第十一話 外の情報Ⅱ
ふぅ、と、やけに長い吐息を吐きだして、ヤロウは黙考に入った。
焦れるように待つのは秋津と、俺もだ。少し経って、ルシフェルが話を再開した。
「5人の陣営の誰かは知らない。ただ、プレイヤーの中に紛れている18歳の末娘を、このままこの世界へ置き去りにする事をもちかけられた。」
「なんだよ、それ? 救出じゃなく、見捨てろって?」
「俺に接触してきた男は姿を隠し音声を変えていた。堂々とは言えない依頼だということだな。そして、これがもっとも重要な点だが、断れば閉じ込めた全員を殺すと脅された。」
て事は、接触してきた5人の後ろ盾の誰かがこのデスゲームを仕掛けた犯人ってことだ。
しかし厄介だな、よりにもよってルシフェルを選びやがったか。サイアクだ。
「お前、まさかそれ……受けるつもりじゃ……、」
「仕方ないだろう? それとも、たった一人の為に全員を殺すのか? 俺だったら、そんな相談を持ち掛けられるのはごめんだね。それに、姫香は嫌われすぎている、今さらだ、皆が納得なんてしやしない。そうだろ?」
ルシフェルの言葉に、秋津は黙り込んだ。反論を、良心を封じられた。
あのヤロウ、かなり以前から繋がってやがったな。だから、姫香の好きにさせていたんだ、暴走するって解かってやらせていたんだ。そして、反対意見をねじ伏せる理由にしやがった。姫香の自業自得にして。
悪魔のような女だと思ったし、まだルシフェルの方がマシかとさえ感じたが……お前の方が上手だな。悪魔。
もともとルシフェルの計画は、プレイヤー全員の脱出にはない。
自身が英雄と賞賛されるに足るギリギリの数が足りてりゃ、それで満足だと考えてる。
斬り捨てる気満々なヤロウだ。
犠牲にする予定数に、一人くらい、その末っ子ってのが増えたところで問題じゃない。
当初の目的と大して変わりゃしないよな、お前にすりゃぁよ。
本当に、最悪のタッグだ。
「そして、もう一つ情報がある。いずれ、向こうの連中を揺さぶるのに使えそうな情報なんだが……、お前は特別だ、先に教えておいてやるよ。」
なんだ、その勿体ぶった言い方と表情はよ。さも大事な仲間だと期待させるような目で秋津を見る。
どうしてもコイツに離反はされたくないってのか?
以前に見た感じだと、コイツも鬱陶しくなってきたんだろうと読んでたんだが、外れたか?
「なんだよ、俺だけ先にとか。何の情報だ?」
特別扱いが気に入らないなんてヤツはまぁ少ないわけで、秋津もまんざらじゃない顔で照れてやがる。
これ、きっとこのヤロウの常とう手段だと思うが、意外に単純なランスにも呆れた。お前、邪険にされて、頭キて、離反考えてたんじゃなかったのかよ。ああ、もう。なんてカンタンなヤツ。
少し前屈みに秋津に近付いて、一段と声を潜めてルシフェルが喋り出した。
「景虎は細工無しの本当のバグだ。だから、プログラムの改変されている今の魔法陣に近付けてはいけないらしい。予測不能の状態に陥る危険性がある。ヤツのチート戦力は確かに魅力的だが、そういう理由でな、アテには出来ないんだ。」
なんだと……?
「ヤツ抜きでボス戦をやるには、戦力が決定的に足りない。サザンクロスの連中を吸収する必要がある。」
「方法も……お前のことだ、どうせもう仕上げの段階ってところなんだろ?」
自嘲気味な笑いを貼り付けて、秋津が答える。冷酷に物事を仕分けていく盟主に対する恐れが、いや増しているってところだろう。
「姫香の好きにさせてきた本当の理由は……皆にあの女を見捨てさせる為なのか?」
「そうだ。」
「お前は、怖いヤツだよな、……本当に、」
表情に嫌悪と恐怖を滲ませた秋津に、ルシフェルは微笑で答えた。
「全員が道連れにされるほうがいいか?」
「……」
とんでもない陰謀が出てきやがった。
今すぐヤロウを締め上げて、黒幕とやらに問い質したいくらいだぜ。
なんでこんな馬鹿げたことをした?
何人死んだと思ってる?
自身は安全な場所で、組織とかいう他人を動かして、心さえ痛めることもないんだろう。
薄い自覚しかありはしないだろうな、デスゲームの中で俺達は死の恐怖に震えてるってのに。
で、俺が、なんだって?
笑うしかねぇ。
バグるから、脱出は不可能……?
それ、本当なのか。
……ぶち殺してやりてぇ。




