第二話 テントの中でⅡ
天国と地獄を繰り返す日々が怒涛のように過ぎ去って。
さすがに50人ずつ詰め込むわけにもいかんってのは理解するが。
プライバシーやらあんのも解かるけど、女の子ばっかの日と野郎ばっかの日を交互にするとか、鬼かお前ら!
しかも男の娘は男の娘で固めやがって、むちゃくちゃビミョーな空気だったじゃねーかっ!
「あ、ども。よろしくお願いします、」
『あ、いえ、こっちこそ、』
「すいませんねぇ、こんなナリで、」
『いえいえ、お互い様ですよ、』
「……、」
『……、』
なんか俺のほうが泣けてきたわ、最後っ!
そんなこんなで、ようやくほぼ全員の調整が終わった。あ、身内一人忘れてたな、うみんちゅ。
ついででルナも呼んでテントに待たせといた。ちっさい方のテントで。
最近影が薄くてしょんぼりしてたからな、こんな時くらいは遊んでやろうと思って。
うみんちゅと、ついでだからルナもも一度調整してやって、その後。
座談会だ。
「あいつ等さ、俺の前でチキンレッグ食いやがんの!」
最近の不満を聞いてみたんだが、そうとうに鬱憤が溜まってたようだ。チキンレッグて……。
このゲームじゃHPとMPとスタミナの三つのゲージがある。MPは魔法を使うと減り、スタミナは時間経過で勝手に減る。そんでスタミナゲージが1になったら、次にHPが減り始めるんだ。これは減った分が赤くなって、それはどんな雑魚いエネミーの攻撃でも関係なく、一発食らえば消えちまうレッドゲージになる。
レッドゲージはHP3分の2までで止まってくれるんだが、そんな状態で戦闘なんて出来んから、スタミナはこまめに回復しないといけないって感じだ。スタミナドリンクと、料理で回復って手段があるんだが。
スタミナゲージは1が最低で、0にはならないと思われていた。だが、今回の鯖暴走ではバグったんだ。ゲージ0にしない為のストッパーがバグって、完全停止の状態が生まれてしまったことは、あのゲス野郎が確認済みだ。
「ちくしょう、あいつ等! 俺らがドリンクしか飲めない生活してるからって、バカにしやがってっ! 食い盛りのお子様舐めんな、ちくしょうっ、ちくしょうっ!」
泣きながら拳を絨毯に叩きつける海人。おまえなぁ……。
これ見よがしに食い物を美味そうに食ってる姿を見せつけられて、悔し泣きしながら逃げ帰ったらしい。
「景虎! なんで俺達、ドリンクばっかなんだっ!? 俺もハンバーグ食いたいっ! ステーキ! 牛丼食いてーよー!」
すがって泣くほどのことか、それ。てか、肉ばっかじゃねーか、野菜食え。
「うう……、スライムってゼリー色で美味そうだよね。」
頭噛じんなっ。ヨダレ付けんなっ。ルナまで一緒になってツバ呑み込むなっ。欠食児童か、お前らっ。
ルナが無言で俺を海人から取り上げようとしたが、しっかと掴んで離さないもんだから、びろーん、て。
「ラムネ飴おいしそう……れろーっ、」
ルナが俺のボディを舐める。うまい? ねぇ、うまいの、俺?
