小さなリング
「思ったより早かったね」
結希くんはそう言って私を部屋に入れた。
「うん。家にいたから」
高城さんと飲んでいたなんて口が裂けても言えない。
「でも今日金曜日じゃないよ。結希くん。」
「あぁ今週の金曜日はちょっと用事があるから」
一瞬、今まで明るかった顔に淋しさが見えた気がした。
「結希くんどうしたの?」
私が聞くと結希くんはわかりやすい作り笑顔で
「いや、なんでも。ねえオムライス作ってよ!」
と言った。
「うん。じゃあスーパー行ってくるね」
私は何も聞けないままスーパーへ向かうしかなかった。
スーパーから帰ると、ソファーに座り込み右手を見つめている結希くんの姿があった。
その右手の中には...小さなリングが光って見えた。
そういえば、今週の金曜日って4月25日。
私はどうして気づかなかったのだろう。そう思い携帯のカレンダーを見ていると、
「紗綾?」
目の前に結希くんが立っていた。
「あっごめん。すぐオムライス作るね。」
「うん。早めでよろしく。」
そう言って再びソファーに座る結希くんの姿はものすごく悲しみに満ちていた。オムライスを食べ終わり、すこしくつろいでから部屋を出ようとしたときにふと、つぶやかれた言葉。
「ごめん」
その言葉が帰ってからもずっと頭から離れなかった。
私に言ったんじゃない。あのリングの持ち主。亡くなった彼女に対してでしょ?そう考えるとわかっているはずの心は余計締め付けられて行き場のないこの気持ちに憤りを感じる。自分勝手な私。
彼女の代わりとして結希くんのそばにいられるだけで最初は良かったのに。やっぱり人はだんだん求めるものが大きくなる。