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デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
第七章 エビルス アンド モンスターズ
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第三話 魔王城Ⅲ

「なにか用事があったんじゃないのか? 姫香。」

 ヤロウは一度インベントリに半身を潜らせて、服の着替え直しをしたようだ。姿を見せるときちっとした身なりに変わっている。


 俺はバグ仕様の詳しいところは知らないんだが、ふつうに胸元はだけさせたりとかも出来るんだな。

 アメリカ辺りのAVみてーに色気もへったくれもなく、いきなりすっぽんぽんになるだけかと思ってたぜ。このゲームタイトル、妙にプログラムが重いとか思ってたが、色々と余計な設定がバグで残されたままだからなんだな。


 姫香は跳ねるような歩調でヤツの傍へ近寄り、はずみをつけてベッドの、ヤツの隣へと尻を飛び乗せた。

 はずみでベッドが大きく揺れ、ヤロウも揺れる。


「うふふ。ルシーに喜んでもらいたくて、姫香、頑張っちゃった。」

「なに? また城の拡張でもしたの?」

「そう! アタリ! お城の前に公園を作ることになったの!」

「そうか……、皆が賛成してるならいいけど、あまり無茶はしちゃ駄目だよ?」


 心配している、という表情で、けれどヤロウは詳細を尋ねたりはしなかった。さして興味ないんだろう。

 話が膨らまないことで、少しの間、沈黙が生まれた。


「あのね、ルシー。姫香は、お庭には薔薇をたくさん植えたほうがいいと思うんだけど、ルシーは何の花が好き? 花の種類を聞いてから、お庭のデザインも考えようと思うんだけど。」

「俺は姫香の好きな花が好きだよ。姫香の好きな花なら、きっと可愛いだろうからね。」

 君の好きな花はきっと可愛いよ、……けっ。造園に関わるのが面倒臭せーだけだろが。

 そんで、姫香はその本心をうすうす勘付いていて、表情を曇らせた。


 ほんの微か、微妙なラインで、俺みたいなタラシでもなきゃ気付かないくらいの微細な変化だ。

 そんで、ヤロウは俺ほど女好きじゃないらしい、気付かなかった。


 ほんっと、迷惑な野郎だ。お前がそんな風に女を蔑にするから、女のほうはお前の興味を引こうとして、さらに他人に迷惑を掛けるんだろうが。イカレ女は、自分がイカレてるって事にすら気付かない。周囲の取り巻きどもも、麻痺してるから解かりゃしねぇ。疑いもしねぇ。だから、堕ちてくんだ。全員で。


 まだ解かりやすく障害持ってる人らのほうが善良なくらいだ、姫香たちは自分を普通なんて勘違いしてやがるからな。頭脳レベルじゃない、価値観が異常なだけだ、オメーらはよ。だから、救いようがねぇ。


「姫香は、ルシーの為になる事ならなんだってしてあげられるの。なんだってしてあげたいの。ルシーに相応しいのは、お城なの。けど、もっとゴージャスで、もっとスケールがあって、このゲームのどのギルドよりも立派なお城でなくちゃダメなのよ? お庭が出来たら、もっと、もっと素敵なお城になるわ。楽しみにしててね、王子様。」

 語る姫香の視線は宙を泳ぎ、どこか危ない人っぽい。

 まさかと思うが、搾取システムを作ったのは……この女だってんじゃないだろうな?


「ありがとう、姫香。君に待機組を任せておけるから、俺は安心して攻略組を率いることが出来るよ。可愛いお姫様。」

 ヤロウにとっては、こんな城など大した価値もないんだ。たかがゲームのデータ、たかが1000人程度の頂点に立ったところで、何も優越感に結びつかない。まして、ヤロウは頭がいい、このゲーム世界がクローズされることを予感している。


 冷めた、興味なさげな表情で、とりあえずは女の機嫌を損ねない程度の世辞だけ与える。

 けれど、女の側にしてみりゃコイツを喜ばせたい一心だ、興味のない顔は不安を駆りたてるだけだ。


 ヤロウが求めてるのはこんな力じゃない、直接、戦闘に加わることのできる力だ。

 姫香は、自身がそれを持ち得ないことを知っているから、焦っている。


「姫香、そういえばエリスは向こうへ行ってしまったそうだけど、どういうことだ?」

 冷たい口調だ。エリスは充分、攻略戦に参加できるレベルのプレイヤーだからな、このまま黙ってるつもりはない、というところか。


「それは違うのよ、ルシー。心配しないで。」

 姫香は慌てるどころか、くすくすと含み笑いで口元へ手をやって、可愛い仕草を見せた。


「景虎は騙されたの。だって、ルシー、あなたも知ってるでしょ? 彼女、あなたに本気で惚れてるのよ? あなたの為にって、向こうへ潜りこんだの。景虎の弱点を探り出して、こっちへ戻ってくるって、そう言ってたわ。」

 平然と、姫香はそう答えた。


 この女が嘘を吐いていることは、あの時の状況で見ても確かなはずだ。最初はそのつもりだったエリスも、今じゃ完全にこっち陣営のプレイヤーだ。……けど、なんなんだ、あの自信満々な表情は。

 なんだか、エリスに疑惑を抱いてしまいそうになる。いや、あのイジメの状況からして、有りえないだろ。


 現状、こっちは洗脳状態だ。エリスも、かなり深く洗脳が効いている。まさか逆手に取ろうとしてる?

 解からねぇ。この女は危険すぎて、思考が普通とは違っているような気がして、底知れぬものを感じる。


 ルシフェルは、同類だからなのか、まるで怖さを感じないのか、どうでもいいと思ってるのか。

 姫香の顎に指をかけ、上を向かせた。やっぱ、やることはヤッてんだな。でなきゃ女がここまで盲目になるわけもないが。幸せそうな顔して、姫香は目を閉じた。


 俺が思うに、女ってのは"子宮でモノを考える"とか言うけど、本当のところは"子宮に頭を乗っ取られる"の間違いじゃねーかと思うんだ。こんなロクでもない野郎に引っ掛かって夢中になって、けど、ある日突然、目が醒めたりするのは、子宮に奪われてた思考を取り戻すせいじゃないのか?


「姫香、そのティアラ、ずいぶん気に入ってるんだね。」

 間近で女の顔を見つめ、ヤロウは殺し文句でそう囁いた。台詞の内容なんてのは、大した意味もありゃしない、女の容姿でなにか話題に出来るならなんだって構わない、声を耳元で囁くことが目的だ。


 姫香はうっとりと目を細め、まるで女優のような顔になった。いい気分にさせられて、酔っている。


「姫香はね、呪われた女の子なの。本当は普通の女の子だったのに、呪いのせいで王女様になってしまったの。だから、これは外れないのよ? 呪いのティアラなの。」

 なんか意味深な台詞だな。DQNのタワゴトか、何かの謎かけか。



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