第二話 13日目は金曜日Ⅱ
俺がやってたゲームは、最近流行りのVRMMOで、そこそこ人気のタイトルだ。
サーバーバグだとかで、ここんとこニュースでよく流れてくるのが、『プログラム暴走』って現象で、原因のほうはまだよく解かってないらしい。
ゲームにInしてたプレイヤーが脱出出来なくなるって話で、低確率だけど死ぬ場合もあるらしい。
電源落とすと脳に直でダメージが来て、下手すりゃ廃人だしな。打つ手なしなんだ。
バーチャル技術は、ゲーム利用に至るまでに社会の様々な分野で活用されてきたわけで、今さらの事情だ、大きなリスクがあるだとかは了承済みのことだった。だからサーバー暴走で死者が出ようと、それでVRゲーム自体が開発禁止になるなんてのはない。
ログアウトが不可能になって、そん時にダンジョンとかに入っていたら、ダンジョンの出口が無くなってたりする。まぁ、ダンジョンくらいならクリアするなり死に戻りなりすりゃいいんだけどさ。
ただ、ゲームで死んだら現実でも死んでる可能性があるんだよな。それで皆慎重になる。
普通は、勝手にプログラム修正が行われて、アナウンス一つで終了する方が多いんだ。プレイヤーは暴走中でも平然とくっ喋ってたり、余裕で居る。デスゲームといっても、状態はピンキリだ。
あと一つの方法は、暴走解除で運営がプログラム制御に成功して、プレイヤーを外部からログアウトさせてくれるって道もある。これは大きなバグが起きた時だけで、サーバーを完全停止する為だと言われている。
どんなに長くても、サーバー暴走は10日以上にはならないと言われてた。それが油断を招いたんだろう。
今度の暴走は制御が難しくて、運営は早々に匙を投げた。
なんとか「始まりの街」というチュートリアル・フィールドに穴を開けて、そこから強制ログアウトさせるという救済策を作り出すだけで精いっぱいだったらしい。
そういうわけで、ゲーム内に取り残された全てのプレイヤーは、始まりの街を目指すことになったんだ。
けど、厄介な問題もある。
実はデスゲームと化していると言っても、リアルで死ぬ確率はとても低いんだ。ゲーム内で死んでしまっても、多くは直前にセーブしていたポイントへ飛ばされるだけで済むんだ。だから、目が醒めればセーフ、目覚めなきゃアウト、で、リアルの身体の方が死んでたりする。ロシアン・ルーレットみたいなもんだな。
けど、その確率はものすごく低いから、誰も緊張感なんか持ってもいなかった。
だから、無法な輩が跋扈するなんてのは、もはやお約束だったんだ。
このゲームではプレイヤーキルの数字も成績に反映される。普段なら対策が効いてて、無暗と他人を襲う事は出来ないシステムが働いてんだが、こういう時はそれが切れることが多い。
お蔭で、皆が躍起になってるこのどさくさで、あの手この手で殺しにかかる外道な奴らが増えた。
暴走が解決したら、また何もなかったかのように再開されるのが常なもんだからさ。規約にさえ書かれてんだぜ、覚悟の上でプレイしろって。正気じゃないよな、よく考えりゃ。
連中の言い訳だっていつも同じだ。
『どうせ本当に死ぬヤツなんてほとんど居ない』
ほとんど、ってだけでゼロじゃないけどな。
おまけに、ゲーム暴走でプログラムの幾つかは作動しなかったり、おかしくなったりしている。
第一に、痛覚コントロールが切れやすい。一番複雑な回路だからだそうだけど。
これのせいで、心臓が弱い奴なんかが、死の危険に晒されることになったんだ。
個人で程度の差があるみたいで、俺なんかは真っ二つにされたところで、まるで痛くも痒くもないんだもんな。死ぬのは運の悪い奴、みたいに、誰も深刻に受け止めてないんだ。
裁判沙汰になって遺族と運営側が争って、PKで襲った連中のデータ公表するかどうかで揉めるとか、そんな話はしょっちゅう聞かされる。それでも一向にPKの数は減らないからな。どこまでも他人事、だ。
それに、かつて自動車が運転する人間の手動操作に任されてた時代に比べりゃ、事故っていっても総数としては大した数字じゃないんだぜ。自動車事故なんか、せまい日本でも数秒単位で起きてたって話だからな。
それに比べりゃ、サーバー暴走なんて大したことはない。各種のVR保険も完備されてることだし。
本当に怖いのは、だから機械の暴走なんかじゃなくってだな、そこに残された人間たち、そのものなんだって話さ。それを世間に問いかけるような事件がついに起きてしまって、……俺は、その事件の関係者って訳よ。
以上。解説パートはいちおう終了。
◆◆◆
んじゃ、続き。
よいしょ、斬られた半身をくっつけなきゃなー。実は身体をぶつ切りにするなんて朝飯前だったりする。
たぶんバグなんだ。俺のペットスライムはこんな気色の悪い仕様はしてなかった。
『運営からのお知らせです。現在、ゲーム暴走が起きています。各街より速やかに脱出してください。なお、激痛を受けた衝撃でショック死するケースが御座います、無暗に戦闘をしないようご注意ください。プレイヤー各人で協力し、なるべく多数で移動する事をお勧めしております。チュートリアル・フィールドの始まりの街に、ゲームのログアウト地点を設けてあります。お急ぎください。』
まるで緊張感がないアナウンスがどこからとなく聞こえてくる。
定期的に流し始めて、すでに3日目だ。ログアウト不可から数えると、13日目。