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デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
第三章 クレイジー ティー パーティ
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第七話 恐怖政治Ⅰ

 順調に新人のレベル上げが進んでいたある日だ。

「景虎!」

 訓練から帰ってみたら、エルフ姫が待っていて手招きで呼ばれた。


「景虎、こないだ引き抜いた見張りの人がさ、ちょっと話したいんだって。」

「ああ?」

 なんだ? 向こうの連中で、こっちに来たそうな顔してるヤツが居たら、そのまま引っ張ってくるように指示してたんだが、何か問題でも起きたか?


「最近さ、連中の様子がなんか変みたいなんだ。サザンクロスの人らも言ってなかったか?」

「いいや? 聞いてないぞ。」


 もしかしたら、とこの時に思ったのはあるが。

 あの野郎のことだから、そのうちこうなるんじゃないかと予測はしてたんだ。その時期が早まったのかとな。

 ピン、と来た。


「なんかさ、今朝もわたしが声をかけた見張りの人がさ、頼むから声をかけないでくれって、泣いてお願いしてたんだ。これって、おかしくね? なんで、あんなに怖がってんだろ?」

「やっぱりか。あの野郎、ついに正体現しやがったな。」


 俺がそう言うと、姫は首をかしげた。意味が解からんか。そうだろうな。


 早かったんだろうか、それともこんなもんなのか? こっちとあっちで分断されて、早二ヵ月だ。

 差別の枠組みが作られたなら、次には序列とか階級が出来上がってくるのは当然の流れだ。

 だから言ったのによ。自分が"何を"してるか解かってんのかって。


 二ヵ月、その間にじわじわとプレイヤー同士の関係は崩され、変化していったはずだ。

 急激なものなら気付いても、ゆっくりと、少しづつなら勘付かれないものらしいからな。洗脳ってのは。

 俺達が呑気にやってる間のことだもんな。あっちとこっちで、この差、か。


 もうこっちが居ようが居まいが関係ない。自分たちの陣営内で、差別の構図は出来上がってるだろう。

 ヤツを頂点に、ピラミッドが出来ていて、逆らう事など出来ない身分制が敷かれてるはずだ。下層に居る連中は日々戦々恐々としてるだろう。逆らえば、脱出させてもらえなくなる、排除のターゲットが自分に移る、そう信じさせられてるはずだ。(その為に俺達は最少派閥にされ、排除された。)


 最下層の連中といえ、全体の半数は居る。ソイツ等は、チート連中よりはマシだと溜飲を下げて我慢し続ける。だから、こっちと交流を持たれるのは不味いってなものだ。ヤロウ、今度は何を仕掛けた?


「で、どこに居るって? 他の連中には聞かれたくない話なんだろ?」

 姫はこくりと頷いて、こいつには珍しく深刻な表情で俺を見た。


 テントの幕をばさりとめくって中へ。

 姫は外で待機すると言って、入らなかった。中には一人の女の子キャラが心細そうに肩を丸めて立っている。

 一ヶ月……いや、もうちょい前に姫がこっちへ誘った女の子だな。

 どうしたんだ?


 おかっぱ、とかは言わんのか、ショートボブ? ぱっつんに切った前髪に、横は耳が隠れて後ろ頭が刈り上げに近い感じ。黒髪っていうか、カラスの濡れ羽色とかいうんだよな。つやっつやなキューティクル。

 可愛い顔とかいうのは、もうバーチャルでブサイクな女探したって無駄だろ。魔法職なのか、ローブを纏ってる。

 彼女は俺を見て、すぐに姿勢を正した。


「あの、初めてお会いします。て、あの、前からお姿は拝見していたんで、その、」

「あー、固いことは無し無し、普通にしてくれ。俺も話しにくい。」

「いえ! あの、そういうのは、駄目です。ちゃんと分を弁えておくべきです、」


 はーん、こりゃかなり洗脳入ってんな。向こうへの反感がものすごかったから誘ったとは聞いてたが、それでもこのくらいには影響されてんのか。礼儀作法だのなんだのかんだの。支配はまず権威付けから始まるもんだ。


「あー。あのさぁ、君、」

 えーと、名前は、とステイタス欄を見ようと思った矢先で彼女が答える。


「はい! サクラといいます、妹はリラです。あ、もちろんこちらでの名前で、リアルでは違いますが。……なんでしたら、リアルの名も名乗った方がよろしいでしょうか?」

「いやいやいや! おかしいって!」


 なんでリアルの個人情報とか喋ってんの!?


「あのさぁ。君は見たところ、俺に尊敬の眼差しみたいなの送ってくれてるけど、俺のリアルの名前なんて知らないだろ?」

「はぁ、それはもちろん。」

「だったらさ、なんで君がリアルを喋らないといけないんだ? そんなものは無くても、何も差し支えないだろ? いや、リアル情報を教えあうなんてのは、それはルール違反だよ?」

「ルール違反……、」


 なに、そのびっくり顔は。こっちがびっくりだよ。


「敬語にしてもそうだ。そりゃ、いきなりタメ語とか使うのはどうかと思うが、普通の目上に対する態度じゃないだろ、それ? ここはバーチャルだぜ? 俺だって、下手すりゃ君より年下かも知れない。目上への礼儀っていうなら、これほど基準のはっきりしない場所はない。君は、何に対して敬意を払っているんだ?」

「えっと、あの……、」


 サクラちゃんが怯んで一歩後ずさる。別にイジメるつもりはないんだが、ちょっと畳み掛ける口調になったか。


 彼女は遠まわしに、ありもしない"権威"を植え付けられているんだ。最初は、『人に対する礼儀』という皮を被り、そのうち、『目上への当然の礼節』『上司に対する服従』、そんなところの、リアル社会ならば当然必要とされるルールをこっちに持ち込む理由付けにされてる。必要最小限でいいはずの、リアルでのルールだ。


「よく思い出してごらん。君は、同等の友人関係に対して、そんなよそよそしい態度なんて取っていたか?」


 リアルとは違う。バーチャル世界は、上下関係など存在し得ないことが最大の特徴だ。ごっこ遊びの中でのルールとして、必要最低限での上下を、その時々、演じる役割に応じて決めるだけのことだ。

 対等な者同士での、普通の礼儀さえ弁えていればいい話なのに、なぜそうなるか、だ。


「バーチャル世界では皆が対等なはずだ。それがここでのルールだ。人を下に見ることもルール違反だから、対等な者に対する礼儀は弁えなきゃいけない。目上など存在しない。君は誰にそんな嘘を教えられたんだ?」


 強く。

 間違いだと断定する。

 洗脳を解くには、否定と、疑心への誘導が要る。

 以前の、自身の持っていた価値観を思い起こさせるんだ。



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