「ガム食いてー。」
海人に噛まれてびろーんと伸ばされる俺。
あんま逆らわんでおこう。育ちざかりのお子様たちだからな。不憫なことだ。
こっちは向こうと違って、食材になるモンが何にも居ないからなぁ。本当に草原だけなんだ。
採取ポイントくらいはあってもいいのになぁ。
しゃーねぇ。ネロあたりと相談して、一度、街の食材屋に買い物にでも行くか。
場所的にかなり遠い地点にあって、俺一人ならまだしも、他の連中を同行はさせたくなかったんだがなぁ。(俺のインベが小さすぎるのがアカンのや。)
ルナと海人をテントから放り出して、一息つく。
テントの節約はこの頃はあまり考えなくてもよくなっている。なんせ街エネミーどもはざかざか金落とすからな。
向こうの連中はこうはいかんだろう、俺のようなチートが居なきゃ成り立たない戦法だ。
さっそくエカテリーナと相談するべくテントを抜け出した。と。
「デリーは今夜一晩わたしの貸切よ!」
「なに言ってんのよぅ! 景虎はわたしのなんだから、貸さないっ!」
姫とルナがデカい声で言い争っていた。おい、お前ら……。
「やーだ、お子様ねっ。デリーとわたしは恋人同士だって言ったでしょ? イイコトしちゃったりは、あたりまえなのよー?」
嘘吐け。お前ヤらせてくれたこと、ねーじゃねぇか。
「以前はさ、熊みたいな姿で萎え萎えだったけど、今の皮はすっごいわたし好みなんだっ。」
「カエルの死骸って言ってたじゃん!」
「思い出させるなよ!」
だからさ、皮とか言うのやめてくれん? お前ら。
「デリーはわたしのなの。リアルでわたしのなんだって前にも言っただろ!」
「そんなの知らないもんっ! 被ってる皮はわたしのだもん!」
「なに言ってんの? 皮はあなたのでも、中身はわたしのだよ? だったら、わたしのだよ!」
「皮はわたしのだもんっ! 中身だけ抜いて持ってけばいいでしょっ! やっぱダメ! 中身もダメ!」
支離滅裂になってきてるぞ、そこの二人。俺は俺のだ、バカヤロウ。すっかり無視か。
「あの皮被った姿もいいけど、魅惑の触手プレイも捨てがたいなーっ。あんあん言わされちゃったりしてー?」
「いやらしいっ! 景虎はそんなエッチなことしないもんっ! サイテー!!」
いや、男はみんなエッチィです。ごめん。
姫のやつはどうやらルナをからかって遊んでるだけっぽいけどな。お子様にヘンなこと吹き込むなよー。
アイツラは放っておくことにして、エカテリーナの姐さんと今後の相談でもしてくるか。
付き合いきれんわ。
姐さんの所在を訪ね歩いて、少し離れた場所のテントへ。
森林公園みたいな趣きのある場所に、一つぽつんとそのテントは張られていた。俺は知らなかったんだが、このシチュエーションの場合に限りで、とあるバグが発生するらしい。
「あら、景虎じゃない。なにか用?」
『おじゃましまっす、』
テントの中は無法地帯だった。
姐さん、目のやりどころに困るんで服は着ててもらえないでしょおか?
なんでマッパなの? 装備剥いでもアンダーになるだけじゃなかったっけ?
「やだ、知らないの? こういうバグもあるのよ。」
白い裸体が眩しいぜ。痴女プレイかなんかですか?(超失礼なオトコだ我ながら。)
かつてこのゲームは18歳禁止の社交ゲームだったらしい。つまり、VRの出会いサイトだ。気に入った同士で付き合いをして、ゲーム上で結婚したり、アダルトな遊びを提供していたのが最初だったんだと。過当競争に負けて、途中で全年齢層に路線変更したってことらしい。一旦ゲーム世界を閉めてリニューアルしたのに、新規開発とか嘘言って仕切り直したんだそうだ。
で、このシチュエーション、『森のキャンプファイアーモード』っていうかつてのアダルトシーンバグらしい。
さすがは廃人に一番近いギルド。そんなトコまでよく知ってたなぁ。VRゲームは開発費がものすごい額になるから、おいそれとは畳めないみたいな話は聞いてたけど、そういう事まであるとは。
「だから、テントの中では疑似性交も可能なのよ。そうでもなきゃ、こんなありきたりな世界観のゲームがウケるわけないじゃない。行政も運営も知ってて見て見ぬフリをしてるのよ?」
で? 姐さん、なんで手招きしてんのかな?
伏し目がちな視線で値踏みするようにこっちを見る彼女。お喋りの間中、その手は俺に向けられ、誘うような細い指先がなまめかしく動いている。誰かを待ってたんだろうと見当を付けてたんだけど?
「毎日、それなりに充実はしてるけど、人間って欲張りなものじゃない?」
『皮つきと触手と、どっちを御所望で?』
ひらりとメモを滑らせ、読んだ姐さんが目を細めて。色っぽいねぇ。
ちょっとニヤけてしまうんだが。いいんだったら遠慮なく頂いてしまうぞ、俺は。




