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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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試作

キャラクターの名づけの重要性を考察するための試作

作者: 曲尾 仁庵
掲載日:2026/05/31

 むかしむかし、あるところに、あべしさんとひでぶさんが住んでいました。あべしさんは荒れ地を耕して野菜を作り、ひでぶさんは川で魚を獲って暮らしていました。あべしさんとひでぶさんはお隣同士で、暮らしは決して楽ではありませんでしたが、互いに助け合い、仲良く暮らしていました。




「うーん、困ったぞ」


 今日も荒れ地を掘り返していたあべしさんは、立てた鍬の柄にアゴを乗せてつぶやきました。春の空は澄み渡り、鳥の群れが軽やかに空を横切っていきます。雲がゆっくりと流れ、心地よい風が吹いていました。そこへ偶然、川へ向かう途中のひでぶさんが通りかかって声を掛けます。


「おや、どうしたんだい? そんな困った顔をして」


 あべしさんは振り返り、地面を指さして答えます。


「ここに大きな石が埋まっていてね。掘り返すことができずに困っているのさ」


 あべしさんの指が示す地面には、黒々とした大きな石が光沢を放っていました。ひでぶさんはあぜ道からひょいっと畑に入り、あべしさんに駆け寄ります。


「おや、これはちょっと、大きいねぇ」

「でしょう?」


 あべしさんは「あきらめるしかないかなぁ」とつぶやきます。腕を組み、「ふーむ」とうなっていたひでぶさんは、突然「よしっ」と声を上げると、


「鍬を貸してくれるかい?」


とあべしさんに言いました。あべしさんは少し戸惑いながら鍬を差し出します。それを受け取ったひでぶさんは、大きく息を吸うと、すごい勢いで地面を掘り始めました。


「うわわ、すごいや」


 その勢いにびっくりして、あべしさんは目を丸くします。ひでぶさんは埋まっている石の周りを膝の深さくらいまで掘ると、鍬を置いて、両腕で石を抱えて――


「よいしょっ!」


 そう言ってぽーんと石を放り投げました。ひと抱えもある大きな石が放物線を描いて春の空を飛んでいきます。ずしーんと地面が揺れ、石は畑の外に着地しました。


「すごいなぁ、ひでぶさん」


 あべしさんは感心したように拍手します。ひでぶさんは少し照れた様子で頭を掻きました。


「ありがとう、ひでぶさん」

「なんのなんの、役に立ててよかった。何かあったらまた言ってね」


 服についた土を払い、ひでぶさんは笑って去っていきました。さて、とつぶやき、あべしさんは荒れ地を耕す作業に戻ったのでした。




「うーん、困ったぞ」


 道端に腰を下ろし、ひでぶさんはしょんぼりと肩を落としました。季節は夏を迎え、強い日差しがじりじりと照り付けています。ひでぶさんの横には、春にあべしさんの畑から掘り出した大きな石がありました。あまりに大きなその石をぞんざいに扱うのがためらわしくて、あべしさんとひでぶさんは相談して石にしめ縄を結び、お祀りしています。


「おや、どうしたの? そんなしょんぼりした顔をして」


 畑仕事に向かう途中だったあべしさんが通りがかり、ひでぶさんに声を掛けます。ひでぶさんは顔を上げ、弱々しく答えました。


「釣り竿が折れてしまったんだよ。これじゃあ今日の漁は無理だなぁ」


 しかたないね、と力なく笑うひでぶさんを見て、あべしさんは腕を組み、しばらく「ふーむ」とうなっていましたが、「あっ」と何か思いついたように笑顔になると、


「ちょっと待ってて」


と言って来た道を戻っていきます。いったいどうしたんだろう、と首を傾げながら、ひでぶさんは大人しくあべしさんを待ちました。十分が経ち、ニ十分が経ち、三十分が経って、あべしさんは息を切らせて走ってきました。


「これ、使えないかな?」


 あべしさんが差し出したのは、少し古い型の、しかし立派で丈夫そうな釣り竿でした。ひでぶさんは目を丸くします。


「じゅうぶん使えると思うけど」

「じゃあ、差し上げます。私は本当に釣りが下手で、持っていても使えないから」


 ひでぶさんは慌てて首を横に振りました。


「こんな立派なもの、もらえないよ」

「いいから。どうせ親父の残したガラクタ箱に突っ込んでたものだし」


 あべしさんは釣り竿をひでぶさんに強引に押し付けます。少しの間迷っていたひでぶさんは、釣り竿を受け取り、あべしさんに頭を下げました。


「ありがとう、あべしさん」

「いいって。ひでぶさんにはいっぱいお世話になってるから、役に立ててよかった」


 にぱっと笑ってそう言うと、あべしさんは畑に向かって去っていきました。もらった釣り竿をぎゅっと握って、ひでぶさんは川に向かったのでした。




 季節は巡り、秋になりました。ひんやりとした風が赤く色づいた木々を揺らします。ぴーひょろーと鳶の鳴き声が響きました。収穫したお野菜をかご一杯に入れて、あべしさんは道を歩いていました。


「おや」

「あら」


 道の向こうからひでぶさんが来るのが見えて、あべしさんは足を止めます。ひでぶさんは大きな魚籠を持っていました。


「今からひでぶさんの家に行こうと思っていたんだよ」

「僕も、あべしさんの家に行こうと思ってた」


 あべしさんはかごの野菜をひでぶさんに見せます。


「今年最初の収穫なんだ」


 ひでぶさんは魚籠を持ち上げます。


「いい鮭が獲れたから」


 二人はぱちくりと見つめ合い、同時に吹き出します。


「一緒に食べようか」

「そうだね」


 二人は笑い合い、二人であべしさんの家に向かいます。ひでぶさんが鮭をさばき、あべしさんが野菜を刻んで、熱い石板に乗せて焼いていきます。みそとバターで味を付けると、香ばしい匂いが家中に広がりました。


『いただきます』


 二人はそう言って、楽しくご飯を食べて、日が暮れるまでたくさんのお話をして過ごしたのでした。


【次回予告】


 今日も慎ましく働くあべしさんとひでぶさん。そんな二人を、胸に七つの傷を持つ旅人が訪ねてきます。二人は旅人をもてなそうとしますが――


 次回、【あべしさんとひでぶさんと旅人】

 こうご期待!


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