表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

1-5 ニュース

朝。

カーテンはちょっとしか開いていない。

光もやる気がないみたいに、部屋の床をなめている。

「……今日って月曜?」

ソファに溶けたままのリツキが言う。

「昨日もそれ言ってたぞ」

テーブルの上で寝そべる小さな犬が、あくび混じりに返す。

「曜日って概念やんか?」

「概念で学校は休めへんぞ」

くりは前足でスマホをいじっている。

誰かも知らない人たちがテレビの中で偉そうに政治を語っている。

リツキは動かない。

動く気配もない。

その時。

【速報】という赤い文字が、ぬるい空気を切り裂いた。

『人気LIVE配信者、廃墟探索中に映像途絶』

リツキが間抜けな顔であくび混じりに呟く。

「また炎上商法ちゃうん」

「ライブ配信者なんて一律に炎上商法やろ」

「んなことないわ」

画面が切り替わる。

夜こ廃墟だ。

『なにこれ……ヤバ』

軽い声で笑っている。

ライトが壁を照らし、行き先をしめしているようだ。

落書きと剥がれた塗装。

水の音とノイズ。

「ちょ、今なんか――」

ガタン。

視点が揺れる。

床と壁が移された後、カメラが転がる。

机が照らされる。

白い紙に、黒い文字。

CRI_03

そこでノイズがかかる。

配信は、そこで途切れた。

部屋が静かになる。

リツキは、もう起き上がっている。

くりも動かない。

「……今の」

「見間違いちゃうよな……?」

「やんな……」

さっきまでの朝が、どこか遠い。

CRI_03

偶然にしては、整いすぎている。

くりの瞳が細くなる。

「俺等に関係あるんかな」

「冗談じゃない。気は確か?」

リツキはテレビを消そうとする。

指が止まる。

キャスターが続ける。

『配信者の川崎智也さんは現在も行方がわかっておらず――』

画面の端に、例の映像がもう一度小さく流れる。

CRI_03

今度は、はっきり見えた。

リツキの喉が鳴る。

「……俺等に何の関係があるっていうねん」

くりは何も言わない。

ただ、低く呟いた。

「始まってしまったな」

二人はほとんど無言でパソコンを開いた。

キーボードを叩く音だけがやけに大きい。

フォルダも履歴も、

ダウンロードもゴミ箱もない。

例のファイルは、どこにもない。

「一旦ポチに聞いとくか?」

「いや、そんな飲み会で一旦ビール行く?みたいなノリで言われても……」

リツキがツッコむ。

くりが静かに聞く。

「あのファイル、どこからダウンロードしたか心当たりないか?」

「わからん……」

本気でわからない。

記憶が曖昧というより、

その部分だけ、最初から存在しない感じ。

ほぼ諦めムードで、リツキはメール受信箱を開くとその瞬間。

二人とも、固まった。

件名一覧の中に、浮いている文字。

【面白いもの見た?】

差出人:不明

この文言とともに、例の配信の動画が送られている。

2人の背筋が凍る。

背筋アイスボックス夏にピッタリキャンペーンだ。

その下に、さらに怪しすぎる履歴。

「エロ画像送ります」

リツキの耳が赤くなる。

「……あ、これ最終的に送られんかったやつや」

くりが冷たい目で見る。

「お前の黒歴史は今どうでもいい」

スクロール。

添付ファイル:CRI_data.zip

「……送られてるやん」

くりがリツキの肩を叩く。

リツキはゆっくりクリックする。

解凍。

一瞬、画面がフリーズ。

カーソルが回る。

回って回って回って回る。

突然ブラックアウトする。

「おい」

電源が落ちる。

「……またポチ呼ぶわけにはいかんって」

「そんな犬に迷惑とか考えてんの?」

くりが嘲笑った

リツキが答える。

「お前には考えんけど、ポチも暇ちゃうやろ?」

リツキは深呼吸する。

ダメ元で電源コードを差し直す。

スイッチと同時に起動音が鳴る。

普通に立ち上がる。

「……は?」

最近のWindowsは素晴らしい。

デスクトップを開くとそこにあった。

見覚えのあるフォルダ、

極秘ファイル。

二人は顔を見合わせる。

怖いはずなのに、どこか、興奮している。

開くと、CRI_01、CRI_02、CRI_03がある。

03を開く。

空で真っ白。

ファイルはあるのに、

中身だけが消えている。

01を開く。

PDFに白い画面。

黒い文字で成功と書かれている。

その下に実験メモがある。

・Blue Holy WaterことDc²の副作用軽減

・血流安定

・適応反応確認

意味はわからない。

けれど、医学っぽい単語が並ぶ。

02を開く。

実験メモのみだった。

・知能指数上昇傾向

・握力強化

・言語理解能力の拡張

くりの尻尾が、ぴたりと止まる。

「……拡張?」

「レベルアップってことちゃう?」

「なるほど、ラーメンか」

「何がなるほどやねん。全然ちゃうやんけ」

だが、リツキが言う。

「これ……前は01と02見れんかったよな」

「そうそう」

「でも03はあったよな?」

「そうや」

沈黙が狭苦しい部屋を包む。

くりが言う。

「たぶん……これは共有ファイルや」

リツキの背中に冷たい汗が流れる。

「共有……?」

「誰かが書き換えている。同時進行で」

テレビのニュース音声が、まだ小さく流れている。

『警察は事件性を―――』

リツキが震える声で言う。

「……この実験、終わってへんのちゃうか」

くりの瞳が、静かに光る。

「終わっていない、かもしれんな……」

画面の中のCRI_03が、一瞬だけちらつく。

ノイズの真ん中にほんの一瞬文字が浮かぶ。

被検体、確保済み

すぐに消える。

「……今、見たよな」

「見た」

部屋の空気が、完全に変わる。

これは過去の記録じゃない。

今もどこかで続いている。

そしてCRI_03は消えた。

その瞬間――

ログイン名の横に、見慣れないユーザーが一瞬表示される。

Dominion

すぐ消える。

恐ろしいなんて話じゃない。

部屋は、やけに静かだ。

朝なのに。

朝じゃないみたいに。











CRI_03…だーれだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