表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスゲで俺は最強スライム  作者: まめ太
最終章 サイドアタック オブ ウルフ
113/116

第七話 逆襲の狼Ⅱ

 怒りに燃える目で俺を睨んでいたルシフェルが、ふいに、何かに気付いたように視線を逸らした。

 俺のすぐ後ろだから、本当に視線だけが俺から、俺の背後へと移る。


 俺は今さら振り返らなくったって解かっている。リセットが起きたんだ。そういう指示を依頼しておいたからな。人質三人が解放されたことを確認の後、すみやかにラストダンジョンのリセットを行うように、と。


 俺からは、広場の外枠に陣取る二体のスフィンクスが描き出される様子が見えている。輪郭のラインが浮き上がり、くっきりとした多面体を表現し、さらに分割で細かなポリゴン描画が加わる。

 そして、表皮テクスチャが張り巡らされていく。絵の具で絵画を塗り込むように、淡い色が先に付き、そこから濃い色の模様が乗せられていく。最後に立体感を際立たせるためのハイライトが乗って、完成。


 止まった時間がいきなり動き出す。スフィンクスはゆったりと最初の一歩を踏み出した。

 俺の後ろでも、アホ犬が同じ過程を経て復活したことだろう。目の前の男の、驚愕の表情で解かる。

 元通り、だ。


「さぁ、残るはお前ひとりだ。俺に下された最終の指令を遂行させてもらう。……ルシフェルというキャラを操作するプレイヤーの、完全抹殺だ。」

「き、貴様……!」


「お前は自分の正体を知っているよな? 世界の趨勢はこう決めたんだ、誰かのスペアなんて存在には、消えてもらおうと。」

 闇から闇へ、だ。


「ふ、ふふふ……、はははは!」

 狂った、わけはねぇな。どうした突然。


「愚かだな、君は! 君の正体が割れた時に、我々が何の対策も取らなかったと思うのか!?」

 まぁ、思っちゃいねぇな。


 GSの奴等は仲間外れにされてたはずだから、独自で似たような"兵器"の開発を推し進めていても不思議じゃないわな。いずれの時点かは知らんが、ルシフェルも"景虎仕様"になってるってことか。

 まぁ、想定の範囲だ。


「チート能力が貴様だけの特権などと思うなよ! 景虎!!」


 よほど目立ちたがりなヤツらしい、今まで着ていたフルプレートアーマーが、色からデザインからサイズに至るまでがガラリと様相を変えた。一層に仰々しい姿になった。


 ぐん、とヤツの上背が伸びあがり、視線を合わせていた俺も釣られて首を上げる。巨大化したわけじゃない、下半身が馬に変化しただけだ。ケンタウロスモード、てか。テクスチャが描画され、白馬の身体にも仰々しい鎧が追加されていく。金の象嵌を施した白を基調とした派手なものだ。


 お前、それ、ラスボス仕様っていうんだよ。

 手にしていた剣は、馬上槍に変化した。また、遣い辛そうな武器をチョイスしやがったなぁ。

 ナメてんのか、老いぼれ。


 ルシフェルが頭上に槍を振り上げた。威嚇にしても……、ん?

 天空でチカリと何か光った、と、シャワーのように光線が降ってきやがる!


「ちっ!」

 舌打ち、そんで側転連続でうろついてたスフィンクスの腹の下へ。

 広場一帯にレーザーが降り注ぎ、雑魚エネミーを刺し貫いた。一瞬で、ボーンシリーズが全滅かよ!


 アホ犬はさすがに回避率チートのクソ仕様だけある、ほとんど避けきって無傷に近い。俺が盾にしたスフィンクスは幾筋かの光線に貫かれて、雑魚より数十秒ほど遅れて斃れた。


「巧く逃げたな、だが次はどうだ?」

 【ダメージゼロ】によって保護されているとはいえ、野郎もそれは承知のはずだ、攻撃を食らうのは拙い。

 何か二次攻撃で状態異常を仕掛けているはずだ、まずはリサーチ。


「ステータス・オープン! これでテメェの腐った腹の中まで見えりゃ世話ねぇんだけどよ!?」


 強制的に、オブジェクトの種類を問わずその設定欄を開くコマンドを実行。本来なら隠されてプレイヤーは見ることが叶わない類の情報もすべて暴露される。もちろん、外部侵入のチートキャラも含めてだ。

