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デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
第二章 プレイヤー マスト ダイ
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第十一話 脱出Ⅱ

「え? 実証って……?」


 訝る視線が二つ、ヤツの方へ向かう。さすがにその言葉の不穏当には気付いたか。

 ヤツも、しまった、とばかりにピクリと眉を動かした。すぅ、と深呼吸。これってヤツの癖だな、演説前の。


 声のトーンを一つ落として、奴はしんみりと言葉を綴り始めた。


「宿屋の奥に寝てるヤツがいるのは知ってるだろう? 運ぶのに苦労したんだ、せめてベッドで寝かせてやりたくてさ。スタミナ切れかかってたのに、言ってくれなくて……。俺も気付けば良かったんだが、自分のことで精いっぱいだった。申し訳なくてね。」


 聞いてた二人が同情的な表情を浮かべる。誰もが多少なりと苦労をしてこの街へ戻ってるから、そりゃそうだろう。

 奴は芝居がかった調子で、言葉を続ける。俺から見てのことだ、あそこに居る連中がどう思ってるかは知らん。


「呼吸はしているから、死んではいない。動けなくなっただけなんだ。今も彼は生きてるし、俺の言葉も聞こえていると思う。動けないのはシステムの縛りだ、スタミナゲージが0だから動けないだけのことで、リアルに戻ればそんな縛りは外れるはずさ。暗黒竜を倒したら、俺は彼を宿屋から連れ出してログアウトさせてやろうと思ってる。実証というのは、つまり、そういう事で偶然に取れたものなんだ。だから、そんなに深刻に捉えないでくれ。」


 嘘だ、と俺の直感はそう判断してる。けど、辻褄は合ってる。どっちなんだか、俺には解からない。

 偶然の事故だったか。承知の実験だったか。


「スタミナが切れると、口を開けられなくなるんだな。俺も初めて見たよ、スタミナ切れで動けなくなるなんてこと、以前は無かっただろう? 細かいところでもバグが出てる。それでも必死にドリンク飲ませようとしたんだが、駄目だったよ。」

「ルシー、可哀そう。」


 侍らせた片方の女がそう言って、ヤツの頬を撫でた。傷付いた風な表情で奴は目を閉じてる。

 可哀そうと思うべき相手が違うんじゃないのか? クソ女。


 坊主憎けりゃ、て感情で、侍らせてる女どもまでが憎々しげに映る。


 この嫌悪感は、こりゃどうしようもないな。どうにも俺はアイツが好きになれない。

 言ってる事が嘘だという確証はないし、俺が嘘だと感じただけ、主観の問題に過ぎないし、こんな感情での判断は間違いの元だってのは解かってるんだが。けど、嫌いなものは嫌いだ。


 ヤツの周囲で事故が起きた。スタミナが切れちまったプレイヤーは、廃人同然の状態で、今は街の片隅にある宿屋のベッドで横たわってるって事か。辻褄は合う、テントの節約で考えれば宿屋のベッド使うのはなんもおかしくない。ないんだが、どうにも胡散臭い。


 面会しにくいバグった街の宿屋へ放り込んだのは、むしろ隠蔽の為じゃないのか?


「俺達がしっかり計画を練って、先に脱出しよう。取れる限り、最大までバグの状態のデータを集めて、外部に連絡するんだ。まずはそれが先決だよ。」


 それが一番正しいんだ、と、決めつけてかかる論調はなんだか嫌な感じをひしひしと伝える。


「チートに頼る連中はどうせヘタクソ揃いで役にも立たない。申し訳ないが新人たちもそうだ。はっきり言えば、足手まといだ。だけど、出来るだけ被害を小さく抑えるようにと考えているよ。心配しないでほしい。全員助け出したいんだ、俺は。各隊長たちにもそう伝えてくれ。俺達を信じて、付いて来てくれ。」

「は、はい! すいません、ルシさん!」


 信じろ、か。

 あの日、あの目を見てなけりゃ、こんなに違和感感じる事も無かったかもな。

 焼き付いて離れない、あの残忍な目の輝き。俺達を差別対象に突き落とした時のあの顔。

 心底楽しそうだったあの顔を見てないヤツは、素直にコイツの言葉を信じられるんだろうか。


「せっかくルシーが、皆で助かるようにって最善の方法を考えてくれてるのに、なんで解からないのかしら。」

 二人が出て行って、ヤツの隣の女が喋り出した。


「物分りの悪い人たちも皆、あっちにやっちゃえばいいのよ。邪魔になるだけなんだし。いい加減、同じ説明ばっかりで嫌になるわよ、ねぇ、ルシー。どうせ解かんないんなら、考えなくったっていいのに。わたしはルシーたちの事を信じてるわ、それで充分よ。ねぇ?」

「やだ! あたしだって信じてるわ! ルシーのする事に間違いなんてないもの! ねぇ?」


 媚びた視線、色目を使って必死になって取り入ろうとしている態度。

 自分が何に怯えてそうしているかも解かっていない女たち。直感なのかもな。

 捨てられたら終わりだと、どこかで敏感に感じ取ってる。


「何度も説明、か。その通り、もう何度同じことを繰り返したか解からないよ。君たちも聞いたよね? ダンジョンと化している街中は、雑魚エネミーですらとんでもない強さだと。街を一歩出ればリセットが掛かる、ボスを倒した時に街中に居ることが、最低限、脱出に必要な条件だ。リスクが大き過ぎると何度も言った。」


 そう、よく解かってやがる。

 雑魚エネミーですら強敵の、あのダンジョンは多数の新人を守りながらで攻略するなんてのは、無理なんだ。

 新人を隔離した本当の理由は、見捨てざるを得なくなった時に少しでも心の痛みを軽減したいから、だ。

 こっちに居る連中は、薄々、全員が気付いてるはずだ。向こうの連中も解かってるから絶望してる。


 胸糞悪い。誰が悪いとかは解からないけど、とにかくムカムカする。


「バグったダンジョンだ。中で死んだヤツが復活するかも解からない。無限ループに巻き込まれて、二度と、それこそリアルでもこっちでも生き返らないという事もありえる。もっと怖いのは、さらに街がバグってしまう事だ。もし、脱出の魔法陣がバグったら、誰も助からない。」


 事の深刻さを誰よりも痛感してるのは、皮肉な話だが、コイツだけなのかも知れない。



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