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デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
最終章 サイドアタック オブ ウルフ
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第十話 最終話

「景虎。」

 姫香は魔法陣に乗り、あらたまった顔して俺を見た。


「彼に会っていなかったら、わたし……、あなたの事を好きになってたと思うわ。」

 そりゃどういう意味だ、と。

 問いかける間もなく、姫香は一人さっさとログアウトしてしまった。


     ◆◆◆


 事件から数週間が過ぎた。


 マスコミの追撃は多方面にまで及び、被害者やら目撃者やらを目の色変えて探し回り、有る事ないこと面白おかしく記事にでっち上げて垂れ流した。記事ごとに真実の方向性がまるで違うという有様で、あの事件はセンセーショナルだった割に、わけが解からない事件として人々には認知されていった。


 事件の核心に迫る類の記事も出現したが、多くはあまりに穿っているとして、オカルトや都市伝説の類と同列に置かれ、秘密結社の陰謀だの国際企業のサイバー戦争だのという話は半分笑い話として語られるのみだ。

 多分に小細工が為されたんだろうと思う。


 ボロボロになってしまったゲーム世界は、かなり長い期間のメンテナンスを必要とする事になった。それでも待つ奴は待つだろうし、今回の事件がキッカケで物見遊山な客も付きそうだ。話題になりさえすれば何でもいいという輩はやはり多いもんだしな。


 ルナは、極道のじいさん家に戻ったそうだ。実弾三発を窓に撃ち込まれただけでお家騒動の黒幕はビビって引っ込んだらしい。喧嘩売る相手が悪すぎるよなぁ。

 なんか知らんが俺はじいさん直々に盃を貰って、かなりヤバい雰囲気だが。(とばっちりだ。)


 皆、それぞれで巧く行ったと信じたい。

 連絡の取れない奴も多いらしいが、まぁ、全員が警察にマークされてるような状態だから逃げられっこない。

 事件の全容解明は、まだ始まったばかりだ。


 そんで今、俺は姫に誘われてオフ会とやらに参加する為に会場へと向かっている。


「えへへー。虎太にはナイショでね、進めてたんだ!」

「どうりで最近ツレないと思ったぜ、ゲームの中じゃしつこいくらいに追い回してきたってのによ。」

「だって、秘密で準備進めるのって大変だったんだもん、」


 姫はむぅ、と頬を膨らませた。俺の隣に居るのは、ゲーム内じゃ金髪グラマラスを気取っていたエルフキャラだが、実際には少女のように線の細い、上品なお人形さんって感じの女だ。名前ももちろん違う。

 本名は美姫だ。長いさらさらの黒髪は腰まで届く。雪のように白い肌だけはゲームとも共通してるかな。


 VRゲームユーザーは、容姿の決め方なんて二通りしかない。思い切り凝りまくって理想を追求するか、面倒臭がってリアルの延長か、どっちかだ。美姫は前者で俺は……本来、前者だったはずが、あのゲームの時は強制だったからなぁ。


 シャトルターミナルまでの路線バスは平日のラッシュ時刻以外ならガラ空きだ。社会はインドアで回っているから、わざわざ通勤するなんてのはお堅い職業人だけで、大多数の会社員は自宅で仕事をする。オフィスは大抵バーチャルの中にある。かつての車社会も今は無く、けれども自動車というステイタスは健在だ。


 今日みたいな休暇の日曜日は、どこの家庭もマイカーで観光地へ出かけているから都心へ向かう交通路は空いている。普段は普段で宅配利用だったり、そもそも通勤なんかしないからバスは空いているんだが。採算取れるのかなと心配になるけれど、市の予算だし、無いと確実に困るしで、廃線にはならないらしい。


 電気で動くリニアシャトルバスは停車も発進もスムーズで静音設計だ。停留所で二人を拾うとふわりと浮き上がり、音もなく走り出した。平日なら宅配貨物を積む間、待たされたりするんだが今日はスムーズだな。バス車両は中二階建て、下層に大きな荷物入れがあるのが普通で、バスといえば大型車だ。


 がら空きの車内、一番後ろの広い座席に陣取れば、寄り添うようにちょこんと美姫が隣に座る。


「おい、もうちょっと離れろよ、せっかく広いんだからさ。」

「やだっ、今日は絶対離れないのっ。」


 いくらガラ空きだといっても、人の目は気になるわけで、俺はにやけていく頬を引き締めつつ周囲に視線を配っていた。きっと、嫌な野郎と映るに違いない、俺だったら絶対そう思う。