 やっぱり俺と同じで【ダメージゼロ】が付いてやがる。そんで、攻撃力はMAX99999、アホ犬以外は一撃か。


 【属性攻撃:時間停止:標的の動きを完全に封じ込める。】凶悪なコマンド付加してんじゃねーよ。

 振り向けば、アホ犬が痺れ状態でびくんびくんしてやがんのが見えた。


 設定変更してやる。【ツール】オープン、【プログラム工作:サブルーチン操作】

 バグれ。


「う!? 何をした!? 貴様!」

 空振りになって慌てたな、さてどう始末してやるか……、


「ふん、一つや二つの技を封じられたところで、痛くも痒くもないわぁ!!」

 ヤツの背後の空間が歪む。景色が渦を巻いて、中心が黒ずんだ後に穴が開いた。

 それって、無限の…(むにゃむにゃ、)


 黒い影が飛び出す。俺に襲い掛かった鋭い牙をかろうじて躱した。

 飛び出してきたのは、悪魔だ。


 無限のナンチャラを警戒してたってのに、ぜんぜん違うんじゃねーかっ!


「ははは! 幾らでも湧きだすぞ!!」

 言葉の通り、黒い歪の中央からは噴き出す水の如くに黒い魔物が侵入してくる。

 あっという間に広場には黒い翼をもつ悪魔が溢れた。


「面倒臭せーこと、してんじゃねぇよ!」

 【スロット】オープン、【武器エリア】全開放、こっちも簡易版『無限のナンチャラ』だ!


 空間に突如、剥き出しのインベントリを出現させた。ロッカー状態で整理整頓は万全だぜ。数千万という棚で、上下無限数ってくらいの数に昇るけどよ。俺の背中を拠点に広場を埋め尽くすべく、ありとあらゆる隙間にまで伸びていく黒いブロック体が、悪魔たちを押し潰し、引き千切っていく。


 テメェに出来ることは俺にも出来るんだよ!


「ちっ! 器用な奴だ!」

 ルシフェルは伸びてくる棚を避け、駆け上がり、隙間を突いて俺に仕掛けてくる。槍の先に丸く光源が集積され、何かのエネルギーが急激にチャージされていくのが見えた。


 【スロット】解除、【武器エリア】全放出。一瞬で広場を埋めた無数の棚が消え失せ、武器類がバラバラと地に落ち、山を築きあげていく。マシンガンをチョイス、スペースが広がりゃ避けるのは簡単だ。


 と思ったが、撃ち出されたレーザーはごん太サイズ。

 直径数メートルって感じで俺の周囲が明るく染まる。射程範囲内、極大レーザーが発射された。

 【座標演算】、【ルート測定】、【分解再構築可否計算】、【対応ベンチマーク測定】、……よし"可能"だ。


「消えた!?」

 ルシフェルは大仰に驚いてみせてくれた。俺はチート利用の"半ログアウト状態"で危機を回避したんだ。

 そんで、新たな出現場所は、お前の真後ろだ。


「う、うわぁぁ! バカな! なぜだ!?」

 突然、背中に乗った俺を見てルシフェルは恐慌を来たした。即座に俺は口を開く。


 手を突っ込めば、俺の本体が同化を解いて感触を露わにする。スライム状の俺を引っ張り出し、意識を本体へチェンジ。口の中から外へと出る、同時にバルーン状に広がり、ヤツを丸ごと呑み込んだ。

 【リモートカット】俺の中にある全てのプログラムは、外部システムよりシャットダウンされる。つまり、スキルセットはいずれの形もすべて処理用プログラムには届けられず、カットされる。


 ルシフェルの繰り出そうとする、今後一切の攻撃は無効化されたって事だ。


 コイツと俺との決定的な違いに気付いた。

 かつてルナのじいさんに聞いた、"景虎"クルーの事情ってやつだ。


『あまりに膨大なプログラム群を制御せねばならんからな、普通の脳みそでは扱いきれんのだ。』

 まさしく、その言葉の通りだった。


 俺に出来て、ルシフェルの野郎には出来ないって事が幾つかあるんだ。

 もっとも顕著なものは、複数のアプリケーションを同時に展開して使いこなすって事。

 コイツはこれが出来ない。


 リアルの脳髄が、それだけの処理能力を有していないって事だ。一般人の脳は普通、そうだって話だからな。

 書き取りしながら同時に暗算やれって言うようなモノで、人間の脳は同時に二つの事柄を処理できないもんなんだ、普通は。ごく稀に生まれてくる例外を除いて。


 要約すれば、"俺って天才、イェーイ"て話だな。

 純粋に脳みその差だ、新人類ナメんな。


「くそ、出せ、貴様! 何をしているか、解かっているのか!?」

 もちろん、充分に承知しているさ。


 貴様の暗殺だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