第五話 パズルのピースⅡ
「向こうは例の景虎ですよね、やっぱり。ネックっていうか、あいつさえ居なきゃ、問題は起きなかったのに。」
また俺か。いい加減、イライラするよな、コイツ等の屁理屈ってのはよ。
なんでもかんでも俺のせい、かよ。
「いや、そうとも限らないぞ。連中のレベル、見てなかったのか? 確かに新人ばかりだったはずなのに、攻めてきた連中はそうとうにレベルが上がっていただろう?」
「ええ、そう言えば……。」
「どっかでレベル上げしたんでしょ? 俺らだって上げてますよ。」
一人は秋津の言いたい事に勘付き、一人はまるで理解しなかった。秋津はソイツを見ながら小さく舌打ちをする。まぁ、鈍感なヤツなんてのは何処にでも居るさ。
さすがにルシフェルの一味だけあって、他の連中よりも鋭いね。情報遮断の状態から、あの戦いでどういう分析に至ったものか、講釈を聞かせてもらおうか?
秋津の声は少々、棘が含まれるものに変わった。
「だから、おかしいんだろ。向こうのフィールドは他の何処とも通じてない袋小路の地形で、エネミーも涌かなかったはずだ。それがどうしてレベルを……、それもあんなに急激に上げてきたんだ?」
「あ、そう言えば変ですよね?」
「そう言えば……。ルシさんの計画だと、物資不足でそのうち連中がスタミナ切れを起こすから、その後に合流するって予定でしたもんね。」
そうか。そういう予定があったのか。物資は最初は平等に、少なくなってきたらどうしても主戦力に回されていく事になる。それを読んで、使えない新人を淘汰するつもりでいやがった、ってか。
俺達を追い詰めることで、さらに戦力とお荷物とを篩にかけて、お荷物の新人たちは完全に無力化するつもりだったわけだな。……俺達に汚れ役をやらせる気だった、と。嫌な野郎だね。(知ってたけど)
「向こうが根負けして降伏してくるって、そう思ってましたよね。」
「ルシさんもそのつもりで準備してたはずだよな、確か。スタミナ切れが沢山出るだろうって。」
後を引き受けるみたいなタイミングで秋津が言う。
「それがそうは行かなかった、いつまで待っても奴等はピンピンして動き回っていたし、そうこうする間に逆襲で攻めてきたんだろ。」
「そうでした。予想以上に景虎のチートが凄まじかったんですよね、まさか街のエネミーさえアイツにとっては雑魚扱いだなんて、ルシさんも想定外だったって……。」
俺のチート能力を正確に把握しときたいところだろうなぁ、あのヤロウにしてみれば。
前回はそれで大敗を喫したわけだからな。
秋津も苛立ちのにじむ声で、吐き捨てるような言いようだ。
「景虎から見りゃ、街のスケルトンシリーズさえ最弱のスライムと何も変わりゃしないんだろう。」
「ラストダンジョンのスケルトンシリーズですよ? ヘルハウンドとか、ボーンサイクロプスとか……初級ダンジョンのボスクラスなのに……。」
「本当の化け物なんだな、あいつ、」
悪かったな、バケモノで。
「恐らく、ヤツが街エネミーを掃除してレベル上げの露払いをやってのけたんだ、がら空きになった城門付近なら、難なく新人のレベル上げが出来るだろうからな。」
「けど、その為にはあの群れなす街のエネミーを短時間で一掃する必要がありますよ? 時間涌きするから、減らしても減らしても増えてくはずで……、ああ、だから景虎はバケモノなのか!」
感嘆というよりは、なんか憎々しげに聞こえるな、俺の噂。
「あまり街に入ってほしくないヤツなんだがな……。バグ満載のくせに、無謀というか、何も考えていやがらないのか。それでなくてもバグってる街がさらにバグる危険性とかは、野郎には関係ないらしいからな。」
「迷惑なヤツですよ、どうにか景虎を止めないと。」
そうか。こっちじゃそういう解釈になってるのか。
悪かったなー、考え無しに街に突っ込んでて。こっちも一応は気を遣って、城門付近の一画のみに戦闘行動を限定してんだけどな。恐れることはこっちも一緒なんだよ。
そのうち、急に一人が、おもむろに話題を変えた。
「……向こうの連中が言ってたんすよ、秋津さん。俺達、ルシさんに支配されてるって。」
「気にすんなよ、連中だって変わりゃしねーよ。」
「けど、向こうは上下関係なんかないって……!」
秋津が何か言うより先に、周りの連中が口々に否定を述べた。
ヤツは苦虫噛んだみたいな苦みきった顔で、聞いている。そして、答えた。
「一見そう見えるってだけだ、」
秋津がいやにはっきりと否定した。コイツは一味の中でもマトモな方だからな、どういう料簡でそう思ってやがるんだ?
「向こう陣営は、景虎一人がすべてを取り仕切ってる。アイツ一人が居れば事足りるって状態だ。俺達が四苦八苦してること……規律が乱れて、好き勝手しようとする者が現れても、向こうは景虎がどうにかしちまう。こっちは犯人捜しだけで大変だっていうのに、向こうは、アイツのチートな能力ですべてがあっという間に片付くんだ。」
コイツも俺を良くは思ってないんだろうな、憎々しげに吐き落した。
不正がはびこるのは、ヤロウが本気で規律に取り組んでないからだろ。適度にバルブは緩めておいた方が、支配はやりやすいもんな。厳しくすれば、それに比例して抑えつける力を強めなきゃならない。
「景虎の専制君主だよ、アイツ一人がすべてを押さえつけて君臨しているんだ。だから、乱れようがない。」
さすがにコイツは只者じゃない、よく見抜いてるね。
向こうはこっちみたいに搾取や何やと問題が起きたりはしない。
……俺が、怖いからな。
それは、こっち連中がルシフェルを恐れる心境の何万倍かなんてもんだ。
俺が許さないから、向こうは不正が一切起きてこないだけだ。
同じようには出来ないから、ルシフェルたちは支配の構図を作り、全員で対処しようとしてる。
本来は、ルシフェルたちのやり方が正しい。もちろん、洗脳は悪だが。
試行錯誤を繰り返し、悪徳を抑えながら、善意を拠り所にしながら、チート抜きで人々は同じレベル同士で協調して暮らさなきゃいけなくて。皆が同列に居れば、問題も数限りなく起きる、皆、欲がある。
こっちの連中は、リアルの縮図の中で生きようともがいている。
俺のチートは、いわば人類を神が直接導くようなものだ。
人類は、ちっとも自分の足では歩かないだろう。平和は平和だろうけどさ。




