第一話 13日目は金曜日Ⅰ
最初のページはたぶん二人称。自然に一人称へ移行します。
まぁちょっと聞いてくれよ。
こないだヒドイ目に遭ったんだよ、デスゲームに巻き込まれてさ。
知らない? VRMMOで時々話題になってるだろ? いいや、そんなユルい奴じゃなかったんだって。
まぁ、とにかく聞いてくれよ。
ああ。そうだ、それ。
VRゲームの危険性について、社会論争を巻き起こしたあの事件だ。俺はあの事件の生還者なんだよ。
◆◆◆
まず、どんなゲームをやってもごくごく最初の頃に遭遇するエネミー。
それがスライムだ。
俺がやってたネットゲームも最弱エネミーはこのスライムだった。
……なんで俺、あの日に限ってこんなモンのレベル上げしようなんて考えたんだろう。
そん時の俺、ぷるぷるの見た目がなんか美味しそうな水色ゼリーの物体になっててさ。それがスライムの形状ね。
ペットを数匹持てるゲームでさ。戦闘時には一緒に戦ってくれるAIなんだけどさ。
ペットを強化するために、時々はペットに入ってログインしなきゃならないんだけど。
レベル上げするつもりでスライムを選択したんだ。
だいたい、スライムなんてタダで貰えるペットってだけで、育てたところで最弱、使い道も皆無だしで、放置がデフォのペットでさ。放っときゃ良かったのに、俺はスライムにINして、いつものようにゲームを開始したんだよ。
そしたらさ、こういう時に限って、鯖暴走が起こりやがってさ。サーバー暴走、知ってるだろ? 知らない? 後で説明するよ。まずは聞いてくれ。
こっからは、そん時の状況のママで話すからさ。その方が臨場感あっていいだろ?
舞台になったゲーム世界は、中世ヨーロッパの風景っていうの? どっちかってったら、映画や童話でお馴染みの世界観っていう方が近いかも知れなくてさ。ドイツとかフランスの観光地あるじゃん、ああいう感じだ。
解からん? ドイツとフランスじゃ違い過ぎ? ああもう、その場その場でおいおい説明するから!
そん時は街の郊外にあたる森の中で……ああ、森っても、森林公園みたいなさ、明るいヤツでね。そこで俺は偶然に遭遇した女騎士に襲われて、真っ二つにされたんだけど。その話からね。
◆◆◆
俺はスライムを選択して、スライムでゲーム内をウロウロする羽目に陥った。
「あんたなんか敵じゃないのよ、どきなさいよ!」
おかげでこのザマですよ。ええ。
誰彼もなく、出会いがしらでいきなり襲われる羽目に陥った。もうこれで何度目になるやらだ。
今、俺の目の前にはちょっと可愛い系の金髪女騎士が居るわけだけどさ。目の端を釣り上げたその子に、出会いがしらで怒鳴りつけられた処だ。たぶん、モンスターと遭遇したって思ったんだろうけど。
よく見てくれりゃ、頭の上にちっさいけど性別アイコンあってエネミーじゃないって解かるようになってんだけど、そんな心の余裕はなくなってるってヒトがとにかく多いわけよ。
「やあっ!」
いきなり斬りつけられた。俺は真っ二つに切り裂かれて震える。プルプル……エネミーならこのまま消えるのがセオリーだ。
消え去ると思った女騎士が表情を緩めた。俺は霧のように霧散することに……なんちゃって。甘いんだよ。
この凶暴女め、俺に手出しした事を後悔させてやるぞ。
お仕置きだぁ!
「きゃあっ!?」
シルバーアーマーの隙間から、するりと滑り込んで生身の体にまつわりつく。脅威の二体同時コントロール。いや、半分ずつになっただけだけど。何度もこんな目に遭って斬られてるからな、複数同時に操れるって気付いたワケよ。6体まで操作可能なのは確認済み。それ以上はまだ解からん。自分じゃ斬れないからさ。
そんじょそこらのスライムだと思ったんだろうが、残念だったなぁ。
こちとらコイツのレベル上げは相当数やってんだ、他の雑魚エネミーとはわけが違うぜ。
へっへっへっ、なかなかのダイナマイト・ボディじゃないすか、お嬢さんん。
この、胸の肉づきとか。けど、腰がすこーし太いんじゃないかな? すりすり。
「ちょ!? やだなに、この変態スライム、出てきなさいよ!?」
武器を放り出して、慌ててお嬢さんが鎧ん中に両手を突っ込んだ。
野郎だったら鎧ごと飲み込んで窒息コースで地獄を見せてやるんだが、お嬢さんなら俺が個人的に天国だ。
捕まえようとする手をするりと掻い潜る、俺様の妙義をとくと見よ! てなモンだね。
堪りませんなぁ、へっへっ、とくら。 変態? それ、褒め言葉だから。
「や、やだ、そこダメ! や、嫌ぁー!!」
実況が出来ません、ゴメンナサイ。
さすがに10日以上もデスゲ状態で問答無用に襲われ続けりゃ、『はぐれスライム』から『やさぐれスライム』にジョブチェンジしたって仕方ねぇだろうが! こんくらいの役得は、傷付いた心の慰謝料だよ、慰謝料!
さんざん撫でまわした末に、最後の仕上げでくすぐり攻撃。ヘロヘロになったのを見計らって解放してやった。
「覚えてなさいよ! バカー!!」
武器も放り出したままお嬢さんは逃げてった。近くに仲間でも居たのかもな?
俺は変態とはいえ紳士な変態スライムを自称するので、お嬢さんたちの純潔は基本穢さないことにしている。
あくまでイタズラにとどまる範囲で天国を堪能するわけだ。これぞ変態の矜持!
単にさっきのお嬢さんがイマイチ好みと合致しないから、というだけではないんだぜ!
この状況下でも割と俺一人は余裕かましてたりする。デスゲームと言って、痛みを感じない俺には死の実感がほとんど無いからな。死ぬ可能性は限りなく低いし、いちいち誤解解くのも面倒くせーしで、もう悪党プレイと割り切ってる。
リアルの方もVR箇体に保護されてるし、心配はないけど、さすがに10日以上経ってるわけで少しは焦りも感じていたりする。
VRMMO、バーチャルリアリズム構築技術の進歩で生まれたネットゲーム。コンピュータ内部に電脳疑似空間が作られ、そこに疑似生命ではないリアルの人間が入り込めるようになった。
電脳空間にリアル生命をデータ化して送り込み、相互にデータ交換をする為の機械が、VR箇体だ。