れた服装で、何をしていたか丸解かりなのは毎度のことだが、姫香が言うように、なんだか雰囲気が違うな。妙に迫力がある、とでも言うのか……。


「別に変りはないよ、姫。今頃、秋津は洞窟で籠城しているだろう。景虎と睨めっこしておいて貰おうと思ってる。さっき話したオクトパシィの刺客が一緒に居るからね、巧くいけば景虎を始末出来るはずだ。」


 悪党の眼差しで、ルシフェルは姫香を見つめた。


「本来、始末するようにと言われていた君を救い出してあげるよ。奴らを出し抜くんだ、景虎が足止めを食っている間に、向こうの陣営を制圧する。」


 そんなところだろうと思ってたぜ、秋津はやっぱり邪魔になったんだな。捨て駒か。



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