出会い
6年前、俺の最愛の人が突然目の前からいなくなった。
「じゃあまた来週の金曜日に!」
そう言って、別れたほんの数分後の出来事だった。病院に駆け付けた時に目のあたりにした現実。
全身傷だらけで静かに目を閉じている青白い顔を見ていられなくて、俺は病室を飛びだした。
神様は残酷すぎる。
隣に君がいないまま季節は何度も過ぎていった。あるものは俺の
『記憶』だけ。
仕事をしてても、テレビを見ていても、友達と話してても君の面影が俺から離れることはない。
でもそんな『記憶』はいつも俺を苦しめる。いつまでたっても前進しないダメな自分。だからさ、そんな『記憶』に“蓋”をした。
もうこれ以上辛くならないように、って。でもそんなとき俺は出会ってはいけない人に出会うことになる。
「初めまして。カメラマンの北山紗綾です。」
自分が出演するCMポスター撮影の打ち合わせをしようと会議室に行った時のことだった。
“紗綾”久しぶりに聞いた愛しい名前。永遠に閉めたはずの“蓋”が開いた気がした。
「紗綾?」
「えっ」
「あっ何でもないです。すいません」
何言ってるんだろう俺は、不意に思い出すあの笑顔。こげ茶色のロングヘアーで笑顔がかわいい子。そのくせサバイバルが好きでさ。休みの日には2人でよく行ったよね。
本当に大好きだった。“紗綾”のこと。
「篠塚さん?どうかされました?」
その言葉で八ッと我に返る。とっくに撮影の説明なんて終わっていた。
「あっなんだかボーッとしてたみたいで」
「マネージャーさんが外でお待ちですよ」
「あっはい。すぐに行きます。」
そう言うと貴方は急いで帰り支度をした
「では私はこれで」
私は頭を下げ家に帰った。初めて任された大きな仕事。
でもまさかCMキャラクターが篠塚さんだったなんて。
驚きと少し嬉しい気持ちが混ざっていた。近くで見た篠塚さんはやっぱりアイドルの顔でそういうのに疎い私でさえかっこいいと思った。
でもこの時振り返っていなければこんな辛い思いはお互いしなかったのかもしれない。
「あの、今度一緒にお食事でもどうですか?」
「はい。」
なんで一緒に食事なんか。全くあなたの心理がわからなかった。それでもいいと思ったのはその吸い込まれるような瞳に引き付けられたから。彼氏と別れたばかりだった私は自然と人を求めていたのかもしれない。
「紗綾ちゃんさ、最近嫌なことあったでしょ」
篠塚さんは相当お酒が入っているにも関わらず鋭いところをついてくる。
「よくお気づきで」
私も酔っていた。でもあんなこと軽はずみに聞くんじゃなかった。
「篠塚さんも嫌なことの1つや2つあるでしょう」
「あぁ、あるよ」
しばらくの沈黙が続いた。
「篠塚さん?」
「6年前ね…」
篠塚さんはぽつりぽつりと話し始めた。その目は過去を思い出すように遠くを見ていた。
「彼女が交通事故で亡くなったの」
「そうなんですか」
人間は悲しさを通り越すとこんな表情になるんだ。言葉では言い表せない複雑な心境。自分の軽率さに腹が立った。
「すいません。私、軽はずみであんなことを」
「いや、いいんだよ」
そう言って淋しそうに笑う。
「俺が勝手に話しているだけだからさ」
貴方は気づいていないかもしれないけど、今すごい苦しい顔してるんですよ。
「その子ね紗綾って言うんだ」
一瞬時が止まった気がした。でもその時を戻したのは篠塚さんだった。
「ごめんね。いきなり驚いたよね」
「私と同じですか」
「うん」
篠塚さんは淋しそうにうなずいた。
「なんかすいません」
私のせいで悲しい過去を思い出させてしまった。
「紗綾ちゃんが自己紹介したときね、一瞬亡くなった紗綾に見えたの。おかしいよね、髪形も身長も雰囲気も何もかも違うのに」
そう言ってる貴方はもう泣きそうで、無理しているのがすごく伝わってくる。
「あー俺かっこ悪。こんなこと話しちゃって」
「私が亡くなった紗綾さんの代わりじゃダメですか?」
私は自分でも何を言ってるのかわからなくなった。
酔いなんてとっくに覚めていた。