1年に1回の金曜日
「紗綾久しぶり」
1年ぶりの墓参り。柔らかい春の光が俺と紗綾の眠っている場所を照らす。
「紗綾ビール買ってきたから一緒に飲もう?」
そう言って自分の缶ビールの蓋をあける。風の音しか聞こえない静かな空間。
これが俺の”恒例行事”
「今年もやっぱ忙しいよ」
こうやっていろんな出来事を順々に話していく。
「初のレギュラーの司会とかさ俺緊張しすぎちゃった。あと今年はまだ1回も森に行けてないんだよ」
もちろん返事が返ってくることなんてない。俺が話すのを止めればそこで話が途切れる。話すことは数えきれないほどある。でもその前に話すことがある
「俺さ紗綾に話さなきゃいけないことがあるんだ。」
微かに聞こえる波の音、子供のはしゃぎ声。
「あのさ、俺そろそろ新しい恋して良い?」
空になったビールの缶が風に倒され俺の足元に転がった。
言葉にすると悲しくて目の前がぼやけている。
「紗綾大好き。…大好きだった」
好きという気持ちは今もこれからずっと変わらない。
「俺さそろそろ前に進もうと思う。そうしないと駄目だと思う」
溢れかけの涙を右手で擦り、ここ最近で一番の笑顔を向けた。
「紗綾、絶対忘れないよ。また来年一緒にビール飲もうね。じゃあ俺帰るね。バイバイ」
空になったビールを片手に家へ帰った。