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デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
第四章 イン ザ ダークネス
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第三話 実証Ⅲ

「もう用はないだろ? 出てってくれないかな。」

「あ、ああ。」

 気圧されたように反射的に返答するランスを、ヤロウは睨み続けていた。

 露骨に視線を逸らせたことがまた、気に食わないってところだろうか。


「それと、あんまり気に病むなよ、犠牲は付き物だって事は理解してるはずだろ?」

 猫なで声で、宥めるようにそう言った。


「済んだことだ、気に病むな。そんな事にいつまでも心を砕いているなら、最終アタックに向けて、配下のプレイヤーの訓練でもしていた方がよほど有意義だ。峠フィールドあたりはいい狩場だろ?」


 奴はすでに終わったこととして、処理済みの問題として扱ってる。

 まだ納得はいかない、だけど、どうしようもない、そんな顔してランスは背を向けた。


 ルシフェルは、その背中に駄目押しの畳み掛けを投げる。


「検証はどんな場合にも必要さ。それ無しで論じるべきじゃないし、危険すぎるだろ? 俺は小を捨てて、大を取るつもりだ、他にどんな方法がある? 他の誰もやりたくなんかないんだろ? だから、俺が代わりにやってあげてるんじゃないか、それともお前が代わるか? 後で恨まれると思うぞ?」


 ランスの背に向けて。彼の中に僅かに残っている良心すら捨ててしまえと、囁くほどの静かな声が語り続ける。


「俺は、ここを生きて出られたら、犠牲になった連中の家族に詫びて回るつもりだ。代わってくれるなら、有難いね。それと、これ以上の犠牲は出したくないとも思ってる。聞き分けてくれ。」


 屁とも思ってないヤツの詫びか、冗談じゃねぇだろうな、遺族にすりゃあ。

 ランスは何も答えず、そのままテントを出て行った。


 見送るヤロウの目は、憎々しげだ。自分が後ろ暗い事をしてるって自覚くらいはあるんだな。

 罪悪感を己に見せつけるアイツの存在は、さぞや疎ましいだろう。それとも、悔しいか。自分と同じ所へは、落ちてきちゃくれないと思うぜ、アイツは。清廉潔白までは行かないだろうけどな。忌々しい、か。

 気をつけて見張っておかないとな。今度やられるのは、アイツだ。


「ねぇ、ねぇ、ルシー?」

 鼻にかかった甘えた声で、それまで大人しくしてた女プレイヤーが問いかけた。


「なんの話してたのぉ? 姫香、解かんなかった。解かるよーに言ってくんなきゃ、ヤダ。」

 男好きのしそうな女ではあるんだけどもな。今の、デスゲ状況ではなんとも毒の強い女だ。


 甘えた声が、こんな状況下ではやけに勘に触る。ムカムカする。


「俺達のために犠牲になってくれた連中が居るんだよ。感謝しろよ? 彼等がデータを残してくれたお蔭で、俺達はより安全に攻略の計画を立てられるんだからな。」

「ああ、その話だったのぉ? あの人たち、生き返らなかったんでしょ? かわいそぅ、」


 いかにもな、お芝居じみた返事だ。ヤツの気を引くための話題って程の興味しかないんだろう。死んだ連中のことなんか、考えてもいないんだろ。

 ……殺したくなるバカ女だな。アイツも趣味悪ぃ。


「さ、姫様もそろそろお引き取り願えませんかね? これから大事な相談があるんだ。悪いけど、今日は引き揚げてもらえるかな?」

「んー。仕方ないなぁ。ホントはずーっとルシーと一緒に居たいんだけど、今日は我慢するね。」


 じゃあね、バイバイ。

 なにがじゃあねバイバイだ、クソアマ。


 入れ替わりのように、さっきの大剣持ちと双剣使いが入ってくる。二人は女に道を譲り、先に出した。

 女プレイヤー姫香は、ツンケンした態度で当然のごとくに二人の間を割って通って出て行った。

 押しのけられた二人がさすがに顔を見合わせて……ほんとにヤロウは趣味が悪い。


「ルシ、俺らが言うのもなんだけどさ。お前、もう少し、付き合う女は選んだら?」

 苦笑浮かべて大剣が言う。もっともだと思うな、俺も。


「姫香は可愛いじゃないか。」

 しれっと。本心なワケはないと思うけども。

 その理屈を聞きたいところだな、ニヤニヤ笑いやがって。ご高説、お伺いしましょうかね。


「他の女はダメだ、彼女ほど賢くないからな。見え見えで嫌になるんだよ、俺に取り入ろうと必死の態度で来られちゃ、興ざめもいいところだ。その点、彼女はそんな素振りはおくびにも見せないだろう? 本当にバカなのかも知れないが、俺にとってはどっちでもいいことだろ? ゲームの中の、見知らぬ他人なんぞ本気で惚れるか?」


 軽く笑い飛ばしたヤツを見て、二人も厭らしい笑いを貼り付ける。

 ここはバーチャルだ、リアルでの名前も知らない赤の他人と本気で付き合う阿呆は居ないってか。


「結婚相手として付き合ってるわけでもなし、多少のことは気にしないさ。どうせ捨てるモノなら理想からかけ離れていようが問題ない。今必要だというだけの、間に合わせの女だろう? 真剣な付き合いってわけでもないのに。聞くけど、お前らだったら、あいつに本気になるのか?」

 聞かれて二人は、苦笑いで首を横に振った。


「まぁいいや、お前がどんな女と付き合おうと、その女を捨てようがどうしようが、俺達にゃ関係ない。」

「そうそう。それより、ルシフェル、景虎のチートはやっぱ凄いらしいな。アホ犬相手でもビクともしなかったらしいぜ、どうやってあんなの排除するってんだよ?」


 類友ってやつで、ほんとに気が合いそうだなお前ら三人。

 大事な用件ってのは、俺をハメるための相談か。


「どうという事はない。アイツ一人が何をしようが、大した影響力にもならないさ。向こうの連中はこっちよりも格段に劣る者ばかり、対抗しようと思えばチート武器でも使うしかない。けれどそうなれば、こっちは連中の卑怯さをあげつらってやるだけの事だ。奴らが人心を掌握することは出来ない。」


「お前を殺しに来るって言ってるんだぜ? 他の奴らが浮足立つんじゃないか?」

「俺をPKしたところで何も変わらんさ。むしろヤツのせいでこの状態になってるんだと、ヤツを憎む者が増えるだけだ。アイツにPKされるとリアルで死ぬ確率が上がるらしい、バグの総元締めみたいなモンだと皆には言っておくといい。」


「なるほど、ヤツが突っ込んで来れば来るほど、こっちは結束するってわけか!」


 ところがそうはならないんだよ。

 チート連中にサザンクロス、せいぜい30人程度と思ってるこっちの戦力は、大幅に間違ってんだからな。

 そっちが放り出した新人連中の成長具合に、目を見張るがいい。

 勝てば官軍って言うだろ、目にモノ見せてやるから首洗って待ってろ。



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