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デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
第三章 クレイジー ティー パーティ
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第九話 恐怖政治Ⅲ

 ネロの作戦は一見、単純なやり口だ。

 ネガティブキャンペーンで、じわじわと俺への恐怖を煽っておくというものだ。やられたらやりかえせ、という事らしい。実際、向こうの手口はもっと悪辣なんだから、何の遠慮も要らない。恐怖心で引っ掻き回される連中は可哀そうだけどな。


 俺は向こうじゃMPKしまくってたって悪評が立ってる。それを利用して、もっと怖がらせる、と。

 俺に殺されたら、普通の時よりもリアル死の確率が上がるらしい、という噂を流すんだと。


「確率が上がる、という事がポイントだ。確実にリアルで死ぬって言うよりも、倍率が上がるって程度のほうが信憑性があるんだ。確かめようがないからな。実際にお前はバグだらけだし、嫌でも恐怖を煽るさ。上からの命令でしぶしぶ攻撃に参加してるのも、リアル死が怖いからだろ? 馬鹿でなければそのうち、寝返りや降伏することを選択する。」


 お前ってほんと悪どい。尊敬するぜ。


 俺に殺され続けることでリアル死が近づくのなら、逆らわずにいた方がまだ長生き出来る。寝返って味方に付けば、俺に殺られる事はなくなる。生き延びてりゃ、救助の可能性もあるわけだしな。それを教えてやるわけか。


「俺達は防御重視であまり無茶なことはしない。その分、お前が片っ端から向こうの連中を殺しまくるんだ。そのうちバグってループすんぞ、とでも叫べばなおベスト。俺らは俺らで、こっちへ勧誘する台詞を繰り返す。

 洗脳中の奴等はたぶん、どっちが得かって判断すら、自分じゃ思いつかなくなっている。だったら、こっちで教えてやればいいんだよ。」

 奴等を裏切るほうが確実に長生きが出来る、てか。


「景虎、お前は覚悟決めろ。マジでショック死するヤツが何人かは出ちまうが、仕方ないと割り切れ。それが出来無いなら、連中は見捨てろ。」

 キツいな、正直。野郎と同じことか、結局は。


 けど、あの野郎のやってる事を許すなんてのは、もっと嫌だな。


 あの野郎の手下どもに悟られないように密やかに、作戦は開始した。

 下層に置かれて不安の高まってそうなヤツを選んで情報を流し続けた。

『景虎がルシフェルをPKしに行く。邪魔するヤツも全部殺すつもりだ。アイツに殺されたら、バグるかも知れない。』


 ほどなく、見張りの数が増えた。思う壺、だぜ。


 そういえば、以前にカケラを向こうの"お城"に残しておいたんだっけな。

 さすがに離れすぎててコントロールがまるで効かないわけだが、今度の件で役に立たないかな。

 どの程度まで近寄ればコントロールが戻るかも調べておく必要がある。


 順調に、噂は向こうの陣営に広まった。

 景虎はルシフェルを殺して、自分が成り代わるつもりだ、と。

 本当の狙いはその噂の表面を見ただけじゃ解からない。


 十分に機が熟した頃を見計らって、まずはスパイ作戦開始だ。


 街の中も警戒して、エネミーにも気付かれないようにインベバグを利用して進んだ。以前に通り抜けたよりもさらに時間が掛かったが、なんとか城門に辿り着いた。

 フィールドチェンジの際には気を配らねばいけない。おそらくは見張りを立ててやがるからだ。

 景色が変わる瞬間に、ふたたびインベントリへ隠れた。


 俺からは景色がセピア色に、見張りの背中が遠ざかるところがはっきりと見えている。

 インベを脱ぎ捨て、逆の壁際へ滑り出した。テントの群れから離れ、茂みに身を隠す。

 こっからで届くといいんだけどな。カケラのコントロールに意識を飛ばしてみた。


 感度良好、俺の意識は瞬間移動したかのように、小さな分身に移った。ぎゅうぎゅうと狭苦しい空間に身体を縮こめてるような感覚だ。俺の身体がまるごとカケラに移ったみたいな。土の上にテントが展開している。土を割り侵入する感覚は、おそらく座標の移動が起きているんだろうと感じさせた。隅っこに隠れる。


 そもそもVR技術って、どういう感じでリアルの脳みそと繋がってんだろうって思った事はないか?


 俺は専門書を幾つか借りて読んでみたりしたけど、難しい用語が羅列しててまるで意味が解からなかった。なんでも、リアルの脳みそにはシナプスを通じて電流が絶えず流れていて、その延長で、バーチャルの中に作った仮想の脳みそ空間にその電流を引き込んでいるんだそうだ。それが、各家庭のVR箇体で。

 アナログからデジタルに変換するようなモンか、くらいにしか理解出来てないけど。


 だから、正規の手続きで二つの脳みそを分離していかないと、ちょうど電気機器がショートするような逆流現象が起きてしまうらしい。電脳が死ぬことでそれまで電脳に流れていた電流が一気にリアルの脳に流れ込む。それが、"電脳ショック"という状態だそうだ。ショック死するってのは、つまり、この電脳ショックを指している、らしい。脳がローストするんだそうだ。


 ネット障害で恐れられる、敵の攻撃ダメージによるショック死というのは、リアルの脳が死の錯覚を起こすと同時にこの電気信号の氾濫が起きて、と考えられている。


 バーチャルの仮想脳みそは、リアル脳みその増量ってところだ。このままログアウト出来ないという事は、要するにリアル脳みそと仮想脳みその分離段階に移れないという事だ。二つの脳を行き来する電気信号が過剰通電する。それは、サーバー内に構築されたゲームワールドに通じる信号にも同じことが言える。電気信号と言っているが、それは"自我"そのものだ。無理やり接続を切れば、意識が引き千切られるか、二倍になっている電気信号が一気に流れ込んでしまうということかも知れない。


 この世界から脱出出来る唯一の、ログアウト用魔法陣ってのは、だからバーチャル世界との回線切断プログラムだ。このワールドとの回線が手順通りに切れさえすれば、VR箇体との切断は容易になるはずなんだ。


 だから……。

 無限ループに嵌った場合、これを救出する方法ってのは、ない、と思うんだ……。


 お、鬱になってる場合じゃねぇな。ヤツが来た。


 前に見た時の、侍らせてた女どもの姿がない。

 代わりに、あの野郎以上に嫌味な連中が三人、ぞろぞろとテントに入ってきやがった。

 全員知ってるぞ。強いのは強いが、揃いも揃って自己中野郎って噂だ。


「なぁ、本当に今のメンツだけで攻略出来るのかなぁ?」

 自己中の一人が不安そうにルシフェルに問いかけた。

「難しいんだろう? なによりデスゲーム中にボス戦なんて前例がないんじゃないか?」

 別のヤツも話に加わった。


 ルシフェルが乗ってこなくても、連中だけで話題が進んでいく。ほとんど意義の感じられない堂々巡りの内容だ。


「お前たち、本当にただログアウトさえすればいいとか考えてたりするのか?」

「え?」


 無駄なお喋りを黙って聞いていたヤロウが、唐突にそう尋ねる。いつもの、演説前の癖が出る。

 深呼吸をして、一度目を閉じた。



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