 美姫は貧弱な胸を俺の腕に押し付けながら両腕でホールド状態。無意識かな、これ。


 いつにない積極的な態度に浮かれていたら、件のオフ会会場に到着して理由が解かった。

 貸し切りに近いファミレス一軒の店舗内は、野郎より明らかに女の子が多い。威嚇の態度で美姫はホールドした俺を周囲にアピールしていた。


「お久しぶりです、景虎さん。」

 俺を一目見るなり女の子がぺこりと頭を下げた。面影がある、サクラだな。

 となりの中学生は、そしたらリラってことなのか。キャラとぜんぜん違うんだな、こっちは。

 将来が楽しみな姉妹だ。


「景虎ー、やだー、あんたキャラのまんまなのねー。」

 ケラケラ笑いながら指差してきた失礼な女は、俺の勘だとエカテ姐さんか。違ったらマリーだ。

 ゲーム内で思ってたとおりの、妙齢の色っぽい美人だった。


 外見で大嘘ついてた奴はオフ会には参加したがらないもんだから、この場に居るのは一目見りゃどのキャラだったのかが解かるような連中ばかりってことだ。

 サザンクロスはガチ実務の集団だから、外見とか気にする奴は元から入っていない。従って、キャラがそのままリアルに出てきたような状態だった。他より参加率も高い。


「景虎! すげー、景虎、ゲームのまんまじゃん!」

 いきなり後ろから声を掛けられたが、その台詞、そっくりそのまんまお前に返してやるよ、うみんちゅ。


「おお、海人か。色黒かったんだなー、お前。」

「俺、沖縄の出身だから!」

 真夏でもないのに真っ黒に日焼けしてるってのか、沖縄県民は。(テキトーなこと言うな。)


 まだ数週間しか過ぎてないってのに、なんだかすごく懐かしい気分だ。

 次から次と、俺を見つけては誰かが声をかけてくれる。


「景虎、久しぶり。……あの、いつきも誘ったんだけど、やっぱり嫌だっていうから、わたしが代理で来たわ。よろしくって、確かに伝えたわよ?」


 ちょっと地味目な女の子だ。見覚えが、とか思ってたんだが声を聞いて解かった。エリスだ。

 二人はリアルでも親しく連絡取り合うくらいに仲良くなってたのか、そりゃ良かった。いつきは中身男だからな、色々と心中複雑なのは仕方ない、か。


「いつきのヤツ、やっぱ来なかったのか。まぁ、残念だけど、俺からもよろしくって伝えといてくれ。」

「うん。あの、あの時は本当にありがとう、感謝してるわ、本当に。リアルに戻って、当時のこと思い出して、……そしたら、本当に怖くなって、」

「もう済んだことだ、気にすんな。」


「あのね、景虎。ルシーのこと、聞いてない?」

 心配そうな顔で、エリスだった女の子は俺に聞く。

 隣でずっとホールド状態の美姫が、不安げに俺の顔を見上げた。


「さぁなぁ。聞いてないんだ、ごめん。」

 さらりと吐く嘘が巧くなった。そう、と俯いてエリスは話題を変えた。


 ルシフェルに関してのことは、再々色んな人間に聞かれていたから、対応がパターン化してる。

 案の定、もっとも近しい人間だった秋津も会場には来ていなかった。


 姫香は、今でもあちこちのネットゲームに顔を出しているそうだ。

 ……ずっと、ヤロウを探し続けるつもりなんだろう。


 事件は、終わった。


     ◆◆◆


「景虎。」

 帰りのシャトルバス、やっぱりガラガラに空いている車内で美姫は俺の肩に頭を乗せる。

 皆がゲーム内での名前を連呼するから、ついには美姫にまで移ってしまった。肝心のゲーム内じゃ、頑迷に"デリー"で押し通していたくせに。


「やっぱり、デリーの方がいいよ。色んな女の子が寄ってくるし、寸胴ブサイクの巨人族のが良かった!」

 お前、それ、嫉妬だろ。


 俺は女好きだから、ゲームの中くらいは自分優先にしたくて、わざとモテない容姿にしてたんだ。

 やっぱ、リアルの延長だと内面曝け出して傍若無人には振る舞えない。いい顔したくなるし、格好付けに走ってしまう。女の子が寄って来たら、ほいほいと世話焼きに行っちまう。下心を無視できない俺の弱さだ。


 女にモテようという努力に精を出してると、むなしい気持ちも湧いてくるワケでさ。マメなのも、優しい態度も、レディファーストも、正直、作り物の態度だ。

 作り物の俺を好きになってるだけだろう、と僻んだ見方をしたりして。


「作ってない俺を好きでいてくれる女なんてのは、たぶんお前だけだもんなぁ。」

「そーだよっ、わたしだけが本当の虎太を知ってるんだからねっ。」


 自慢げに美姫は言って、いっそう俺の肩にくっついた。

 バーチャルよりも、やっぱり俺はリアルだな。うん。


「美姫、このまま帰るのって勿体ないと思わね?」

「ん? どっか寄ってく?」

 街にはそろそろイルミネーションが灯り、窓の外の通りは、賑やかな夜の顔を見せ始めていた。


 端末がけたたましく鳴り響く。ラインと呼ばれる、個人用の通信機器だが。

 誰だ?


「もしもーし?」

『景虎、何処をほっつき歩いてる、すぐにINして来い。事件だ。』

 これもゲームだったら良かったのに。


 パックス2からの通信が問答無用に"リアル"を告げた。



ながらくお付き合いくださり、有難うございました。

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久々に読んだけど面白かったです。
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