第六話 訓練開始Ⅱ
盾3人+魔法1人+俺、がもっとも効率よく進む初期攻略メンバーだと判明して、最近はそのメンツでダンジョン掃除を開始するようになった。盾のレベルを上げとくのはもっとも重要だし、ちょうどいい。
あらかた片付いたら、とにかく全員を一度はダンジョンに放り込む。高レベと新人を組ませ、慎重にも慎重を重ねて、絶対に事故が起きないよう、誰も死なせるわけにいかない場所だからな。命懸けのレベルアップだ。
かれこれ1ヶ月以上だからな、村の皆ももう鬱ってる奴は居ない。
――全員で、ここを抜け出す。――
スローガンを掲げた事で、目標が明確になって生活にもメリハリが出てきた。
絶望するのは手を尽くしたあとでいいんだ。
200人を4つのグループに分けて、ゲーム時間一日の行程でダンジョン入って戦闘訓練とレベル上げだ。
4つのグループ全部を引率し終わると、一日休憩をはさむというサイクルを組んだ。
一度に全員入れてもいいんだろうが、想定外の事故ってのが怖いからな。目の届く範囲だ。
朝日が大海原から顔を出す頃に、一巡で村へ戻った。そん時だ。
「ちょっと、景虎!」
なんか怒りながら、姐さんがずんずん歩み寄ってくる。隣に、これまたほっぺ膨らませたルナが見える。
なんかやらかしたか? 俺。
「ルナに聞いたけど、あんた、演奏スキルMAXなの!?」
「ああ。」
なんの役にも立たんクソスキルだろ。
魔力上限UP、体力上限UP、スタミナゲージUP、防御・回避率UP、それらは全部ごく短時間に限り、て制約付きで。
演奏しっ放しじゃないと意味がないっていうスキルだ。俺には無用すぎ。
姐さんが半眼で睨みつける。怖ぇ。
「スタミナ消費半減の楽譜は? 知らなかったの?」
「マジデスカ、」
スタミナ消費半減だとぉ!? そ、そんな落とし穴が存在していたとは!!
演奏だけなら楽譜なしでも出来るが、効果は一過性で戦闘ごとに掛け直さなきゃいけなくて。
けど、楽譜を使って演奏した場合には、その効果はゲーム時間一日分続くんだ。使った楽譜は無くなるけど。
ただし、楽譜に対するシンクロ率を高めないといけない。楽譜ごとに熟練度のゲージがあるんだ。
「楽譜もだけど、景虎には色々バフ技も揃えてあるんだよっ!」
ルナが口を尖らせてわめく。うるせー、演奏なんざしたくなかったんだっ。
「なんで演奏嫌なのよ? 便利なのに。」
「そーよ、そーよっ!」
「別に俺だって、楽器がウクレレじゃなきゃ使ってるっての! なんでウクレレなんだよ! せめてエレキギターくらい使わせろっつーんだよ!!」
楽器にも熟練度があって、今さら別の楽器に鞍替えとか出来ねーんだよ、こんちくしょう!!
俺だって、俺だって、ウクレレでさえなけりゃぁ……!!
「なんでウクレレなんだー!?」
シャウトマイソウル! 魂の叫びだっ!
「だって、インベ2マスで済むもんっ。」
すぱっ、と言いやがったな、ルナ。可愛い顔してテメーは鬼だ。
例えばエレキギター装備の演奏は、狂ったよーに踊るシャウトスタイルで、それはそれでどうかってトコだが、それでもウクレレよりマシなんだよぉ! 満面の笑顔で、道頓堀のツートンカラー人形みてーに首振りながらの直立不動ってスタイルだぞ、ウクレレの演奏時モーション!
「とにかく、そんな下らない理由は聞けないわ。明日から、あんたは楽譜の熟練上げね。」
問答無用とエカテリーナが断言した。
ううう、公開処刑か、こんちくしょう。
◆◆◆
青い海。晴れ渡る大空。中天にある太陽から暖かい陽光が降り注ぐ。
大海原を背に、俺は新人さんたちの前で演奏を披露する。
て、
「見せモンじゃねぇ! あっち行け、テメーら!!」
なんで関係ないヤツまで群がって見てんだ、まじで公開処刑か、オラ!!
いつも鉄面皮で不機嫌そうに見えるという噂の俺が、満面スマイルで道頓堀人形みてーに首振ってる姿に、彼女彼氏らはドン引きだった。
不満を口にする引率の盾職人、ネロ。
「なんだよー! バフ使えるなら、最初から使えよ、バカヤロウ!」
「じゃかあしい! どんだけ恥ずかしいと思ってんだ、代わるかテメー、ああ!?」
ジャカジャンジャン♪
俺は笑顔を引きつらせながらネロのヤツを睨み、己のスマイルとも戦っていた。
「あっ、でも、歌えるヤツが居たら、時間延長効果も狙えますよ! 相乗効果が出るそうです!」
険悪なムードに焦った新人さんのフォローの声。
ダレだ、歌えるヤツなんて居たか?
こうなりゃ道連れにしてやる。おとなしく出てきやがれ。
「あ。俺、歌える。」
ぼそっ。
聞き逃しはせんぞ、その言葉! 歌え、さあ歌え!
ネロが思わずこぼした言葉を素早く掬い上げて、突きつける。
「嫌だ! 俺は自慢じゃねーが、音痴なんだっ! 絶対に歌わん!」
「うるせー! 俺だって我慢してウクレレ弾いてんじゃねーかっ! ワガママは聞かんっ!」
実は俺もメインの方は【シャウト】を習得していた! 音痴だからだ!
歌スキル上げれば、音痴が補完されるっていう噂を信じたクチだっ! ここにも居やがったわけだ!
補完なんてされやしなかったけどな! ははーんだ!
「マジでヘタクソなんだって! カンベンしてくれー!!」
すったもんだの後。
青い大海原と、さんさんと輝く太陽を背に、演奏漫才コンビのワンマンショーが開催された。
会場内大爆笑だぜ、けっ。
ルナに姫、テメーらは後で一発ずつ殴らせろ。




