第五話 訓練開始Ⅰ
街フィールドの到達点から、出口である城門までの一帯を制圧。それが現状のミッションだ。
まずはチーム組んだ数人で侵入、俺が片っ端から周囲のエネミーを叩き、盾職がメンバーのガード、魔法さんが回復かけまくって、敵が片付くまでもちこたえる、という寸法で。
なんせ廃人の盾が、ここのエネミー3体に囲まれるとヤバいってんだからギリギリの戦いだ。
俺はどうということはなくても、他のプレイヤーは文字通り命懸けになってしまう。
目算を誤った、武器振り上げた骨オーガを砕いてる間に、骨イヌ三匹が盾に殺到した!
くそ! 一撃ずつで片付けたが、確実に盾のネロは三発食らったはずだ。
「すまん、ネロ!」
「どんまい!」
瀕死を示すドクロマークが盾職の頭上に灯る。すかさず魔法職が回復を掛けた。
その間にも次から次へとエネミーが俺達を見つけ、連鎖で襲い掛かってくる。なんせ数がすごいからな。
余裕なんてない、来たヤツから順々に手当たり次第と砕いていくしかない。
群がってくる敵の、片付ける順序を間違ったんだ。やべぇやべぇ、ちょっと焦った。ネロは頑丈な男だが、それでも俺みたいに痛くも痒くもないって訳にはいかないからな、精神力が強いから保ったようなもんだ。
ショック死もんだったんじゃね? 今の。
俺とサザンクロスの幹部数人が組んでの作戦決行。
特に親しくなった、エカテリーナと大帝ネロが同行してくれた。(なんだかなーってネーミングだが。)
エカテリーナは晒巻いた姐さんで、ネロは赤毛の重騎士だ。この騎士は俺がナックル装備で殴っても死なないだろう硬さを誇る生粋の盾職人で、新人たちをガードしてくれる拠点の役割を担っている。もう一人、マリーは魔法剣士で回復やデバフもこなす器用な人だ。同じく騎士、女騎士様だ。
カッチリしたプレートアーマーは、女性用はなぜだか下はひらひらのプリーツスカート状で、短い。
ふとももが眩しい。着ている本人以外が嬉しいという装備だ。それに盾とレイピアを装備している。
俺とエカテリーナともう一人、このマリー・アントワネットが攻撃担当。(お前らぜったいフザケてるだろそれ。)
このゲームは名前幾らでも変更効くから、皆、好きなように付けている。識別はIDだし。
大流行したアニメや映画の主人公の名前なんぞ、翌日には溢れかえる。
「OK、ほぼ制圧終了。新人さんたち呼んできてくれ。」
「了解、」
ネロが門を出て、外に待機する数人を連れてくるまでは俺達も休憩だ。
ふう、俺はカンストだったりバグってたりでレベルは関係ないけど、他の連中は結構上がってるらしい。
羨ましいなぁ。メインでINしてたら、かなり効率のいい狩場になったのに。て、俺が居なきゃ不可能な方法なんだっけか、がっかりだ。入口付近はエネミー山盛りだからな。
ここを制圧する目的は一つだ。新人たちのレベル上げ。
綺麗にエネミーを掃除してから新人を街に入れてやれば安全の確保は容易い。で、時間経過で涌いて出るエネミーを新人の魔法攻撃で釣り上げて、俺達古参が片付ける。そうすりゃ、経験値の半分は新人に入るって寸法だ。
一発でも食らうと即死モンのダメージだから、危険を承知ということだ。自由参加にしてるが、結果で言うと不参加は一人も居ない。皆が生き残ろうと必死だ。
これも、こないだ海人と一緒にここへ来て、偶然、経験値がものすごい勢いで増えてたってことにアイツが気付いたからだが。レイドボスのフィールドダンジョンだから、普通のダンジョンと違って離脱や再突入、途中参加も可能ってとこがな、有利に働いたわけだ。
なんせ、廃人専用とまで言われるダンジョンだ、雑魚一匹でも貰える経験値はハンパねぇ。
本当の新人なんかは、見てても面白いくらいにレベルが上がりまくるんだもんな。とにかく少しでも耐久値を増やしておこうって事になったんだ。まだ攻略法は見つからないが、無為に過ごすよりはよほどいいってもんだ。
