第四話 馬車トラブルⅡ
男の娘4人チームは早々に壊滅ダメージ。あっという間に3人殺られた。レベル低そうだったし、まぁ、順当。
コボルトの攻撃を数回もらっただけで、悲鳴も残さず消えちまった。
高レベルの攻撃力は、低レベルの防御差っ引いても4ケタ通るだろうから当たり前だ。単純な引き算だ、攻撃力-防御力=ダメージ。攻撃力の計算はもちょっと面倒い。俺のレベルだと本来は誤差4000程度食らう計算なんだけど、バグってる今は正直どうなるか解からない。
ま、今回問題にすべきは、馬鹿高い攻撃受けた時の『痛み』の方にあるんだけどさ。
金満チームはさすがに少しはやれてる。回復する余裕位はあるようだが、男の娘チームが壊滅で一気に苦しくなった。
俺はお馬さんを首だけ残してすっぽりと包みこんで、でっぷりと膨らんでいる。走れないように閉じ込めてやったんだ。ルームランナーの上で走ってるよーなもんで、お馬さんだけが必死だ。
「くそ! このままじゃ、全滅……!!」
金満チームのリーダー騎士が叫んだ。
あ、ちなみにタイムテーブルではこのなんちゃって共はあと2分ほどで消え去る。
あと2分だ、諦めるなよ! がんばれ! 応援だけしてやるよ!
お馬さんが暴れて嘶こうとするのを、口を塞いで黙らせた。気付かれたらこっち来るっての。
アイツ等には気の毒だが、俺やお前が出てったとこで勝てる相手じゃねぇだろ? それに、俺もさっさと戻ってログアウトしてーんだよ。馬車に乗って。
「えーい!!」
可愛らしい掛け声が響く。またまた乱入者登場だ。
無謀なことを、と思ったんだが、いや、待て。
ロリロリな娘っ子キャラが飛び込んで、手にした両手剣を振りかざして。
そんでそこに居たなんちゃってコボルトに振り下ろしたら、一撃で消え去った。
チート様の登場か!
見た目は10歳くらいの女の子キャラだ。遠目で見えないから中身の性別は解からん。
ヨーロピアン風っての? 金髪ショートボブの髪型でたぶんモチーフはアンティークドールなんだろう。西洋人の子供って、やっぱ可愛いもんなぁ。テディ・ベアを背負ってるけど、本来はアレが武器だったりして?
チートの両手剣は一見普通のバスタードソードだ。ツヴァイヘンダーって名称だったかな。このゲーム、適当だからさ、武器の名前とかはカッコ良さげだからなんとなく付けましたー、ての見え見えなんだよな。
俺は次に地面へ触手を伸ばして文字を書いた。お馬さんの乱入だけは許さん。
『助けてくるからじっとしてろ』
「ヒン、」
すぐに納得した。以心伝心、てか。んじゃま、行ってきます。
金満どもはまぁ、放っておいても大丈夫そうだし、生き残りの男の娘だな。
するすると足許に忍び寄って、襲い掛かるコボルトの両足をぐるんと包み込んでやった。
もんどりうって倒れたコボルトを駆け寄ったロリっ娘がチート武器で突き刺す。演出なしで消え去った。
「スライム!? え、なに、踊ってる?」
アロハ~。敵意がないことを教えるのには、これが最適だってじっちゃが言ってた。
もともとスライムのスキルは補助系だからさ。回復とか、囮とか。で、今のは足止めのスキルね。
別のコボルトが背後から襲いかかる。脚をすくってひっくり返してやった。
ロリっ娘がトドメ、で一連の作業が出来上がってお互いに暗黙の了承を交わす。男の娘は出番なし。
俺がコケさせて、ロリっ娘がトドメ、効率よくさくさくと倒して残り数匹にまで減る頃になると、金満チームにもゆとりが出来た。一匹を4人で囲む、正面を担当したリーダー騎士が攻撃を防いで、他の連中が斬りまくる。一人4~5回も斬りつけると、さすがのなんちゃってコボルトも断末魔の悲鳴を上げて片手を天に突き上げた。
思い切り演技が勝ってます。そのままのポーズで退場、霧のように消える。
これがまぁ、死に際演出なんだけどさ。チートは強すぎるから、この演出入らずにエネミーが消えるんだ。
グロい演出なんか出来るわけねーだろ、全年齢タイトルなのに。斬ってる時も血のりがパパッと散る程度だぜ、その程度でどーして死ぬかってんだ。胴体から真っ二つってのはアリでも満身創痍ってのはナシだったり。
衝撃映像には配慮しております、て感じだろ。リアリティには目を瞑れ、てな。
ようやく片付いた頃、また別の問題が発生した。
「助けてもらってこう言うのもなんだけどさ、一緒には行けないわ、ごめんな。」
どいつもこいつもが、命の恩人であるロリっ娘に対し距離を取って関わりになりたくないと意思表示した。
ロリっ娘のほうはこれが初めてってわけじゃないんだろう、何も言い返さずにしょんぼりと下を向いてる。
「このスライムは? もしかしてペットインしたとか?」
そうだ、とジェスチュアで返せば、むかつく顔して笑いをかみ殺しやがった。
「でだ、振り出しに戻っちまったわけだけどさぁ。こっちは4人で、そっちは1人だろ?」
また始めやがった。もう好きにしろよ、まったく。
俺は触手を伸ばしてシカトされてるロリっ娘の袖を引っ張った。
ぐりぐりと地面に字を書く。
『行こう、無駄だから。』
ロリっ娘がこくりと頷いて歩き出した。なんか心なしか嬉しそうだな。ついででチラ見した限りでは、頭上のアイコンは『女』、この子は正真正銘、リアル女の子だった。
VR規制ってのがあって、リアル18歳未満は大人のキャラメイクが出来ないようになってるんだ。性別を意識させないように、女は10歳、男も12歳までの見た目にしかならない。年齢を20や30に設定しても。ステータスまでは縛られないから、プレイ自体には影響しないという話だけど。
連中がチート使いのこの娘を避けたのにも理由があってさ。
このサーバー暴走の原因が、チートの使う武器じゃないかって噂が流れてるんだよ。そんな確証は何もないし、実際俺がやってる別のゲームではチート厳禁で、ほとんど持ち込み不可能と言われてたけど暴走は起きた。
酔狂な連中が比較データでバグ頻度を測ってたけど、噂を裏付けるような結果は出なかったんだ。
だけど怖いよな、誰かがチートのせいだって言い切れば、真実味を持ってそう信じられてしまうんだからさ。
論理的じゃない人間がいかに多いかってことかなー。チートよりバグより俺は人間の悪意が怖ぇ。
【もしかしたらバグの一因かも知れない】それが発展して、【一緒に居たら何が起きるか解からない】になった。
バカバカシイ。
何が起きるかなんて、起きた後で考えたって仕方ないことだろうに。
今が非常事態ってヤツじゃなきゃ、何だってんだよ。
ずりずりと這いずる俺に合わせてロリっ娘はスローモーションで歩く。
いや、俺もね、これで全速力ってわけじゃないですけどね?
「え? なになに?」
するするっと背中に這い登って頭の上に陣取った。
ほい、出発。ふたたびロリっ娘は俺を乗せて歩き出す。
ちなみにこのロリっ娘、名前はルナだそうだ。