第八話 峠フィールドⅢ
「おい、お前! お前のチート武器、俺によこせよ! 最初から狙ってたんだ、それが欲しいからお前らなんかに付き合ってやったんだぞ、バーカ!」
ショタっ子は俺からルナに視線を向けて怒鳴った。脅し文句にしてももうちょっとなんとかならんかったのか。
興奮状態だネ。よっぽど嫌な目に遭ったと見える、軽く人間不信とかそんなんじゃねぇかな。まぁ、ルナとの一件でだいたいのとこは想像が付くってのがアレなんだが。
けど、だからって八つ当たりはイカンだろう。よいしょ。
俺の視点で俺が見えるってのは、これはこれでなかなか便利がいいね。敵の顔色見ながら判断出来る。
むくっ、と景虎のボディが半身を起こしたんだが、ウミンチュの後ろだから気付かれていない。ルナは気付いたけど、軽くホラーだから、真っ青だ。笑い顔に似たカタチで口がぱくぱくしてる。泣くなよ?
ちょうどいい位置関係だ。俺の頭半分とクソガキとルナが三角形の位置。俺はちょいルナ寄りで、クソガキの真後ろにむっくりと起き上がったゾンビな景虎のボディがそろーりそろーりと近寄ってる。
「あはははは!」
勝ち誇った笑いで締めくくってるとこを悪いな。
後ろから羽交い絞めにしてやった。
「ぅ、げぇっ!!」
自分を羽交い絞めに抱き込んでる相手を確認して、ウミンチュが真っ青になった。
「ルナ! コイツの武器、取り上げろ!」
口だけになった俺の顔はなかなかショッキングだ。ルナは嫌々をしてその場で立ち竦んでる。仕方ねぇな。
ちょいと肩を抑える力を強め、締め上げで海人の手から武器を放させた。
「は、放せ、放せぇ! バケモノ!」
本気で怖がってやがる。だいたい、死んだら消えるのがセオリーなのに、おかしいと思わなかったのか?
「俺が死んだと思ったか? 本体無事だからな、残念でした。」
鼻から上が吹っ飛んだ、口だけの顔でにんまりと笑ってみせる。まぁ、軽くホラーなのは俺も認めるところだ。
あ、白目剥いてやがる。せっかくの決め台詞だったのに……。
チートの大剣担いで、俺が俺に向かって歩いてくる。異常な光景なはずが、あんまり感じなかったりする。
持ち上げて頭の半分を元の位置へ合せようと思ったわけだが、ちょい考えが足りませんでした、サーセン。
くらくらするぅー、いきなり景色が下から上へ、急激に上がってしかも捻りまで加えちまったもんだから、ジェットコースターだ、うげ、吐き気がしてきた。目のパーツって、割と重要器官だったようです。
「景虎、大丈夫?」
「うっぷ、自分の迂闊さが自分で憎い。」
吐き気を堪えつつ、逃げようとするウミンチュの足首をむんずと掴む。逃げんな、クソガキ。
「ごっ、ごめんなさい! ごめんなさい!」
半泣きでビビりまくったショタっ子が震えあがった。
目ぇ覚ました途端に逃げようとするなんざ、よっぽど怖かったんだろうけど。
うん、なんとかくっついたな。景虎の顔には、鼻と両の頬に大きく引き裂いた傷跡が残されたけど、きれいにポリゴンの肌はくっついた。頭部切断は無かったことにされたらしく、側面、後頭部には何の形跡もない。
ルナはまた頬を膨らませて怒ってやがるが仕方ねぇじゃんか。なかなかワイルドな感じになって、俺個人の感想としては悪くないんだけどな。
このゲーム、最初の設定で歴戦の傷跡を残すかどうかを選択するんだが、俺がYESを選んでたからそうなったらしい。元々の俺のアバターキャラもそういうワケで傷だらけだ。今回みたいな致命傷の大きい傷は記録されるんだ。
メガネがぶっ飛んでってどっか行っちまったけど、俺的には元々好きじゃなかったからオーライだ。
「さてと。なんでこんな事考えたのか、理由を話してもらおうか?」
「そーだよ! おかげで景虎の顔に傷が入っちゃったじゃん!」
お前の問題はそこか。がっくり来た俺を無視して海人がぼそぼそと喋り出す。
「だって、ソロで行かなきゃいけなくなっちゃって、だけどやっぱりソロだと厳しいんだもん、チート武器も回数制限あるし、もう底をついてきてるからヤバいなって思ってて……、チート無しじゃ、独りでなんて絶対に街にたどり着けないもん……、」
ついに、ぼろぼろと涙をこぼして泣き始めた。独りでって、チート武器捨てて素知らぬ顔してどっかのチームに拾ってもらうとかの知恵も無いんかい。お子様ってのは良くも悪くも素直で困るぜ。
手にした大剣のアイテム設定欄を見れば、残り回数は10回を切っていた。
まぁ、あれだ。デスゲームになると色々と狂ってやがるんだよ。(主に人の心が)
「ねぇ、景虎。もういいじゃん、許してあげなよー。」
だからなぜお前は勝手に俺が激怒してる設定にする?
「許すも許さんも、どーせコレ俺のじゃねぇし。ルナがいいって言うなら、それでいいんじゃないか?」
「あたし、別になんとも思ってないよ! チート使ってたら仲間外れだもんね、一緒に行こうよ!」
うんうん、お前はノーテンキだけど、天使だな。
ウミンチュはうるうる目でルナを見て、またひとしきり泣きだしやがった。
「よし、話がまとまったとこで、さっさとこのフィールド抜けちまおうか。」
ルナのプレイヤースキルはお粗末なもんだが、海人の方はなかなかだ。別にチート武器使わなくても、連係出来りゃそれなりの強さを発揮して、攻略は格段に楽になる。充分役に立つ腕前持ってんだから、チート使ってたからって、この世の終わりみたいに絶望しなくたって良かったのによ。
も少しズルくなれや、お子様たち。
「あ、峠終わったよ!」
フィールドチェンジ、今までの風景が一つのラインを境にガラリと様変わりする。荒れた峠道のごつごつした岩の断崖に両側を塞がれていたものが、広々と開けた平原に変わった。
始まりの街までは、あと少しの距離だ。