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デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
第五章 ウォー ゲーム
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第二話 作戦会議Ⅱ

 痛ましいものを見て、なつきは俯いた。

 ただのプログラムのエネミーなら殴れるけど、プレイヤー同士の対戦は絶対に嫌だと言っていた。

 自分が殴られても、人に暴力を振るうのは嫌だと。その理屈が俺は嫌だな。


「状況を打破するには、やっぱり戦争しかないようね。」

 エカテリーナが俺に視線を寄越した。

 俺がこっちのキング、俺の意思次第でこっちの連中の方向性は決するからだ。


 ヤツを見習うわけじゃないが、すぅと息を吸い、目を閉じて呼吸を整えた。

 そうしておいて、タイミングを読む。ことさらにゆっくりと目を開く。


「状況をひっくり返す方法は、一つきりだ。『革命』を起こす。」

 皆が注意を払い、俺に注目する。今さらな言葉、皆解かっている内容、これは単なる確認だ。


「俺はルシフェルみてーなゲス野郎は大嫌いだが、それ以上に、強いヤツには尻尾振って媚び売って、陰に隠れて弱いヤツから搾り取る、そういうクズはもっと嫌いなんだよ。だから、向こうの連中はまんべんなく、ぶち殺す。」

 場の皆に宣言した。


 弱者を搾取する中間層を指してると思ってんだろう、皆。

 本音を言うなら、そういうクズに抗いもせず、諦めちまってる弱い連中も嫌いなんだけどな。


「サクラ、」

 俺に強い口調で名指しされ、彼女は姿勢を正した。そうだ、打ちひしがれてる場合じゃねぇ。


「アホ犬は俺が責任もって倒してやる。必ず脱出させる。だからサクラ、お前の妹はお前が助けろ。PKは本当に死ぬわけじゃない、何度でも殺し殺されて、お前が諦めなけりゃ、いずれは勝てる。俺達は、取り戻しに行く手助けしか出来ない。」

 妹を救い出すのは、姉であるお前の役目だ。


「リラはお前を恨んでる。きっとお前に襲い掛かってくるし、口汚く罵ってもくるはずだ。そのくらいお前の身代わりで受けた仕打ちは凄惨なものだったからな。けど、間違うな、呪詛の言葉を吐きながら、アイツはお前を今でもずっと待ってる。助けに行ってやるんだ、他の誰かじゃ駄目だ、お前でなきゃ駄目なんだ。解かるな。」


 サクラは両手で口元を抑え、ようやくで嗚咽を押さえ込んでいる。大粒の涙をぼろぼろと零しながら、何度も頷いた。もう一つ、心構えを言っておかなくちゃならねぇ。

「いいか、サクラ。」

 そんで、名指しはしねぇが、なつき。お前も聞いとけ。


「ギルドの連中を仲間だとかはもう考えるんじゃねぇ。所詮は赤の他人、都合よく馴れ合い、都合のいい時だけいい顔をしてたような連中だ。認めろ。連中も本当はどうだとか、そんなもんは知ったことじゃねぇ。同情の余地なんかねぇ。妹を売った連中を叩きのめして、妹の恨みを晴らしてやるんだ。」


 それが決定的に両者を分断することになっても。決別する勇気を持て。二人とも。

 本当に悪いヤツなんざ、そうそうは居やしねぇ。奴らも調子に乗ってるだけで、お前らが知ってる姿が本当だろうさ。けどな。


「同情なんざしてやるな。付け上がらせるだけ、調子に乗った奴等にいいように食い物にされても、それはお前が馬鹿なだけだ。なんでもかんでも信用すりゃいいってもんじゃない。」

 人を信じることは必ずしも善行ってわけじゃない。人を疑うことを悪しきことのように語るヤロウは詐欺師だ。


 本当に悪いヤツなんてのは居やしないが、調子に乗ってタガを外すヤツなんてのはごまんと居るんだ。

 そんなヤツらの犠牲になるなんてのは、バカらしい話だろ。


「綺麗ごとぬかすヤロウの口車に乗せられるな。優しさを履き違えるな。酷いことをしたヤツを、黙って許してやるなんてのは、偽善者の勘違いなんだよ。けっきょく、綺麗ごとぬかすヤツだけが満足する、お前らは傷付けられるだけの大損だ。」

 罪には罰がつきものだ。やったモン勝ちなんて考えには反吐が出る。

 慈悲深い奴は、テメェだけで赦してろ、他人が受けた他人の罪を勝手に赦すな。


 徐々に場の空気が尖ったものに塗り替えられていく。

 やみくもに号令掛けたって乗ってこれるもんじゃねぇ、煽動は必要だ、喚起を呼び起こし、団結して行動しなけりゃなし崩しに瓦解する。スローガンを掲げろ、"俺達は間違ってねぇ"。


 冷静に考えるのは後でいい、今はただ熱くなって拳を突き上げればいい。"俺達は不服なんだ"。


 普通の奴はごく当たり前に戦う意思を持っている。けど中にはごく少数だけど、戦うことを悪だと信じこまされてる奴がいる。人を傷付けることは悪い事だと言われたら、どんなケースも悪い事に思えてしまう。

 普通の奴なら普通に解かる"ケースバイケース"が解からない。その時に応じての掌返しが出来ないんだ。

 人を殴るのはよくないと言われりゃ、人外外道ですら殴っちゃならねぇかと迷うんだ。


「殴れ! いいな、なつき!」

 突然、自分に話を振られて、他人事のように構えていたなつきが跳ねるように姿勢を正した。

 ほれ見ろ。ケースバイケースの解からない、要領の悪いヤツの典型だよ、お前は。


「お前は連中にこう言ってやれ、"殴られたら、ボクだって痛いんだ"てな! 絶対に言え! 言ったかどうか、俺が見張っててやる! 言わなかったらお前をぶん殴るからな!」

「むちゃくちゃだ、お前、それ……、」

 やれやれポーズでネロが呟いた。うるせー、事情を知らないヤツは引っ込んでろ。


「必ず言えよ、はずみが付いたらやれるから。呪文だ、お前がイジメから脱出するためのものだ。」

 だから必ず言って、はずみをつけてぶん殴れ。殴れば、世界が変わる。


「いよいよ戦争ね。連中を呑み込んで、その後はここを脱出よ。いい加減うんざりでしょ、皆?」

 表だっては発言しなかったサザンクロスのメンバーたちも、それぞれにひそひそと囁き合い、そして、頷いた。

 いくら好きなゲームといっても限度がある。


「ゲームの世界は飽き飽きした、脱出するぜ、皆。」

 全員を見回す。いい顔になったな、皆。これならやれる。



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