赤毛の騎士に誘われて、新人たちがぞろぞろと街の中へ入ってくる。
「じゃあ、教えたとおりにやって! 魔法の用意!」
指示に従い、彼らはそれぞれが魔法のスキルを用意して待機する。あとは、エネミーが涌いて出たら、決めておいた順番通りに一人ずつ魔法をぶち当てていくだけだ。
魔法を持たないプレイヤーも、基本の動作モーションに【投石】があるからな、それでなんとか参加出来る。
スケルトンハウンドが涌きだした。文字通り、地面から染み出すように実体化する。
完全に姿が出たところへ、小さな火炎弾がパチン、と当たった。連続で新人の人数分。
気付いた骨犬は一直線に術者である新人の方へ向かって走り出す。
そこには盾職人が身構えていて、盾でのカウンター攻撃を食らって吹っ飛ばされるんだ。カウンターってのは、そのものずばり、敵が攻撃してきたら自動で反撃するスキルね。スキル精度も高いから100%跳ね返す。スキルには優先順位があり、カウンターは一番高いとされている。(精度低いと相殺されるけど。)
しかも、ヤツの装備は【挑発】が付いてるから、近付いたエネミーはもれなく攻撃対象をコイツに変更する、という凶悪さだ。ネロもものすごい古参の廃人様だからな。これに吹っ飛ばされたら、文字通りで宙を舞う。
で、この後が俺達、アタッカーのお仕事だ。
無様に地に落ちたスケルトンハウンドに、俺とエカテリーナが殺到する。
俺なら一撃だが、ここは彼女にまずは譲る。出来るだけ多くの人間が一発ずつでも入れてくのが望ましい。
「はいっ、後よろしく!」
長大な太刀で一閃、俺のほうへと弾き飛ばしてエカテリーナが叫ぶ。
もう別なヤツが涌いてるからな、効率よくサクサク行こう。一撃粉砕。
あとはこれの繰り返し、だ。
時々はドロップ品を拾う事も出来て、最後に俺が残って、店屋にてスタミナドリンクを買い足す。
いい具合にサイクルが出来上がる。希望が見えてくると、自然に、プレイヤーたちも元気を取り戻していった。
全員が、ここのエネミーの攻撃に耐えられるだけの数値にまでレベルが上がれば、脱出のチャンスも出てくる。
ドロップ品はブラックコインが多い。これを集めると、ある街の夜市で『怪しげな商人』から曰くつきの装備を貰う事が出来る。レア装備の『呪いのティアラ』ってヤツ。地味にキャラ強化も出来て一石二鳥だ。……まぁ、移動手段に乏しいんで、今のとこはこのコインも死蔵アイテムだけどな。
「ティアラが欲しいところよね。それをアンタが装備するでしょ? 敵は全部、アンタ以外は目に入らなくなるって寸法よ!」
キラキラと輝くキュートなデザインの頭装備だが、男女とも装備可能で。お姫様の如くに周囲を引き付ける。
呪いのティアラの特徴は、超強力な【挑発】効果と、回避率UPにある。地獄のトレイン用装備だ。
「効果範囲ってのがあるだろう? ダンジョン中全部ってわけにはいかないさ。」
「だから、ティアラ装備で突っ込んで、そこら中のエネミー引っ張ってアホ犬の前まで連れて行けば、アホ犬が勝手に全滅させてくれるでしょってことよ!」
あー、それ、こないだやりましたぁ。
「で、あなたはスライム状態ならダメージ食わないわけだから、まずはそれでエネミー全滅させるでしょ? ワンコ1匹になったら、店に駆け込んで振り切れば、仕切り直しも出来るじゃない。で、店の中で皮被って、第二ラウンドに突入よ!」
皮とか言わんでくれ。この頃は皆、まるっきり、俺のこと妖怪扱いだな。
「なるほどな、それなら新人たちだけでも自分の身は守れるわけだし、攻略組に人数を多く割けるな。」
「そうよ。だから、新人さんたちにも、今のうちに少しでも対処法を身に付けて貰わないとね。」
少しずつだが、攻略への道が見えてきた感じだな。
出来れば向こうの連中とも和解して、共闘といきたいところなんだが。……無理かなぁ。




